不動産問題

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    2021.06.18

    【賃貸借】オフィスの原状回復義務

    オフィスの原状回復

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近、オフィスの賃貸借契約に関し、どこまで原状回復をする必要があるのかというご相談がありましたので、今回は、裁判例を概観しながら、オフィスの賃貸借契約における原状回復の範囲や、諸問題について説明させていただきます。

     

    居住用のアパート・マンションと異なり、オフィスの賃貸借に関しては、消費者保護を考慮する必要がありませんし、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借では、比較的、賃借人の原状回復義務が認められやすい傾向にはあります。

     

    しかしながら、実務的には、オフィスビルが新築か中古か、オフィスビルの規模、原状回復条項の内容等を個別に検討する必要があります。

     

    ■通常損耗・汚損についても原状回復義務を負うか?


     

     

    (東京高裁平成12年12月27日判決)

     

    当該判決は、以下のように判示して、オフィスビルを新築の状態で借り受けた賃借人には、「契約が終了するときは、賃借人は賃貸借期間終了までに造作その他を契約締結時の原状に回復しなければならない。」旨の原状回復条項に基づき、通常の使用による損耗、汚損をも除去し、建物を賃借当時の状態にまで原状回復して返還する義務があるとしています。

     

    一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが、かかる特約がなされる理由である。

     

    もしそうしない場合には、原状回復費用は自ずから賃料の額に反映し、賃料額の高騰につながるだけでなく、賃借人が入居している期間は専ら賃借人側の事情によって左右され、賃貸人においてこれを予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があると考えられる。

     

    (最高裁平成17年12月16日判決)

     

    しかしながら、その後、最高裁平成17年12月16日判決は、次のように判示しました。

     

    賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。

     

    それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。

     

    そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。

     

    これは居住用賃貸借のケースですが、賃貸借の契約の本質から論じており、その考えは、オフィスの賃貸借にも適用されると考えられます。実際、次の大阪高裁判決をはじめ、多くの下級審裁判例において、最高裁平成17年判決の法理が、オフィスの賃貸借にも適用されることが認められています。

     

     

    (大阪高裁平成1 8年5月23日判決)

     

    賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであって、営業用物件であるからといって、通常損耗に係る投下資本の減価の回収を、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行うことが不可能であるということはできず、また、被控訴人が主張する賃貸借契約の条項を検討しても、賃借人が通常損耗について補修費用を負担することが明確に合意されているということはできない。

     

    (東京簡裁平成21年4月10日判決)

     

    また、東京簡裁の上記判決は、次のように判示して、オフィスビルの賃貸借においても、賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるためには、明確な合意が必要であるとしています。

     

    オフィスビルの賃貸借契約においても、通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、原則として、賃料の支払を受けることによって行われるべきものである。賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることは賃借人にとって二重の負担になるので、オフィスビルの賃貸借契約においても、賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるためには、原状回復義務を負うことになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、賃貸人がそのことについて口頭で説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解すべきであり、このことは居住用の建物の賃貸借契約の場合と異ならないというべきである。

     

    (東京簡裁平成17年8月26日判決)

     

    東京簡裁平成17年8月26日判決は、次のように判示して、事務所としての利用であっても、利用実態として、居住用の賃貸借契約と変わらないような場合には、ガイドラインに沿って原状回復費用を算定すべきとしています。

     

    東京高裁平成12年12月27日判決における賃貸物件は保証金1200万円という典型的オフィスビルであり、しかも新築物件である。それに比して、本件物件は、仕様は居住用の小規模マンション(賃貸面積34.64㎡)であり、築年数も20年弱という中古物件である。また、賃料は12万8600円、敷金は25万7200円であって、事務所として利用するために本件物件に設置した物は、コピー機及びパソコンであり、事務員も二人ということである。このように本件賃貸借契約はその実態において居住用の賃貸借契約と変わらず、これをオフィスビルの賃貸借契約と見ることは相当ではない。すなわち、本件賃貸借契約はそれを居住用マンションの賃貸借契約と捉えて、原状回復費用は、いわゆるガイドラインにそって算定し、敷金は、その算定された金額と相殺されるべきである。

     

    ■原状とはスケルトン状態か?オフィスの標準仕様か?


     

     

    東京地裁平成29年3月27日判決判決は、賃貸借契約締結前の状態がスケルトン状態であったのに対し、契約書案の別紙区分表には、具体的なオフィスの標準仕様が定められており、どちらの状態に戻すのが原状回復かが争われた事案につき、

     

    契約が定める原状回復義務は、「区分表における標準仕様」を「原状」とみなして、これを前提とする原状回復義務を賃借人に負わせるものであるところ、この区分表の標準仕様としては、オフィス仕様の建築・内装、設備が具体的に指定されており、かつ、この区分表は、契約書(案)の別紙として事前に賃借人の取締役にメール送付されていることが認められるるとして、賃借人は、原状回復とは契約締結前の状態(スケルトン状態)に戻すものにほかならないと主張するが、これと異なる明示の合意がされている以上、当該合意に従うべきことは当然であり、賃借人の上記主張は採用できないとし、賃借人は、原状回復義務として、賃借人の主張するスケルトン状態への回復ではなく、賃貸人の主張するオフィス仕様に変更する工事を行う必要があったというべきであると判示しています。

     

    ■賃貸人は、未施工の原状回復費用を保証金から控除できるか?


     

     

    東京地裁平成29年9月6日判決は、原状回復条項には、賃借人が建物の明渡し時に原状回復の処置を執らなかったときは、賃貸人が賃借人の費用で原状回復の処置を執ることができる旨を定められていたが、賃貸人が原状回復工事をすることなく新賃借人に建物を貸し渡し、新賃借人が新内装工事をし、賃貸人が原状回復費を現実に支出しなかったという事案ですが、

     

    未施工の原状回復工事に係る原状回復費を保証金から控除することができると解する合理的な理由は見当たらないとして、賃貸人が、未施工の原状回復費用を保証金から控除することを否定しています。

     

    ■賃貸人が賃借人の代わりに行った原状回復工事の費用は少しでも安価でなければならないか?


     

     

    東京地裁平成29年1月18日判決は、原状回復工事は、本来であれば賃借人において行うべき工事を賃貸人が行ったものであり、賃貸人において少しでも安価な費用で工事を行う義務があるとはいえないから、その費用が不相当に高額でない限り、原状回復費用を敷金から控除することが許されると判示しています。

     

     

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    2021.06.16

    【不動産】公有地の時効取得に関する判例等

    公有地の時効取得

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近、公有地の時効所得の可否が問題となるご相談を受けましたので、今回は、判例等をご紹介させていただきます。

     

    結論から申し上げますと、公有地でも、公用が廃止されていれば、時効取得することができます。

     

    公用の廃止は、明示的なものに限らず、黙示的なものでも構いません。

     

    ただし、公有地の取得時効が認められるためには、占有者が、自主占有を開始した時までに(黙示的にも)公用が廃止されていなければなりません。

     

    また、占有者の行為によって公有地としての形態、機能を失ったにすぎないような場合には、公有地として維持すべき理由がなくなっていたとはいえません。

     

    ■ 黙示的な公用廃止が認められる条件


     

     

    黙示的な公用廃止に関しては、リーディングケースとなる、最高裁昭和51年12月24日判決がありまして、

     

    公共用財産が、

     

    ① 長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、
    ② 公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、
    ③ その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されることもなく、
    ④ もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合

     

    には、右公共用財産については黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げないと判示しています。

     

