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    2021.12.20

    【賃貸借】迷惑住民の明渡

    迷惑住民

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    顧問先の不動産会社から、騒音を発生させたり、隣室や上階の入居者とトラブルを繰り返している賃借人を立ち退かせることができるかとの相談を受けましたので、裁判例を調べてみました。

     

    結論から申し上げますと、迷惑行為も賃貸借契約の解除事由になり得えます。ただし、信頼関係の破壊に至っているかケースバイケースの判断が必要になりますので、数ヶ月分以上家賃を滞納しているような事案ほど単純ではありません。

     

    ■解除を認めた判例・裁判例


     

    最高裁昭和43年9月27日判決

    まず、最高裁の判例を紹介させていただきますが、これは賃借人の1人が賃貸人に対し暴力を振るうなどした事案です。すなわち、賃借人の1人の賃貸人に対する傷害行為は家屋の明渡をめぐる紛争に端を発したものであるところ、賃借人らはその謝罪、損害賠償について全く無関心であったのみならず、その後ガレージを無断で築造し、賃貸人からの抗議にもかかわらず、賃借人方においては頑としてこれに応じなかったという事案につき、

    これらの事実関係によれば、賃借人らは現に家屋の用法に関し、賃借人としての義務に違反するのみならず、同人らのその前後の態度からして、賃貸人としては、賃借人らが将来も賃借人としての義務を誠実に履行することを期待しえないものというべきであるから、これら賃借人らの所為および態度は、賃借人ら全員について賃貸借契約の即時解除の原因となりうるものと解するのが相当である旨判示しています。

     

    東京高裁平成26年4月9日判決

    控訴人は、近隣住民等に対して迷惑行為を行い、これについて被控訴人から再三口頭で注意を受け、更にこれが特約違反となり解除事由となると書面によって指摘されても、近隣住民等に対する迷惑行為を繰り返しており、また、これにより生じた近隣住民等との間のトラブルに対して近隣住民等からの申出による話合いもしていない。これらのことに加え、控訴人の度重なる迷惑行為によって近隣住民等には耐え難い深刻な事態となり、近隣住民等が警察及び区役所に対する要望書に連名で押印の上で提出するに至っていること、さらに、控訴人は建物の隣室の入居者に対しても迷惑行為を行ったばかりか粗野な行動をとって不快の感を抱かせ、ひいてはこれに耐えかねた同入居者が被控訴人との間の賃貸借契約を解約して退去するに至り、賃貸人である被控訴人に対して同室の長期間の賃料の受領不能及び同室の新入居者を決めるための同室の賃料の減額という経済的損失まで与えていること、控訴人は当該訴訟の係属中にされた解除の後においても同室に入居した者に対して同様の迷惑行為を行い、同入居者から賃貸人である被控訴人に対して苦情の申入れがされているという事案について、

    賃貸借契約の基礎となる賃貸人である被控訴人と賃借人である控訴人との間の信頼関係は、特約が定める禁止行為に該当すると認められ、特約に違反する控訴人による近隣住民等に対する度重なる迷惑行為によって著しく損なわれ、完全に破壊されており、その回復の見込みはないといわざるを得ないとして、解除を認めています。

     

    東京地裁平成17年3月7日判決

    ・控訴人が建物に入居したころから、マンションにおいて、何かを叩くような騒音が一年程の間、昼夜を問わず、毎日、1日に何十回も不規則な間隔で発生し、その後も現在に至るまで、深夜12時過ぎから明け方4時から5時までの間に、1、2時間おき程度の間隔でそれぞれ1ないし3回同様の騒音が発生していること(本件騒音)

    ・本件騒音に耐えられなくなった入居者が数名、賃貸借契約を解約してマンションから退去していっており、また、マンションの入居者が本件騒音を問題にして、不眠や健康被害を訴えていること

    ・控訴人は、マンションの廊下まで音が漏れる程度の音量で、テレビを一晩中つけっぱなしにすることがあること

    ・A夫婦が、控訴人に本件騒音について話し合いを持ちかけたところ、控訴人は、A夫婦に対し、「俺は、前に住んでたところで家主をぶん殴ったんだぞ。」と言ったこと

    ・Dが控訴人に騒音の苦情を申し入れたところ、控訴人は、Dとの間で言い争いとなったこと

    ・控訴人は、Cの介護人であるEに対し、「お前か、グチグチ言っているのは、ぶっ殺すぞ。」と言ったこと

    これら事実を認定し、解除条項に違反している旨判示しています。

     

