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2021.07.02
【労務管理】人事評価の違法性を否定した裁判例
虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。
今回は、従業員に対する査定制度の結果に基づいて賞与・給与の額が決定されていた場合に、その査定制度やそれに基づく人事評価についての違法性を否定した裁判例(横浜地裁令和2年3月24日判決)をご紹介させていただきます。
なお、当該裁判例では、個人面談における、上司による従業員に対する退職勧奨の違法性がメインで争われており、慰謝料として20万円が認容されています。
■査定制度に関する原告の主張
被告である会社には、グローバル・パフォーマンス・マネージメント(GPM)と呼ばれる評価制度が導入されていましたが、これについて、原告である従業員は、
・GPM評価制度が相対評価であること
・評価自体が上長の「期待」という主観的要素を基準としていること
・評価者が上長1名のみであり複数の評価者による客観的評価が担保されていないことなどから、GPM評価制度が不公正な制度であり、制度自体が違法なものであると主張しました。
■査定制度に関する裁判所の判示
これに対し、裁判所は、
・人事評価において、相対評価を採用することが、およそ直ちに違法となるか自体疑問がある
・その点を措くとしても、GPM制度が相対評価であると認めるに足りる的確な証拠はない
・少なくとも、原告に対する評価は他の従業員と比較してされているわけではないから、原告に対する人事評価が相対評価であるから違法であるとの原告の主張は、その前提を誤るものであって採用できない。・従業員が従事する業務の内容及び性質によっては、客観的に算出することができる数値等のみによってその業務の正当な評価を行うことができない場合があることは明らかであり、評価基準に主観的な要素が含まれているからといって、直ちにこれを不公正で違法なものということはできない。
・そもそも被告のGMP評価における「期待」というのは、上長の純粋に個人的・主観的な期待を意味するものではなく、その役職に対して一般的・客観的に期待されるレベルを意味するものと解するのが相当である。
・被告のGPM制度においては、まずは直属の上長が評価を行い、その後、上位上長及び人事部門を入れた処遇会議において、上長が評価の理由について説明し、上位上長及び人事部門が承認をすることにより、最終的な評価が決定されるのであるから、上長1名のみによる恣意的な評価を許容するものであるとも認められない。
したがって、GPM評価制度そのものを不公正かつ違法な制度であるということはできないと判示しました。
■各年度の人事評価について
また、会社による最終考課は、原告が
・会議に出席した際に意見を述べなかったこと、
・業績検討会議における報告内容が検証不足であったこと、
・作業の引継ぎが不十分であったこと、
・マニュアル連携業務の実質的な取りまとめ作業を部長報告も含めて関連子会社に任せたこと、
・社内サイトにおける活動を実施するための仕組みを運用に乗せることができなかったことなどをその理由とするものであり、原告が外されたと主張する業務を行わなかったことや、原告の担当した業務量が少なかったことを理由とするものとは認められないから、成果を上げる前提を欠いていたのに低い評価をされたという原告の主張は当たらないとして、
各年度のGPM評価は、人事評価に関する使用者の裁量を逸脱濫用したものとは認められないと判示しています。■人事評価の裁量権
賃金の決定、計算方法等は、就業規則の絶対的必要的記載事項であり(労働基準法89条2号)、就業規則(給与規定)中に、査定を行って賃金や賞与の額を決定する旨の査定条項が置かれている場合があります。
人事評価は、使用者の裁量的判断に委ねられており、その裁量権を逸脱・濫用した場合でなければ、違法とはなりません。
当該裁判例は、人事評価について、使用者の裁量権の逸脱・濫用はないと判断した一事例です。