    ■ その他の最高裁判例


     

     

    (最高裁昭和52年4月28日判決)

     

    対象土地を隣接地とともに買い受け、所有の意思をもつてその占有を始め当時、対象土地は、既に隣接地と一体をなして宅地の一部と化し、道路として利用されることもその必要もなくなっていたこと、その後間もなく対象土地と隣接地に跨って二棟の建物を建築し、当初の占有者の死亡後も対象土地はその承継人らによって建物の敷地の一部として平穏かつ公然に占有を継続されてきたが、現在に至るまで対象土地が道路として利用された形跡は全く存しないことが認められるから、対象土地は黙示的に公用が廃止されたものというべきであると判示しています。

     

    (最高裁平成17年12月16日判決)

     

    長年にわたり当該埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置され、公共用財産としての形態、機能を完全に喪失し、その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、これを公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、もはや同項に定める原状回復義務の対象とならないと解すべきであり、竣功未認可埋立地であっても、上記の場合には、当該埋立地は、もはや公有水面に復元されることなく私法上所有権の客体となる土地として存続することが確定し、同時に、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の対象となるというべきであると判示しています。

     

    (最高裁昭和61年12月16日判決)

     

    ちなみに、黙示の公用廃止が問題になった事案ではなく、満潮時に海面下に没し,干潮時に海面上に現れる干潟が民法86条1項の土地に当たるか否かが争われた事案において,上記最高裁判決は、

     

    海は,特定人による排他的支配の許されないものであること,現行法上,海の一定範囲を区画してこれに所有権を設定することを認めた実定法規はないことなどを理由に,海は,海水に覆われたままの状態では,所有権の客体たる土地に当たらないと判示しています。

     

    ■ 肯定した裁判例


     

     

    下級審裁判例のうち、公有地の時効取得を認めたものとしては、次のものがあります。

     

    (大阪高裁平成15年6月24日判決)

     

    控訴人らが、国有の里道の一部について取得時効を主張し、国に対して、その所有権の確認を請求した事案において、旧国鉄が新幹線用地の代替地として係争地を含む土地を提供する必要があったことから、国としては、係争地については、いずれ明示の公用廃止をする意思であり、そのために旧国鉄による係争地の整地を了承・承認していたものと考えるのが自然かつ合理的であるから、係争地について黙示の公用廃止がされたものと認めるのが相当であるとして、取得時効の完成を認めています。

     

     

    (東京地裁平成10年2月23日判決)

     

    当該道路上に建物が存在し、その東端がコンクリート壁で閉鎖されている以上は、当該道路は道路としての形態をもはや有してはおらず、また、道路としての機能も失われている、付近の建物が当該道路を必要としていない現状からして、黙示的に効用が喪失されたと認められると判示しています。

    なお、土地の占有者が、所有権者である国に対し、いったんはそれらの払下げを受けることを希望する旨の意向を表明した後に、取得時効を援用する旨の意思表示をした場合について、占有者が時効を援用するに至ったのが国から払下げを拒否されたためであるとの事情が認められることを理由に、占有者は時効援用権を喪失していない旨判示しています。

     

    (東京地裁昭和63年8月25日判決)

     

    係争地付近は完全に宅地化されており、それぞれの居住住民の敷地のほかに周辺に道路が存在したことをうかがわせる痕跡すらない状況にあることが認められ、係争地は、公共用財産としての形態、機能を全く喪失しており、前所有者の時代以前から引き続き私人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのために実際上公の目的が害されることもなかったことが明らかであるから、もはやこれを公共用財産として維持すべき理由がなくなったものというべきであり、係争地については黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の対象となりうるものと判示しています。

     

    ■ 否定した裁判例


     

     

    他方、下級審裁判例のうち、公有地の時効取得を認めなかったものとしては、以下のものがあります。

     

    (東京高裁平成26年5月28日判決)

     

    当該裁判例は、次のように判示しています。

     

    本件の市有通路のように、予定公物であって、現に道路としての形態及び機能を有しており、かつ黙示の公用開始決定があった道路は、取得時効期間の起算点たる占有開始の時までに黙示的に公用が廃止されたと認められるような特段の事情がない限り、取得時効の規定の適用がない(取得時効が成立しない。)と解するべきである。なぜならば、このような財産は、現に公共の用に供されている公有財産であるので、取得時効の規定の適用に関しては、実質的には行政財産と同じように扱うのが適当であるからである。

     

    本件についてこれをみるのに、係争地(構築物敷地部分を含む。)は、被控訴人が構築物を設置して構築物敷地部分の排他的占有を開始するまでの間、道路としての形態、機能を維持して公衆の自由な通行という公共目的に供用され続けていたにもかかわらず、被控訴人による構築物敷地部分の排他的占有開始により、公衆の自由な通行の妨害という公共の利益に反する事態が現実に発生したほか、被控訴人の時効取得を認めると構築物敷地部分の道路法上の道路(行政財産)としての供用開始という公共目的が実現不可能になるという事情が認められる。そうすると、係争地(構築物敷地部分を含む。)は、市有地となってからの構築物の設置までの期間の占有開始を原因とする取得時効を主張しても、取得時効の規定の適用はなく、取得時効が成立しないというべきである。

     

    (さいたま地裁平成17年6月8日判決)

     

    当時、水路状の窪地が土地上に存在ししたこと、一斉測量調査時に土地と周囲の境界に境界杭が埋設されその土地の境界が確認され公共用財産として認識されていたこと、その後、原告が土地を土盛りし埋立整形したことにより完全に水路状の窪地が存在しなくなってしまったことが認められ、このような経緯にも鑑みると、原告の土地占有開始時において、土地の水路が長い間事実上公の目的に供用されることなく放置されていたとまではいえず、原告のその後の行為によって公共用財産としての形態、機能を失ったにすぎないから、公共用財産として維持すべき理由がなくなっていたともいえず、そうすると、当該土地が原告占有開始時に黙示の公用廃止が認められるべき要件が満たされていたとはいえないと判示しています。

     

    (東京高裁平成3年2月26日判決)

     

    当該裁判例は、次のように判示しています。

     

    公共用財産の取得時効が認められるためには、自主占有開始の時点までに黙示的に公用が廃止されていなければならない。

     

    公共用財産としての形態・機能が失われ、黙示的な公用廃止の状況にあつたというためには、係争の部分だけに着目するのではなく、公用財産が供用された目的に即して地域的広がりを持つた全体として観察し、原状回復が可能であるかどうかを判断しなければならない。

     

    ・係争地が買収直後に、土地台帳に官有道路成、除租と記載されている事実
    ・道路の路面と土地との間には約2メートル程度の高低差がある事実
    ・係争地は、明治44年ないし昭和17年には、道路の路面から土地までの間の道路の構成部分としての法面又は道路の維持保全に必要な道路敷地として現実に使用されたものと推認することができること。
    ・係争地の占有を開始した当時、上記事実があったからといって各土地部分について道路の法面としての形態と機能を喪失するにいたったものと認めることはできない。

     

    したがって、係争地は占有開始当時未だ公共用財産としての形態、機能を全く喪失したものとはいえず、また係争地について公共用財産として維持すべき必要性がなくなったともいい得ないから、係争地につき黙示の公用廃止があったと認めることはできない。

     

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    2021.06.08

    【不動産】土地の時効取得における占有とは?

