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2016.04.07
遺言書の文面全体に斜線を引く行為が、遺言の撤回にあたるとみなした判例
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
今回は、遺言者が、自筆証書である遺言書に、その文面全体の左上から右下にかけて赤色ボールペンで一本の斜線を引いた行為が、これが民法1024条前段の「遺言者が故意に遺言書を破棄したとき」に該当し、当該遺言を撤回したとみなした判例(最高裁平成27年11月20日判決)を紹介させていただきます。
そんなこと、一般的な感覚からして当然じゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
なぜ、このようなことが問題になるかというと、自筆証書の遺言の加除・変更をする場合については、民法968条2項に厳格な方式(自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。)が定められているため、元の文字が判別できる程度の抹消であれば、それは「遺言書の破棄」ではなく、「変更」にすぎず、民法968条2項の方式に従っていない限り、「変更」としての効力は認められず、元の文字が効力を有すると解する考えもあるからです。
本件の原審も、同様に考え、斜線が引かれた後も元の文字が判読できる状態である以上、元の遺言書は有効であると判断しました。
これに対し、最高裁は、「遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。」と判示しました。
あくまで、「遺言書を破棄」したとみなされるのは、遺言書の文面全体に斜線が引かれている場合であって、その一部に斜線が引かれているにすぎず、それが民法968条2項の方式を具備していない場合には、抹消の効力が否定される可能性が高いでしょう。
ところで、本件事案で、遺言書に斜線を引いたのは、本当に遺言者自身なのかと疑問に思いましたが、本件事案では、遺言者の経営する医院内の麻薬保管金庫から遺言書及びそれが入った封筒が発見され、これを金庫内に入れた人物は遺言者以外に考えられないという事情があったようです。
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2016.04.07
入学式 祝辞
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
先日、とある専門学校に来賓として招かれ、祝辞を述べることになりました。
お恥ずかしながら、その内容をご紹介させていただきます。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
本来、祝辞というのは、皆さんを祝福する、明るい話をするものですが、今日は少し厳しい話をさせていただきます。
皆さんは、当たり前のように高校を卒業して、専門学校に進学し、それが当たり前のことのように思われているかもしれませんが、今の世の中、それは当たり前のことではありません。
弁護士という仕事は、ものすごいお金持ちから、ものすごくお金に困っている人まで相手にしますが、 今の日本はどんどん格差社会が進行し、貧富の差が大きくなっていると感じます。お金がなくて、食べものが買えず、制服が買えなくて、中学校にも通えないという家庭もあります。
私も、実際に、毎日ネットカフェで寝泊まりをしたり、お金がなくて3日間ゴハンを食べていないという20代の男性に会ったことがあります。 また、経済的余裕がなく、中学を出たら高校には行かずに働くんだと言っていた娘さんもいました。
たとえぜいたくはできなくても、食べものに困ることなく、専門教育を受けられるということは、とても恵まれた、幸せなことなんです。
これまで愛情豊かに皆さんをはぐくみ、進学の機会まで与えてくれた、保護者の方々に対する、感謝の気持ちを忘れないで下さい。
では、その貴重な機会を、どう活かせばよいでしょうか。
これから過ごす1〜2年間は、自分の将来のための、投資の時間です。 この間、努力をして、結果を出せば、その分将来のリターンは確実に大きくなります。
なりたい自分になるには、とてもたくさんのエネルギーを必要としますし、つらい思いをするかもしれません。でも、後できっと、頑張って良かったと思えるときがやってきます。
今、皆さんは、ものすごく将来の可能性がある状態です。 しかし、その可能性は時間が経てば経つほど、どんどん狭くなっていきます。
私みたいな、おっさんになると、今から、なりたい自分になりたいと思っても、それは簡単なことではありません。
今から、1〜2年後に、皆さんは、自らが目指す専門の仕事についています。その仕事に必要な知識とスキルを身につけて下さい。 ここでの学校生活は、これからまだ50年以上もある、皆さんの今後の人生に重大な影響を及ぼします。 くれぐれも悔いの残らないように過ごして下さい。
最後に、皆さんが充実した学校生活を送られることを祈念いたしまして、私からのお祝いの言葉にかえさせていただきます。
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2016.04.04
桜満開 〜目黒川
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
春らしい暖かさが続き、ついに桜が満開になりましたね。
私は、この数年、目黒川の桜を観に行っています。
ここのお花見の特徴は、数㎞に渡って桜が咲き誇る、川沿いの道を散策しながら、楽しめるところです。
座っての宴会はできませんが、その分騒がしい酔客もおらず、清楚なソメイヨシノをめでながら、川沿いのショップ巡りをすることができます。
もちろん、中目黒周辺のお店(但し、週末は混雑しています)で食事をするもよし、点在する出店(ワインや、ソーセージ、ポテトといったおしゃれな出店が多い)でテイクアウトするもよし、まだ今週いっぱいは楽しめると思いますので、皆様もお時間があれば、是非お出かけ下さい。
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2016.04.01
「忘れられる権利」 〜ネット検索結果の削除を認めた事例
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
女子高校生に対する児童買春の罪で、3年余り前に罰金50万円に処せられたことのある男性が、グーグル検索で自分の住所と氏名を入力して検索すると、その逮捕歴に関する記事が検索結果として表示されてしまうことから、「更生を妨げられない利益」が違法に侵害されているとして、グーグルに対し、検索結果の削除を求める仮処分を申立て、認められました。今回は、その決定(さいたま地裁平成27年12月22日決定)をご紹介させていただきます。
