霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

女子高校生に対する児童買春の罪で、3年余り前に罰金50万円に処せられたことのある男性が、グーグル検索で自分の住所と氏名を入力して検索すると、その逮捕歴に関する記事が検索結果として表示されてしまうことから、「更生を妨げられない利益」が違法に侵害されているとして、グーグルに対し、検索結果の削除を求める仮処分を申立て、認められました。今回は、その決定(さいたま地裁平成27年12月22日決定)をご紹介させていただきます。

 

裁判所は、まず検索エンジンに対する検索結果の削除請求を認めるべきか否かは、諸般の事情を総合考慮して、更生を妨げられない利益について受忍限度を越える権利侵害があるといえるかどうかによって判断すべきであるとしました。

 

これに対し、グーグル側は、検索結果の削除は、元サイトや検索結果の表示内容が明らかに社会相当性を逸脱することが明らかで、元サイトの管理者等に表現の削除を求めていては回復しがたい重大な損害が生じるなどの特段の事情があるときしか認められるべきではないとか、元サイトへの管理者等への削除請求を原則とすべきであるなどと主張しましたが、これら主張は認められませんでした。

 

その上で、裁判所は、一度は、逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえども、人格権として私生活を尊重されるべき権利を有し、更生を妨げられない利益を有するのであるから、犯罪等の性質等にもよるが、ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有するべきであると判示しました。

 

そして、わが国の刑事政策では、公的期間であっても前科に関する情報を一般に提供するような仕組みをとっていないこと、インターネットが広く普及した現代社会においては、ひとたびインターネット上に情報が表示されてしまうと、その情報を抹消し、社会から忘れられることによって平穏な生活を送ることが著しく困難になってしまうことも、考慮して判断する必要があるとして、罪を償ってから3年余りが経過した男性について、検索エンジンの公共性を考慮しても、更生を妨げられない利益が社会生活において受忍すべき限度を越えて侵害されているとして、検索結果の削除を認めたのです。

 

なお、裁判所は、保全の必要性について、当該検索結果を削除することは、グーグルにおいて日頃行っている削除依頼に対する任意の対応と大きな違いはなく、情報処理システム上の対処が必要なだけで、グーグルに実質的な損害を生じさせるものではないとも判示しています。