    土地の時効取得

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近、土地の時効取得が問題となる事案について、ご相談を受けましたので、今回は時効取得が認められる要件の中でも、「占有」とは何かについてご説明し、裁判例を紹介させていただきます。

     

    ■時効取得の要件


     

     

    まず、前提ですが、所有権の時効取得の要件は次の通りです(民法162条1項)。
    これら要件をすべて満たす場合には、対象物の所有権を時効取得することができます。

     

    ・20年間
    ・所有の意思をもって
    ・平穏かつ公然と
    ・他人の物を
    ・占有する

     

    また、占有の開始時に、自分の物であると信じて占有をし、そう信じたことに過失がない場合には、10年間で時効取得することができます(同条2項)。

     

    ■占有とは?


     

     

    この点については、リーディングケースとなる最高裁昭和46年3月30日判決があって、「一定範囲の土地の占有を継続したというためには、その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならない」と判示しています。

     

    ちなみに、上記最高裁判決では、山林の一部に、「杉苗多数を植えつけ、その後その刈払い等の手入れを続けて植林の育成に努めてきた」り、「係争地内から桑葉を採取した」というだけでは、占有を否定しています。

     

    ■占有を肯定した裁判例


     

     

    (東京地裁昭和4 7年3月30日判決)

     

    代々、対象土地が畑作等に利用され、鶏舎、物置その他の附属施設を設けて使用されていた事案で、継続的な占有、時効取得を認めています。

     

    ■占有を否定した裁判例


     

     

    (大阪地裁平成10年12月8日判決)

    原告は、本件土地と被告土地との間に鉄条網を設置したり本件土地を測量するなどしているが、昭和42年ころ以降は、本件土地において野菜等の作付けがされたことはなく、シュロなどの雑木が雑然と植えられているにすぎないのであるから、仮に、原告が年に一度その木の枝打ちをするなどして管理をした事実があったとしても、それが、本件土地についての客観的に明確な程度の排他的な支配状態を示すものとはいえないから、このような占有に基づいて取得時効の成立を認めることはできないと判示しています。

     

    (東京地裁昭和62年1月27日判決)

    係争山林につき、当初ある程度の明認方法を施したほかは、ある期間バスを置いて境界線の一部に鉄条網を張り、立札を立て、境界石を埋設するなどの行為をしたとか、時々現地を訪れて様子を見たというに過ぎないときには、時効取得の基礎となる占有があったとは認められないと判示しています。

     

    (宮崎地裁昭和59年4月16日判決)

    山林の時効取得の要件としての占有は、成長した杉立木の年数回の見回り、木払いとか、数年に一回の間伐などをなしたのみでは足りず、適当な場所に標木を立てこれに目印をするなどしていわゆる明認方法を施すとか、立木周辺に棚を認けるなどのように他人が立木が何人の支配に属するかを知り得るような施設をなし、もつて排他的支配の意思を明確に表示するなどして客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けることを要すると解すべきところ、全証拠によるもこれを認めるに足りないとして、時効取得を否定しています。

     

    (東京高裁昭和55年12月16日判決)

    当事者双方が係争地に苗の植付をし、その後下刈を行つている等、当該土地の管理占有が競合してなされていたものと認められる場合には、取得時効の要件たる占有継続はないと判示しています。

     

    (札幌高裁昭和53年12月21日判決)

    畑にバラス(砕石)を散布していたという事案について、移動の困難な建物、石標等と異なり、地表に散布されたバラスは、通常は人為的に容易にこれを除去、移動させることができるし、また自然に散逸、移動することもあり得るから、バラスの散布範囲が10年間全く変化しなかったと推認することは、特段の事情がないかぎり、経験則に照らし相当ではないとして、占有範囲が不明確であるとして、原審に差し戻しをしています。

     

    (その他の裁判例)

    その他、次のようなケースでは、時効取得の基礎となる占有があったとは認められないと判示されています。

     

    ・土地にある泉から他に水を引用すること(大審院大正8年5月5日判決)
    ・通行と隣地の古井戸使用のため利用すること(東京高裁昭和48年8月28日判決)
    ・通行の際に土地の状態を観察・監視すること(札幌高裁昭和57年7月19日判決)

     

     

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    2021.05.25

    【損害賠償】マンション管理について、理事や管理会社の善管注意義務違反を認められるケース

    マンション管理2

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    一般に、管理組合の役員と管理組合の法律関係については、役員を受任者とし、管理組合を委任者とする委任契約が成立しているものと解され、受任者(理事長その他の役員)は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。

     

    もっとも、どのような場合に善管注意義務違反となるかについては評価の問題であり、悩まれる方もいらっしゃると思います。前回は、裁判例上、善管注意義務違反が認められなかったケースについて、ご紹介させていただきましたので、今回は、裁判例上、善管注意義務違反を認めたケースについて、ご紹介させていただきます。

     

    ■会計担当理事の横領に関する他の理事の責任


     

     

    (会計監査役員)
    会計監査役員として、会計担当理事Aが作成した前年度の収支決算報告書を確認・点検し、会計業務が適正に行われていることを確認すべき義務があったにもかかわらず、Aから示された虚偽の収支決算報告書の記載とAが偽造した残高証明書の残高等を確認するだけで、預金口座の通帳の確認をせず、Aによる横領行為を看過したものであった。そして、Aが示した預金口座の残高証明書は、Aが自分のワープロで偽造したというものであって、その体裁等からして真実の銀行発行の預金口座の残高証明書の原本とはかなり異なるものであったことが推認され、このような偽造された残高証明書を安易に信用し、Aが保管しており、その確認が容易である預金口座の預金通帳によって残高を確認しようとしなかった会計監査役員には、善管注意義務違反があったと認めざるを得ない(東京地裁平成27年3月30日判決)。

     

    (理事長)
    理事長として、前年度の収支決算報告書を作成して総会で自治会員に報告する義務を負っていたものである。したがって、たとえ会計については会計担当理事に委託しており、また、会計監査役員による会計監査が行われていたとしても、やはり理事長が自治会員に対して収支決算報告をすべき最終的な責任者であることに照らすと、会計担当理事Aが作成した収支決算報告書を確認・点検して適正に行われていることを確認すべき義務があったといわざるを得ない。それにもかかわらず、理事長は、Aに預金口座の管理、その預金通帳及び銀行用印鑑の保管を任せていたにもかかわらず、会計の報告につき、定期総会の直前にAから簡単な説明を受けるのみであって、預金口座の通帳の残高を確認することなく、また、会計監査役員に対し、預金口座の通帳を確認するなどの適正な監査をすべき指示を出したり、適正な監査をしているかを確認したりすることもなく、その結果、Aによる会計業務の具体的内容について十分な確認をしないままとしていたものであって、このような理事長には、善管注意義務違反があったと認めざるを得ない(同上)。

     

    (副理事長・責任否定
    副理事長においては、規約上も実際の職務分担のいずれにおいても、自治会の会計事務について具体的に何らかの権限が与えられていたものではないところ、このような副理事長において、会計事務について何らかの措置を講ずべき場合とは、理事長が会計に関して行っていた行為について何らの補佐をしなければならない状況が存在することになった場合又は理事長に事故があった場合であると解される。しかるところ、当時、副理事長自身はもちろん、理事長やその他の自治会関係者においても、自治会の会計事務において副理事長が何らかの措置を講ずべき状況にあると認識されておらず、また、理事長に事故があるとの状況にもなかったことに照らすと、会計担当理事の横領行為につき、副理事長において予見して何らかの措置を講ずべきであったということはできず、副理事長に自治会に対する善管注意義務違反があったと認めることはできない(同上)。