裁判所は、まず検索エンジンに対する検索結果の削除請求を認めるべきか否かは、諸般の事情を総合考慮して、更生を妨げられない利益について受忍限度を越える権利侵害があるといえるかどうかによって判断すべきであるとしました。
これに対し、グーグル側は、検索結果の削除は、元サイトや検索結果の表示内容が明らかに社会相当性を逸脱することが明らかで、元サイトの管理者等に表現の削除を求めていては回復しがたい重大な損害が生じるなどの特段の事情があるときしか認められるべきではないとか、元サイトへの管理者等への削除請求を原則とすべきであるなどと主張しましたが、これら主張は認められませんでした。
その上で、裁判所は、一度は、逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえども、人格権として私生活を尊重されるべき権利を有し、更生を妨げられない利益を有するのであるから、犯罪等の性質等にもよるが、ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有するべきであると判示しました。
そして、わが国の刑事政策では、公的期間であっても前科に関する情報を一般に提供するような仕組みをとっていないこと、インターネットが広く普及した現代社会においては、ひとたびインターネット上に情報が表示されてしまうと、その情報を抹消し、社会から忘れられることによって平穏な生活を送ることが著しく困難になってしまうことも、考慮して判断する必要があるとして、罪を償ってから3年余りが経過した男性について、検索エンジンの公共性を考慮しても、更生を妨げられない利益が社会生活において受忍すべき限度を越えて侵害されているとして、検索結果の削除を認めたのです。
なお、裁判所は、保全の必要性について、当該検索結果を削除することは、グーグルにおいて日頃行っている削除依頼に対する任意の対応と大きな違いはなく、情報処理システム上の対処が必要なだけで、グーグルに実質的な損害を生じさせるものではないとも判示しています。
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2016.03.16
弁論準備手続きとは?
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
民事訴訟が始まって何回かの裁判期日は、口頭弁論といって公開の法廷で審理が行われますが、原告と被告との間で、主張と反論が1、2往復したあたりで、弁論準備手続きに付されるのが一般的です。
この弁論準備手続きというのは、公開の法廷ではなく、書記官室近くにある準備室(小さな会議室のような部屋)において、裁判官と原告・被告両当事者がテーブルを囲んで、争点や、今後の裁判の進め方について話し合いをする手続きです。文書の証拠調べをすることもできます(民事訴訟法第170条2項)。
何回か期日を重ね、主張や立証もほぼ尽きると、和解についての話合いが行われることもあります。
弁論準備手続きは、訴訟当事者だけでなく、会社の担当者や、当事者の付き添いで来た親族等も傍聴することができます。公開ではないのに、随分緩やかに傍聴できるんだなぁと今まで思っていましたが、民事訴訟法にちゃんと根拠条文がありました。第169条2項に「裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生じるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない。」とあり、当事者が申し出た者については、原則、傍聴を許さなければならないんですね。
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2016.03.11
不動産売買の手付解除
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
近年、不動産取引において、買主が手付解除の申し入れをしたのに対し、売主から、既に履行に着手しており、手付解除はできないと主張され、争われることが多くなっています。
民法第557条1項には、「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。」旨定められていますが、この「履行の着手」の具体的な判断基準が必ずしも明らかでないことから、問題となるのです。
判例(最高裁昭和40年11月24日判決)は、この条項の趣旨を、履行に着手した当事者が不測の損害を蒙ることを防止するためのものと解し、「履行の着手」を「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」と判示しています。
そして、「履行ノ着手」に当たるか否かについては、当該行為の態様、債務の内容、履行期 が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきである。」と判示しています(最高裁平成5年3月16日判決)。
売主に「履行の着手」があったと認められた事例として、以下のものがあります。
・ 売買の対象建物が賃貸されており、売買契約上、所有権を買主に移転するまでに、売主(賃貸人)が賃借権等を消除する義務を負っていた場合に、売主が賃借人との間で、売買物件の賃貸借契約の明渡・立退料支払い合意、残置物件等買取合意をしたとき(東京地裁平成21年10月16日判決)
・ 売主が、道路を含む隣接土地の境界を確定する作業や、転居先のリフォーム工事の着手をしたとき(東京地裁平成21年9月25日判決)
・ 売主が、売買の対象建物に設定された抵当権を抹消する義務をおっていた場合に、抵当権を消滅させるために借入金の全額を返済したとき(東京地裁平成21年11月12日判決)
他方、売主に「履行の着手」があったことを否定した事例として、以下のものがあります。
・ 売買契約締結の当日に行われた鍵の交付(転売目的で売買契約を締結した買主が販売活動を行う便宜のためのものであり、履行期以前に不動産の引渡しを受ける趣旨で鍵の交付を受けたものでないことは明らかであるとした。東京地判平成20年6月20日判決)
・ 売主が売買契約の履行期日の3日前にした、司法書士への登記手続の委任、固定資産評価証明書の取得、領収証の作成(単なる準備行為にすぎず、「履行の着手」には該当しないとした。東京地裁平成17年1月27日)
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2016.03.09
親権者の変更が認められる場合とは?
