土地の時効取得

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

最近、土地の時効取得が問題となる事案について、ご相談を受けましたので、今回は時効取得が認められる要件の中でも、「占有」とは何かについてご説明し、裁判例を紹介させていただきます。

 

■時効取得の要件


 

 

まず、前提ですが、所有権の時効取得の要件は次の通りです(民法162条1項)。
これら要件をすべて満たす場合には、対象物の所有権を時効取得することができます。

 

・20年間
・所有の意思をもって
・平穏かつ公然と
・他人の物を
・占有する

 

また、占有の開始時に、自分の物であると信じて占有をし、そう信じたことに過失がない場合には、10年間で時効取得することができます(同条2項)。

 

■占有とは?


 

 

この点については、リーディングケースとなる最高裁昭和46年3月30日判決があって、「一定範囲の土地の占有を継続したというためには、その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならない」と判示しています。

 

ちなみに、上記最高裁判決では、山林の一部に、「杉苗多数を植えつけ、その後その刈払い等の手入れを続けて植林の育成に努めてきた」り、「係争地内から桑葉を採取した」というだけでは、占有を否定しています。

 

■占有を肯定した裁判例


 

 

(東京地裁昭和4 7年3月30日判決)

 

代々、対象土地が畑作等に利用され、鶏舎、物置その他の附属施設を設けて使用されていた事案で、継続的な占有、時効取得を認めています。

 

■占有を否定した裁判例


 

 

(大阪地裁平成10年12月8日判決)

原告は、本件土地と被告土地との間に鉄条網を設置したり本件土地を測量するなどしているが、昭和42年ころ以降は、本件土地において野菜等の作付けがされたことはなく、シュロなどの雑木が雑然と植えられているにすぎないのであるから、仮に、原告が年に一度その木の枝打ちをするなどして管理をした事実があったとしても、それが、本件土地についての客観的に明確な程度の排他的な支配状態を示すものとはいえないから、このような占有に基づいて取得時効の成立を認めることはできないと判示しています。

 

(東京地裁昭和62年1月27日判決)

係争山林につき、当初ある程度の明認方法を施したほかは、ある期間バスを置いて境界線の一部に鉄条網を張り、立札を立て、境界石を埋設するなどの行為をしたとか、時々現地を訪れて様子を見たというに過ぎないときには、時効取得の基礎となる占有があったとは認められないと判示しています。

 

(宮崎地裁昭和59年4月16日判決)

山林の時効取得の要件としての占有は、成長した杉立木の年数回の見回り、木払いとか、数年に一回の間伐などをなしたのみでは足りず、適当な場所に標木を立てこれに目印をするなどしていわゆる明認方法を施すとか、立木周辺に棚を認けるなどのように他人が立木が何人の支配に属するかを知り得るような施設をなし、もつて排他的支配の意思を明確に表示するなどして客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けることを要すると解すべきところ、全証拠によるもこれを認めるに足りないとして、時効取得を否定しています。

 

(東京高裁昭和55年12月16日判決)

当事者双方が係争地に苗の植付をし、その後下刈を行つている等、当該土地の管理占有が競合してなされていたものと認められる場合には、取得時効の要件たる占有継続はないと判示しています。

 

(札幌高裁昭和53年12月21日判決)

畑にバラス(砕石)を散布していたという事案について、移動の困難な建物、石標等と異なり、地表に散布されたバラスは、通常は人為的に容易にこれを除去、移動させることができるし、また自然に散逸、移動することもあり得るから、バラスの散布範囲が10年間全く変化しなかったと推認することは、特段の事情がないかぎり、経験則に照らし相当ではないとして、占有範囲が不明確であるとして、原審に差し戻しをしています。

 

(その他の裁判例)

その他、次のようなケースでは、時効取得の基礎となる占有があったとは認められないと判示されています。

 

・土地にある泉から他に水を引用すること(大審院大正8年5月5日判決)
・通行と隣地の古井戸使用のため利用すること(東京高裁昭和48年8月28日判決)
・通行の際に土地の状態を観察・監視すること(札幌高裁昭和57年7月19日判決)