     

    ■監査報告書の無断作成


     

     

    理事長は、管理組合の監事から委任を受けていないにもかかわらず、監事を代理して監査報告書を作成したものであるところ、監事は、理事による業務執行が適正に行われているか監査するための機関であることにも鑑みれば、理事長が、監事が作成した監査報告書を議案書に添付せずに、自ら無権限で作成した監査報告書を添付して組合員に交付したことは、管理組合の理事長としての善管注意義務に違反する(ただし、これによる管理組合への損害の発生については否定。東京地裁令和2年7月10日判決)。

     

     

    ■監事候補者の不実記載


     

     

    理事長は、Gが管理組合の監事に立候補していることを認識していたのであり、管理規約によれば、理事長は、総会を招集するものとされ、その際には、会議の目的を示して組合員に通知を発しなければならないとされているのであるから、Gが監事に立候補していることを通常総会の議案に記載すべき義務を負っていたと認めることができ、理事長がこれを故意に議案に記載しなかったことは、理事長としての善管注意義務に違反する(ただし、これによる管理組合への損害の発生については否定。東京地裁令和2年7月10日判決)。

     

    ■共用部分の総会決議を経ない賃貸


     

     

    マンションのラウンジであったところをRの店舗をして賃貸することとなったのであり、賃貸部分は従来の用途を全く変えたものといえるから、共用部分の変更に当たる。共用部分の変更をするためには管理組合の総会で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議を経る必要があるから、理事長は、Rとの間で、賃貸借契約を締結するにあたり、総会での決議を経る必要があった。しかし、理事長は、賃貸借契約を締結するに際し、総会での決議を経ていない。理事長は、マンションの業務を法律や規約に従って行わなければならない。そうすると、理事長が総会での決議を経ないまま賃貸借契約を締結したことは、善管注意義務に反する(福岡地裁平成30年3月7日判決)。

     

    ■共用部分の管理


     

     

    変色の生じた外壁部分は、共用部分に当たるところ、管理組合は、規約上敷地及び共用部分等の管理責任を負っている。したがって、管理組合は、同外壁部分につき管理責任を負い、その原因や修理経過、今後の修理計画について把握する義務がある。この義務が個々の組合員に対して負うものかはともかく、管理組合は、原告が、当時の管理組合理事長に対し、工事の実施に関する資料の提出を要求した際、一切の資料がないとして、この要求に応じなかったことからすれば、それ以前に外壁の補修工事が行われた事実を含め、変色の原因につき詳細を把握していなかったと認められ、したがって、上記義務を怠ったことが認められる(ただし、マンションの価値下落との因果関係は否定。横浜地裁平成13年12月28日判決)。

     

  • qa

    2021.05.24

    【損害賠償】マンション管理について、理事や管理会社の善管注意義務違反が認められないケース

    マンション管理組合

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    一般に、管理組合の役員と管理組合の法律関係については、役員を受任者とし、管理組合を委任者とする委任契約が成立しているものと解され、受任者(理事長その他の役員)は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。

     

    また、管理会社は、管理組合に対し、管理委託契約上の善管注意義務を負っています。

     

    もっとも、どのような場合に善管注意義務違反となるかについては評価の問題であり、悩まれる方もいらっしゃると思いますので、その参考にしていただくため、今回は、裁判例上、善管注意義務違反が認められなかったケースについて、ご紹介させていただきます。

     

    なお、今回は、理事や管理会社が管理組合に対し、具体的にどのような善管注意義務を負うかや、どのような場合に、その善管注意義務に違反したと評価できるかについて判示した裁判例を紹介するものであり、事実認定について争いがあった裁判例(例えば、横領行為があったか否かなど)については、取り扱いません。

     

     

    ■相見積をとったり、費用の妥当性を検証しなかった場合


     

     

    東京地裁平成31年1月24日判決は、管理組合の役員となる資格は管理組合の組合員であることのみであり、特別な知識、素養等を要求されていないことからすれば、誠実義務は、管理組合の意思決定機関である総会の決議に従って、その執行を行うことを基本とするものであって、マンションの管理業務を業者に外注するに際して、複数の業者から相見積りを取得して比較検討したり、周辺相場を確認できる資料を取得したりするなどして費用の妥当性を検証すべき法的な義務が常に課されていると解することはできないと判示しています。

     

    ■交換周期よりも早い工事の実施


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、国土交通省策定のマンション管理標準指針コメントは、各備品の一般的な耐用年数等によって改修の周期の一つの目安を示しているにすぎず、郵便受け工事は、従前の郵便受けが老朽化したとして交換したものではなく、郵便物の大型化などによって、その使用に不都合が生じるようになったために交換したと認められるのであり、郵便受けの一般的な耐用年数経過前の交換であったとしても、マンションの居住者の要望に応じてされた適切な工事であったとし、総会決議を得て、これよりも早く交換をしたからといって、直ちに理事長としての善管注意義務に違反することにはならない旨判示しています。

     

    また、同判決は、交換周期よりも早い自転車置場の工事についても、大規模修繕に向けた建物調査診断報告書には、駐輪設備に腐食が見られる旨の指摘があること、改修前の駐輪設備では、登録された自転車の台数も賄えない状態となっている上、2段式ラックの上段も使用できない部分が多く、居住者からも駐輪場整備の要望が寄せられていたことから、マンションの居住者の要望に応じてされた適切な工事であったと認められるとして、善管注意義務違反を否定しています。

     

    ■割高なリース契約の更新


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、管理組合が従前の防犯カメラを利用していればリース料が安く済んだ旨主張するが、防犯カメラ更新によるリース料が、一般的な相場を離れて不相当に高額であったとか、新たな支出が従前の防犯カメラと更新後の防犯カメラの機能面の違いに明らかに見合っていないとの主張立証はないとし、防犯カメラには、価格や機器の質の面で様々なものがあり得るところ、機能面での違いを無視して、最も安価なものを選ばなければ直ちに理事長としての善管注意義務違反になるわけではない旨判示しています。

     

    ■修繕工事の優先順位の判断


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、管理組合が大規模修繕工事の際、屋上防水工事を実施しなかったことを問題にしたことについて、各工事等は有効な総会決議を経て実施されているのであるから、工事等の優先順位は管理組合の組合員の総意により定められたものというべきであることに加えて、大規模修繕に向けた建物調査診断報告書の総合所見にも、屋上防水には大きな問題は見られないが、耐用年数を迎えていることから、大規模修繕工事と同時に全面改修をすることを勧める旨の記載がされているのであって、屋上防水工事を直ちに実施しなければならない旨の指摘もされていないことから、大規模修繕工事の際に屋上防水工事を実施しなかったことをもって、理事長としての善管注意義務違反があったと認めることはできないと判示しています。

     

    ■総会議案書の記載


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、管理会社が、臨時総会の議案書において、将来の修繕予定項目を列挙した中の一つとして、機械式駐車場に関する工事を挙げたことが認められるが、当該記載は、屋上及びルーフバルコニーの防水工事の議案説明のために、今後、予想される支出を列挙したものにすぎないし、仮に、将来、当該支出が議案として提出された場合に、管理組合において、問題であると考えるのであれば、その支出を承認しなければ足りるものであるから、そのような記載することが、善管注意義務違反に当たるとは認められない旨判示しています。

     