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
民法第819条6項には、「子の利益のため必要があると認められるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」と定められています。
その必要性を認定する具体的事情として、親権者変更審判では、監護体勢の優劣、父母の監護意思、監護の継続性、子の意思、子の年齢、申立の動機・目的等が挙げられています。
また、比較衡量の基準として、①母親優先の原則、②監護の継続性(現状尊重)の原則、③子の意思尊重の原則、④兄弟姉妹不分離の原則等が考慮されています。
上記②が重視されており、親権者が子を監護していない場合に、子の監護者が親権者になるために親権者変更の申立をする場合には、変更が認められるのがほとんどであると言われています。
福岡高裁平成27年1月30日決定も、親権者の変更を認めた裁判例の一つですが、「親権者変更の必要性は、親権者を指定した経緯、その後の事情の変更の有無と共に当事者双方の監護能力、監護の安定性等を具体的に考慮して、最終的には子の利益のための必要性の有無という観点から決せられるべきものである。」と判示しています。
その上で、未成年者の子供らが、親権者である母親ではなく、父親とその両親に監護養育され、安定した生活を送っていること、婚姻生活中、母親は食事の世話等はしていたが、夜間のアルバイトをしていたこともあって、子の幼稚園の欠席日数も少なくなかったこと、母親が親権者でありながら保育料の支払いをしていなかったこと、母親に監護補助者が存在せず、父親と対比して監護養育に不安があること、母親が婚姻期間中に不倫をしていたこと等から、母親から、父親への親権者の変更を認めました。
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2016.03.03
事務所近くのおすすめランチ④ さ和長「そばセット」
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
事務所隣の特許庁前の大通りを渡って、一つ路地に入ったところに、粋なおそば屋さんの「さ和長」があります。
ここは、日替わりのそばと炊き込みごはんがセットになったランチメニューがあるのですが、今日はひな祭りですので、何か特別なものが食べられるのでは?と期待して行ってみたら、やはり当たりでした。
レンコン等の入ったお稲荷さんと鯛の手まり寿司に巡り会えました!
今日のおそばは、ちょっと時期が早いですが、冷やしたぬきそばです(暖かいそばも選べますよ)。
この「さ和長」、そば屋の出汁で作った濃厚なカレー南蛮そばもお勧めなのですが、そのご紹介はまたいずれかの機会に。
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2016.02.26
マンション管理組合によるバルコニーの修補義務を否定した事例
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
本日は、マンション管理組合による、バルコニーの修補義務を否定した裁判例(東京地裁平成27年7月17日判決)をご紹介させていただきます。
Xは、マンション10階部分の専有部分(本件居室)を購入しましたが、本件居室に接するバルコニー(共用部分)があり、Xが専用使用権を有していました。
ところが、そのバルコニーには透明の手すり用ガラスが設置されており、そのガラスには購入当時から複数箇所にシミのように見える部分(本件不具合)があり、清掃等によって除去できない状態でした。
そして、マンションの管理規約には、共用部分の管理は、原則としてY管理組合がその責任と負担において行い、バルコニー等の管理のうち通常の使用に伴うものは専用使用権を有する者がその責任と負担において行う旨定められていたことから、Xは、Y管理組合が共用部分にあるバルコニーの本件不具合を修補する義務を負っていたにもかかわらず、その義務を怠ったと主張して、Y管理組合に対し損害賠償請求の訴訟を提起しました。
これについて裁判所は、Y管理組合が共用部分を適正に管理する義務を負っているものと解されるとしても、共用部分に存在する不具合の全てについて、その程度等にかかわらず、修補をする義務があるということはできず、不具合の程度や修補のために生ずる費用負担の程度に照らし、合理的と認められる範囲で修補等の対応をすれば足りるとしました。
その上で、本件不具合は、それによって本件居室からの眺望に若干の影響が生じることは否定できないものの、その程度は限定的なものと認められ、その他本件居室及び本件バルコニーの通常の使用に支障を生じさせるものとは認められない一方、本件不具合を修補するには、バルコニーガラスの交換を要し、少なくとも85万円の費用を要するから、Y管理組合に本件不具合の修補をする義務を負わせることは、本件不具合によって受けるXの不利益の程度に比して、Y管理組合に過分の経済的負担を強いることになるから、Y管理組合にそのような義務があるということはできない旨判示し、Xの請求を棄却しました。