    ■総会議事録の記載


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、管理規約により、議事録は、総会の議長である理事長が作成することとされており、管理会社は、単にその素案を作成したにすぎないものであるし、管理組合が虚偽であると指摘する具体的内容は、「一生懸命やってこられたと信じたい」と記載すべきところを「やられてきたことには問題が無い」と記載したというものであって、結局、総会出席者の発言内容の要約が不適切であったというものにすぎず、理事長が、署名に当たって訂正すれば足りる程度のものであって、現にそのようにされているのであるから、上記をもって、管理会社に善管注意義務違反があるとは認められない旨判示しています。

     

    ■理事を解任された者に対する理事会資料の送信(情報漏えい)


     

     

    東京地裁令和2年7月10日判決は、管理会社が、理事を解任された元理事長に対し、理事会の資料を送信したことについて、これらは、管理組合の運営にかかる理事会の資料等の案文等にすぎないものであって、これらの文書の中にいかなる秘密が含まれ、これを元理事長に開示することがいかなる意味で管理組合の管理運営に支障を来すのかについて、具体的な主張立証はないから、これらを管理組合の組合員である元理事長に対して開示することが直ちに守秘義務違反に当たるとはいえないし、これらの書面の交付がおこなわれたのは、元理事長が臨時総会で解任されてから間もない、未だ混乱した状況下での行為であることにも鑑みれば、管理会社に管理委託契約上の善管注意義務違反があったとは認められない旨判示しています。

     

    ■大雨による駐車場に止めていた自動車の浸水事故


     

     

    東京地裁平成28年9月12日判決は、マンションの居住者かつ区分所有者が、マンションの機械式駐車場の地下部分に自己所有の自動車を駐車していたところ、台風に伴う大雨による駐車場の浸水事故により、自動車を廃車処分せざるをえなくなったとして、マンションの管理業者に対し、被害者の主張する通知義務、警報装置設置等義務及び土嚢設置等義務は、いずれも自動車の浸水事故を未然に防止するために何らかの措置をとることを内容とするものであるところ、当該管理業務契約においては、予め浸水事故防止措置をとることに関する定めはないことや、当該駐車場では、過去に自動車の浸水事故が発生したことはなく、管理業務契約に定められている業務内容を超えて、浸水事故を防止するための措置をとる義務の存在を基礎づける事情はないとして、損害賠償請求を否定しました。

     

  • qa

    2021.05.18

    【建築トラブル】施工業者が破産した場合、どうする?

    施工業者の破産

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近も、アパートの階段崩落事故に関連して、施工業者が破産しましたが、施工業者(請負人)が破産して、建築工事がストップしてしまうことは度々起こることででして、私も相談を受けることがあります。

     

    思いがけず、このような事態に陥って、お困りの注文者の方もいらっしゃるのでしょうから、今回は、施工業者が破産した場合の対応方について、ご説明させていただきます。

     

     

    ■「住宅完成保証制度」加入の有無の確認


     

    「住宅完成保証制度」とは、施工業者が破産し工事を継続できなくなった場合に、住宅の完成に向けた工事費用や破産などにより戻ってこないお金(前払金等)の損失を保証したり、引き継ぎ業者をあっせんすることができる任意加入の保証制度です。

     

    破産した施工業者がこの保険に加入していた場合には、その保険金により救済を受けられる場合がありますので、まず、この点を確認してください。

     

    ただし、保証限度額が定められていたり、増嵩工事費用(未履行部分の工事を別の業者が代わりに施工した場合で、手戻り工事費や既施工部分の検査などを行う費用)の限度額が定められており、全額の保証を受けられるとは限りません。

     

    なお、「住宅完成保証制度」と「住宅瑕疵担保責任保険」とは、別のものですので、注意が必要です。

     

    後者の「住宅瑕疵担保責任保険」は、引き渡された新築住宅に特定の瑕疵があった場合に、補修等を行った施工業者や住宅販売業者に保険金が支払われる制度です。施工業者が破産した場合に、工事を続行するためにこの保険制度を利用することはできません。

     

    ■「住宅完成保証制度」に加入している場合の注意点


     

     

    一般的に、次のような事実が発生したときには、発注者は、保険会社に対し、遅滞なく、通知することが求められています。

     

    ・建築工事の全部または一部の施工の中止を知ったとき。

    ・施工業者が倒産等、建築工事が継続できなくなる事実が発生したことを知ったとき。

    ・施工業者につき、破産、民事再生、会社更生手続開始の申し立てがあったことを知ったとき。

    ・発注者が、建築工事請負契約を解除しようとするとき(書面での通知)。

     

    正当な理由なく、これら通知義務を履行しないと、保険会社による保証債務の履行を受けられなくなる場合がありますので、注意が必要です。

     

    また、施工業者が倒産等した場合、保険会社(の依頼を受けた鑑定人)が、当初締結した請負金額に係る見積単価に基づき、出来高の算定を行うことになります。

     

    ■その他、初動で行うべきこと


     

    (工事の進捗状況の撮影)
    後述の通り、破産管財人が請負契約を解除する場合には、工事の出来高の査定が必要不可欠になりますので、速やかに、工事現場で、工事の進捗状況を詳細に撮影し、証拠を保全すべきです。

     

    (出来高の査定)
    また、施工業者の従業員や、他の専門業者の協力を得て、出来高の査定を行ってください。

     

    なお、工事現場の占有は施工業者(破産後は、破産管財人)にあると考えられますので、工事現場に立ち入る場合には、破産管財人に立ち会ってもらうか、破産管財人の同意を得て行うべきです。

     

    (建築中の建物の保全)
    工事途中の建物を長期間放置しておくと、風雨によって建物が劣化してしまうような場合には、応急措置としてブルーシートをかけるなどの保全行為については、損害の拡大を防ぐために許されると考えられますが、念のため、破産管財人の了承を得て行ってください。

     

     

    ■破産管財人からの解除


     

    工事が未完の場合、基本的に、施工業者の破産管財人は、請負契約を解除するか、あるいは残りの工事を履行して、注文者に対し、残りの請負代金を請求するか、選ぶことができます(破産法53条1項)。ただし、その工事が破産をした施工業者にしか完成することができない工事の場合には、同条は適用されません(最高裁昭和62年11月26日判決) 。

     

    破産管財人としては、工事を継続する方が支払う経費よりも、入ってくる請負残代金の方が多く、破産財団の増殖が見込める場合は、工事の継続を選択し、工事の完成を目指すことになります。

     

    もっとも、一般的には、契約不適合や、事故発生時の労災補償の問題などから、工事継続は難しく、解除を選択することが多いと考えられます。

     

    他方、注文者は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に、請負契約を解除するか、それとも工事を遂行して請負代金を請求するのか確答するよう催告することができます。これは、どちらかを選ぶよう催告することであり、残工事を履行せよと催告したり、請負契約を解除せよと催告することではありません。

     

    破産管財人が、その期間内に確答しないときは、請負契約は解除したものとみなされます(同条2項)。

     

    ■請負契約が解除された場合の取扱


     

    (出来高が前払金よりも多い場合)

    契約が解除されたとき、施工業者が既にした工事のうち可分な部分の給付によっても、注文者が利益を受けるときは、その部分は仕事の完成とみなされます。この場合、破産管財人は、注文者に対し、注文者が受ける利益の割合に応じて残代金を請求することができます(改正民法634条)。

     

    (前払金が出来高よりも多い場合)

    他方、出来高を査定した結果、注文者が施工業者に対し支払っていた前払金の方が、出来高よりも多い場合は、注文者は、破産財団に対し、その超過額について、施工業者に支払った代金が破産財団中に現存するときは、その返還を求めることができますし、現存しないときは、その価額について、財団債権として保護され(破産法54条2項)、破産債権よりも優先して弁済を受けることができます。

     

    ただし、財団債権として保護されるのは、あくまで出来高よりも多く支払った前払金の超過額のみです。

     

    破産管財人により、契約が解除された場合、例えば次のような、注文者が被った損害は、破産債権として権利行使することしかできません(同条1項)。

     

    ・建物や設備の劣化を防ぐため、注文者が支出した工事の保全費用
    ・他の施工業者に、残りの工事を引き継がせたことにより、総額の工事費用が増えた分
    ・工事が遅れたことによる損害

     

    破産債権の配当が受けられるかは、財団財産がどれだけ形成されるかによりますが、実際には、全く配当を受けられないか、配当を受けられても、破産管財人により認容された破産債権額の数パーセント程度のことがほとんどなので、あてにはせず、いくらかでも配当を受けられたら儲けもの程度に考えておいた方がよいでしょう。

     

     

    ■工事出来高の査定方法


     

     

    工事の出来高は、工事代金の内訳明細書や、工程表、その他関係資料等を参考に、工事費目ごとの進捗率に応じて算定します。

    破産管財人としては、破産会社の従業員などの協力を得て、工事の出来高の査定をしていくことになります。

     

    これに対し、注文者からは、引継業者が見積もった残工事費用を、当初の工事代金から控除して、既施工部分の現在価値を出来高とすべきとする主張をすることもありますが、このような主張は、本来、破産債権となるにすぎない増加工事費用を相殺的処理により優先弁済受けるのと同様の処理になりますので、破産管財人により認められないでしょう。

     

    ■違約金の請求・相殺の可否


     

    破産管財人により、破産法53条に基づき、請負契約が解除された場合、注文者は、破産管財人(破産財団)に対し、請負契約書の違約金条項に基づき、違約金を請求することができるでしょうか?

     

    裁判実務では、違約金請求ができないとする裁判例が多く存在します(東京地裁平成27年6月12日判決、札幌高裁平成25年8月22日判決等)。

    同条による解除権は、法によって破産管財人に与えられた特別の法定解除権であり、違約金条項の適用はないと考えられるからです。

     

    また、仮に、違約金が発生する場合でも、その違約金は、破産手続開始決定後に発生した破産債権ですので(54条1項)、注文者が、これと請負代金支払債務などと相殺主張することはできない(67条1項)と考えられます。

     

     

    ■下請業者や設備業者が所有権を主張する場合


     

    工材や設備を納品した下請業者や設備業者が、破産した施工業者から代金が支払われていないことから、これらの所有権を主張して張り紙をしたりする場合があります。

     

    この点、いったん納品した以上、これらの所有権や占有は、施工業者に移転しており、下請業者らが、同意なく引き揚げてくることは自力救済行為として許されません。

     

    もっとも、設備など動産の売主には、動産売買の先取特権が認められ(民法321条)、破産法上、別除権として保護され(破産法2条9号)、破産手続きによらずして、破産管財人の同意を得て、引き揚げることができますので(同法65条)、破産管財人と下請業者らとの話し合い次第となります。

     

    ただし、下請業者らは、既に木材等が建物として組み上げられた場合、施工業者の注文者に対する請負代金債権について、原則として、物上代位権を行使することはできません。

    例外的に、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、その部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができます(最高裁平成10年12月18日決定)。

     

    また、下請業者らと、注文者はとの間には、直接の契約関係がなく、下請業者らは、注文者に対し、直接、下請代金を請求することはできません。

     

    ■残りの工事の進め方


     

    破産管財人により請負契約が解除された場合、残りの工事を施工してもらえる業者を探し、改めて請負契約を締結することになります。

     

    この場合、それまで工事を進めていた下請業者などが信頼できるところであれば、そこと直接契約を締結したり、破産した施工業者の社員(現場監督)と直接、工事監督ないしコンサルティング契約を締結したり、足場などのリース業者と直接リース契約を締結したりして、いったん中断した工事を継続する方が、関係者が事情を知っていて、時間もコストも節約することができる場合があります。

     

    実際に、そのようにして、リカバリーされる方もいらっしゃいます。

     

  • qa

    2021.05.14

    【不動産売買】中古住宅の雨漏り等による契約不適合責任

    雨漏り

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    新築住宅で、雨漏りや漏水があれば、それは当然に瑕疵(契約に適合しない)であるといえ、契約不適合責任を追及することができます。

     

    それでは、中古住宅の場合はどうでしょうか?

     

    買主としては、買って1年もしないうちに、雨漏り等が生じた場合には、瑕疵があるんだから、売主に対し修繕や損害賠償請求することができると思うかもしれません。
    しかし、必ずしもそうはなりませんので注意が必要です。

     

    なお、【損害賠償】契約不適合による損害賠償請求の要件については、こちら

     

    また、【不動産売買】契約不適合責任の免責条項とその有効性については、こちらを、それぞれご参照ください。

     

    ■雨漏りが契約書等で明示されている場合


     

    中古住宅の売買において、雨漏りの事実や、瑕疵、劣化、損傷の程度が、売買契約書や重要事項説明書等で明示的に示されていて、買主がこれを容認して売買契約が締結された場合には、それらは契約の内容になっており、そもそも契約不適合には該当しません。

     

    東京地裁平成25年9月26日判決も、売買契約において、売主は一切の瑕疵担保責任を負わないこと、建物及びその設備は経年変化により老朽化・機能低下がみられ、これを原因として補修・修繕等が必要となり、その費用がかかる可能性があることが容認事項とされていたこと、不動産の引渡しは現況有姿のままされること、売主・買主間で雨漏りを修繕する旨の合意がないこと、買主は雨漏りの存在を事前に認識していたというべきであるから、その他、売主が雨漏りを修繕する義務を負うことを認めるに足りる根拠はないと判示して、買主側の請求を棄却しています。

     

    ■雨漏りが契約書等で明示されていない場合


     

    旧民法下の瑕疵担保責任について、裁判例は、売買の目的物が通常保有すべきことを取引上一般に期待されている品質・性能を欠く場合,目的物に隠れた瑕疵があるとして、売主はその瑕疵について責任を負う。そして、中古住宅が売買契約の目的物である場合,売買契約当時,経年変化等により一定程度の損傷等が存在することは当然前提とされて値段が決められるのであるから,当該中古住宅として通常有すべき品質・性能を基準として,これを超える程度の損傷等がある場合にこれを「瑕疵」というべきであると判示しています(東京地裁平成17年9月28日判決)。

     

    この考え方は、契約不適合責任においても、該当します。

     

    したがって、中古住宅に雨漏り等が生じた場合に、それが契約不適合に当たるか否かは、次のようなメルクマールで判断されます。

     

    ・当該中古住宅に、同種・類似の建物と比べ、通常有すべき品質・性能を基準として,これを超える程度の損傷等があったか。
    ・売買契約前に、大規模なリノベーションがなされていたか否か。
    ・売買代金が、当該中古住宅の価格として相場か、それとも高額か。

     

    以下、損害賠償を否定した裁判例と、肯定した裁判例をいくつかご紹介させていただきます。

     

     

    ■損害賠償責任を否定した裁判例


     

    (東京地裁令和元年10月17日判決)

    ビルを購入したところ、地下受水槽から漏水が発生していることなどが判明したとして、瑕疵担保責任等に基づき、損害賠償した事案につき、当該ビルは、築22年を経た中古ビルであり、現状有姿のまま引き渡すことに当事者双方が合意しているから、当該ビルに経年劣化による様々な不具合が生じていることは、売買契約を締結する上で当然の前提として売買代金等の条件に織り込み済みであると考えられる。したがって、当該ビルに不具合があっても、それが建物の安全性等、建物自体の使用の可否に関わるような重大なものではなく、経年劣化により通常生じ得るようなものである場合には、当該不具合をもって、瑕疵に当たるということはできないというべきであるとして、地下駐車場ピット内に地下水が浸出し、結露が発生するなどしていることについて、ビル自体の使用の可否に関わる重要なものであるとも、経年劣化により通常生じ得る程度を超えるものとも認められないから、ビルの瑕疵に当たるということはできないと判示しています。

     

    (東京地裁平成27年11月30日判決)

    買主が中古アパートである建物及びその敷地を買い受けた際、売主らから、雨漏りや腐食は発見されていない旨の説明を受けたにもかかわらず、引渡し後に雨漏りや腐食が発見され、修理費用などの損害を被ったと主張して、売主らに対し、瑕疵担保責任又は説明義務違反に基づき損害賠償請求した事案につき、売買契約に際し、「現在まで雨漏りは発見していない」、腐食を「発見していない」と明記した本件物件状況等報告書を交付したとしてもこの記載は、売主の当該建物の状況に関する認識を示したものにすぎず、これをもって直ちに過去に雨漏りや腐食が生じた物件ではないことを、自己の法律上の責任として保証したとまでは認められない。そして、過去に雨漏りや腐食があったこと自体は、それによって売買契約当時の建物の利用に支障を生じさせるものではなく、売買契約当時、当該建物が23年以上経年していたことも考慮すれば、瑕疵ということはできない旨判示しています。

     

    (東京地裁平成26年1月15日判決)

    売主は、契約締結に際し、買主に対して物件状況等報告書を交付し、その中で、物件には経過年数に伴う変化や、通常使用による摩耗、損耗があることを告知している一方、建物躯体及び窓やドアのアルミサッシの品質性能について契約上特段の合意がされたとか、売主が特段の品質性能を保証した事実はないことによると、契約上、売主と買主との間で、売買目的物である当該建物について合意された品質と性能は、築38年の分譲マンションが通常有する程度のものであったということができ、「瑕疵」の該当性も、そのような品質性能を欠いているか否かという観点から判断すべきである。当該建物で壁紙に雨水が浸透する不具合は、建物躯体のひび割れが原因であるとは認められるものの、大規模修繕が行われていない限り、経年により建物躯体に雨漏りを生じるようなひび割れが生じることは一般にあり得ることと認められるなどと判示して、損害賠償請求を棄却しています。

     

     

    ■損害賠償請求を認めた裁判例


     

    (東京地裁平成30年7月20日判決)

    売買契約の目的物である建物は、昭和35年新築の中古物件ではあるものの、売買契約が締結される直前に、設備、水回り、電気、内装、外装その他について大規模なリノベーション工事が行われていること、売買代金が築50年以上の建物としては高額であること、売主は、前所有者から、瑕疵担保責任を負担しないという条件で建物を取得している一方で、買主に対し、瑕疵担保責任を負担していることが認められ、そうすると、当該建物は、現状有姿で売買されたのではなく、社会通念に照らし、少なくとも住宅としての最低限の基準を満たす品質・性能を有するものとして売買された、すなわち、雨漏りのしない建物として売買されたとみるのが相当であるとして、洗面室の周囲の雨漏りについては、瑕疵にあたると判示しています。

     

    (東京地裁平成25年3月18日判決)

    降雨があった場合に、本件建物部分のうち書斎及び居間にルーフバルコニー側から浸水する状態にあったところ、当該サッシからの浸水が室内の絨毯や畳の交換を要する程度に及んでいることに照らせば、当該サッシの老朽化の程度は、築後30年の経年劣化を考慮しても、通常有する品質性能を欠くものであり、当該建物部分の瑕疵であるというべきである(なお、当該サッシがマンションの共用部分に属するが、当該サッシの瑕疵が当該建物部分の使用収益に直接影響を与えるものである以上は、売買における目的物の瑕疵として売主が瑕疵担保責任を負うべきものと解される)と判示しています。

     

    (東京地裁平成20年6月4日判決)

    買主らが、建物の柱等に雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食があったところ、売主らが腐食及び侵食を知りつつこれを秘し、腐食及び侵食を容易に知ることができたのに十分な調査をしないで、当該建物を売却したと主張して、売主らに対し、瑕疵担保責任、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償請求した事案につき、ある程度の年数を経た木造建物に雨漏りによる腐食の跡やシロアリによる侵食の跡があったとしても、それが当該建物の土台、柱等の躯体部分にあるのではなく、又は、その程度が軽微なものにとどまるときは、必ずしもこれをもって当該建物の瑕疵ということができない場合があることは否定できないが、当該建物のうち、とりわけサンルームの部分については、土台や柱といった躯体部分に雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食があり、その範囲が柱の上部にまで及び、その程度も木材の内部が空洞化するまでに至っており、現に雨漏りがする状態であるというのであるから、当該建物が売買契約締結時において築後12年が経過した木造建物であることを考慮しても、同部分に建物としての瑕疵があることは明らかというべきであるとして、損害賠償請求を認めています。

     

  • qa

    2021.04.08

    【不動産売買】ローン特約に基づく解約が認められない場合

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    不動産売買において、買主が売買契約締結後、購入意欲をなくしてしまったが、手付金の放棄や、違約金請求を免れるために、ローン特約を悪用し、意図的に融資を受けられないようにし、売買契約を無条件で解除しようとする場合があります(いわゆる、ローン壊し)。

     

    このように、買主側に不誠実な対応がある場合には、ローン特約による解約が認められない場合があります。

    ローン特約

     

    ■ローン特約とは


     

     

    ローン特約とは、不動産売買契約において、買主が金融機関から融資を受けることができない場合に、無条件で売買契約を解除し、売主に支払った手付金の返還を求めることができる旨の特約をいいます。

     

    マンションや住宅の買主は、金融機関から融資(住宅ローン)を受けて売買代金を支払うことが多いですが、買主に落ち度はないのに、審査が通らず、融資を受けることができなかった場合にまで、手付金を放棄したり、損害賠償を負わなければいけないのは、買主に酷であることから設けられている特約です(東京地裁平成16年8月12日判決等)。

     

    ■ローン特約による解約の効力が争われる場合


     

     

    このように、融資を受けることができなかった場合、ローン特約に基づき、買主は、無条件で売買契約を解除できるのですが、次のような場合には、売主からローン特約による解約の効力を争われ、違約金を請求される場合があります。

     

    ① 買主が融資成立への努力義務を怠った場合
    ② 買主の責めに帰すべき事由によって融資が成立しなかった場合
    ③ ローン解約できる期限を過ぎた場合

     

    ■買主の努力義務


     

     

    買主は売買契約締結後、融資成立に向けて誠実に努力すべき、信義則上の義務を負い、これを怠った場合には、ローン特約に基づく解除をすることができません。

     

    買主の努力義務としては、次のようなことが挙げられます。

    ・速やかに所定の融資申込書及び必要書類を提出すること
    ・融資審査手続において、金融機関からの照会があれば、誠実に対応すること(適切に応答し、事実に反する説明をしない)
    ・金融機関から、合理的な増担保の要求があれば、これに応じること

     

    ■ローン特約による解約を認めなかった裁判例


     

     

    (東京地裁平成10年5月28日判決)

    同判決は、以下の事情により、ローンが実行されなかったことから、ローン解約を認めず、買主からの手付金返還請求を否定しました。

     

    ・共同買主XとA(妹)のうち、Aが共同買主という立場にあったにもかかわらず、連帯保証人になることを拒み、さらには共同買主となることまで難色を示したこと

    ・同時期に、Xが当初申告しないでいた高血圧症を自主的に申告したことによって、団体信用生命保険の審査が最終的に否決されていること

     

    (東京地裁平成26年4月18日判決)

    同判決は、一般にローン特約が売買契約に付される場合、売買契約の締結に先立ち買主側で金融機関に事前相談を行い、融資の見通しを示された上で売買契約を締結し、この見通しに沿って融資の申込み(本申込み)を行うことが予定されていることからすると、ローン特約が適用される融資の申込みとは、金融機関から示された見通しに沿った内容での申込みであるところ、買主らは、示された融資条件に沿った融資の申込みをしたということはできないとして、ローン特約に基づく解除を認めませんでした。

     

  • qa

    2021.03.30

    【土地賃貸借】更新料を支払わないと、借地契約は解除されるか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は土地の賃貸借契約において、更新料支払の合意がなされているにもかかわらず、借地人が更新料を支払わなかった場合に、賃貸借契約を解除できるかについて、説明させていただきます。

     

    契約解除

     

    ■最高裁判例


     

     

    最高裁昭和59年4月20日判決は、「土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至つた経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当である」と判示しています。

     

    そして、「原審の確定した前記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。」と判示しました。

     

    ただし、当該事案は、借地人に建物の無断増改築、借地の無断転貸、賃料支払の遅滞等の賃貸借契約に違反する行為があったが、調停において、これら借地人の行為を不問とし、紛争予防目的での解決金をも含めた趣旨で更新料の支払を合意したものと認められると事実認定されており、このような具体的な事情とは無関係に、一般論として、更新料の不払いにより、借地権契約が解除できるかについては、注意する必要があります。

     

    ■東京地裁平成27年4月10日判決


     

     

    賃貸人が更新について賃借人に連絡した際に、具体的な額を提示することなく、話し合いを求めたにもかかわらず、賃借人は一方的に支払を拒絶していること、賃借人は、更新料支払条項を十分に理解し認識した上で、賃貸借契約の契約証書に署名押印しており、賃貸人は、更新時期にも同契約証書の作成経緯について説明し、再度、話し合いによる解決を求めたにもかかわらず、賃借人はかたくなに本件更新料支払条項の効力を否定して話し合いにも応じなかったことなどの事情からすれば、賃貸人及び賃借人間の信頼関係が破壊されたと認められ、更新料の不払は本件賃貸借契約の解除原因となる旨判示しています。

     

    ■東京地裁平成29年9月28日判決


     

     

    同判決は、建物賃貸借契約に関するものですが、「賃貸人としては、賃借人が更新料を支払うことを合意したからこそ賃貸借契約を2回にわたり更新したのであり、他方、賃借人としても、更新料を支払うことを合意して賃貸借契約の更新を得たのであるから、更新料の支払は、更新後の賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものといえる。」

     

    「したがって、更新料の不払は、不払の態様、経緯その他の事情からみて、賃貸人・賃借人間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には、更新後の賃貸借契約の解除原因となり得るものというべきである」旨判示しました。

     

    そして、「更新料の不払の期間が相当長期に及んでおり、不払の額も少額ではないこと、賃借人が合理的な理由なく更新料の不払をしており、今後も当該不払が任意に解消される見込みは低く、当事者間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと、更新料の不払は賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。」し、賃貸借契約が解除により終了したとして、建物の明渡を命じています。

     

    ■契約解除を否定した裁判例


     

     

    他方、東京地裁平成25年5月15日判決は借地契約の解除を否定していますが、更新の際に具体的な額の更新料を支払うことを約したことを認めるに足りる証拠がなく、更新に際して更新料を支払う義務を負うものではないことを理由とするものです。

     

  • cat4

    2016.06.01

    火災により建物が焼損した場合、賃貸借契約はどうなりますか?

    建物が滅失したときに、建物賃貸借契約がどうなるかについて、法律上、明文規定はありませんが、賃貸借契約の趣旨が達成できなくなるからとの理由で、賃貸借契約は当然に終了するというのが判例(最高裁昭和32年12月3日判決)です。

     

    では、火災により、どの程度、建物が焼失すると、賃貸借契約は終了するのでしょうか。

     

    この点、最高裁昭和42年6月22日判決は、賃借建物が、火災により、2階部分は屋根及び北側土壁がほとんど全部焼け落ち、柱、天井の梁、軒桁等は半焼ないし燻焼し、階下部分は北側土壁の大半が破傷したほかはおおむね被害を免れているが、罹災のままの状態では風雨をしのぐべくもなく、倒壊の危険さえもあり、そのため火災保険会社は約9割の被害と認めて保険金を支払ったこと、完全修復には多額の費用を要し、将来の耐用年数を考慮すると、建物全部を取り壊して新築する方が経済的である等の事実がある場合には、当該建物は、火災により全体として効用を失い、滅失したものというべきであるとし、建物賃貸借契約はこれにより終了したと解するのが相当であると判示しています。

     

    また、横浜地裁昭和63年2月26日判決は、建物の修復には新築よりも多額の費用を要すること、その一部であり、賃貸借の対象である店舗部分には外形的損傷はないが、電気、水、ガス関係の修復等を要し、多大な損傷を受けていないとはいえないことを認定し、当該建物の効用が主要な部分で喪失し、それを完全に回復するために家主が通常負担する以上の修繕費を必要とし、かえって、当該建物を取り壊して新築するほうが経済的であるから、当該店舗は主要な部分が喪失し、賃貸借の目的を達成されない程度に達したものとし、賃貸借契約は終了したと判示しています。

     

    他方、東京地裁平成6年10月28日判決は、賃借建物部分の柱、梁といった主要構造部分までが炭化して損傷しているが、当該建物は半焼で、火災後も従前通りの外形を保っており、屋根や外壁が焼け落ちるといったこともなく、当該建物の1階部分は賃借人が修理したこともあって使用されていること、地震、台風等に備えて改修工事を行う必要はあるが、その場合どの程度の費用を要するか必ずしも判然としないものの、当該建物を取り壊し再建築した方が経済的であるとまでは認められず、適当な復旧工事を行うことにより再使用が可能であるとして、当該建物部分が火災により全体としてその効用を失い滅失したとは認められないと判示しています(但し、賃借人が当該建物から出火させた上、これを無断で修復したことなどにより、信頼関係が破壊されたとして、賃貸人による無催告解除を認めています。)。

     

    このように、賃貸借の目的になっている主要な部分が焼失して、全体としてその効用を失い、賃貸借の目的が達成されない程度に達した場合には、賃貸借は終了すると解されていますが、この判断に当たっては、焼失した部分の修復が物理的に可能か否かのみならず、その修復が賃貸人の負担する通常の費用で行えるものか否かも考慮されるべきであり、当該修復費が新築する費用に近いか、またはそれを超える場合には、賃貸借は終了したと解されます。

     

      霞ヶ関パートナーズ法律事務所
    弁護士  伊 澤 大 輔
    ☎ 03-5501-3700
    https://www.izawa-law.com/

     

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