    東京地裁平成17年2月28日判決

    ・被告居宅内で深夜から明け方にかけての時間帯に、「バカモン、バカモン」などと訳の分からないことを大声で言い続けたり、

    ・部屋の中の物をたたくような音を出したりしてアパートの住民の安眠を妨げたり、

    ・アパートの住民を同アパート付近で見つけると近寄ってきてなかなか離れず、一部の住民に対しては、その住民の職場前まで追いかけて住民を怖がらせたり、

    ・昼夜問わず酒に酔ってアパートの住民に大声で怒鳴ったりし、

    ・このような原告への対処に困った住民が、110番通報をして警察官に臨場してもらったことが何度もあるほどで、現在も同様の行為が続いていること、

    ・被告が、アパートの空地部分に、壊れた自動二輪車や、衣装ケース入りの衣服、ビニールシートなどを乱雑に積み上げて放置し続けており、原告が注意をしても聞き入れなかったこと、

    ・原告やアパートの住民全員が、賃貸借契約において被告の保証人となっている区に対して被告の行状を陳情し、区から被告に注意をしてもらっても、被告の態度は改められなかったこと。

    これらの被告の行動は、特約に規定された「近隣の迷惑となる行為」にあたり、このような行為によって、原、被告間の信頼関係は破壊されたものと認められるから、解除原因があるということができ、賃貸借契約は、無催告でなされた本件解除により終了したものといえると判示しています。

     

    大阪地裁平成1年4月13日判決

    同判決は、公営住宅における迷惑行為のケースですが、Aは、音に異常な程過敏でかつ粗暴であるところから近隣居住者の通常の生活から必然的に発生する各種の音(生活音)に対し異常な反応を示し、その生活音を発生させた近隣居住者に対し「音がうるさい。」と怒鳴り込み、立腹の余りその仕返しと称して居室において日常的に故意に騒音等を発生させ、時には暴行脅迫に及ぶというもので、Aのこのような生活妨害行為のため、殊にAの居住する居室の真下に当る二〇一号室は原告の入居前から、誰が入居したとしてもその物的設備を通常の用法に従って円満に使用できないのみならず人として通常の平穏な生活を営むことができず、このことによる不利益や精神的苦痛は通常人の受忍限度をはるかに越えていたものと認められるから、二〇一号室は原告の入居前から本件状態を欠いていたものというべきであるとし、

    Aの原告に対する前記生活妨害行為は、賃貸人に対する賃貸借契約上の義務に違反し、かつ賃貸人との間の信頼関係を破壊するに足りるものであったから、賃貸人としては、Aに対し賃貸借契約を解除のうえ明渡を求めることもできた旨判示しています。

     

     

    ■解除を認めなかった裁判例


     

    他方、賃貸人が賃借人の迷惑行為を理由に解除を主張したけれども、これが認められなかったものとして、次の裁判例があります。

     

    東京地裁平成27年2月24日判決

    6歳の長男が、三〇五号室のドアにマニキュアを付けたこと、マンションの三階の通路付近で大便を漏らしたこと、同通路付近に竹輪と納豆ご飯を放置したことがあったについて、その父親に一部損害賠償を認めつつ、長男が、当時六歳であったこと、各行為の内容及び程度、及び、被告らは、警察からの連絡により、長男から話を聞き、長男に対する監督を強めたという経緯に照らし、賃貸借契約の継続が困難である程度まで、原告と被告との間の信頼関係が破壊されたと評価することはできず、また、解除条項所定の事由が存在するということもできないと判示しています。

     

    東京地裁平成19年1月12日判決

    ・被告は、建物を賃借してからの約5年間は、格別問題となるような事態を発生させた事実はない。

    ・平成14年7月になって、建物の玄関前の共用廊下に食器、棚、雑誌等かなりの量の荷物を放置していた事実が認められるが、このときには、父親である連帯保証人Bの協力により、2か月程度のうちに解決したことが認められる。

    ・隣人との関係については、平成17年2月12日に306号室の前居住者の母親から、被告が昼夜関係なく建物の玄関前辺りで意味不明の被害妄想的な言葉を発するなどしたり、ドアノブをガチャガチャさせるなどしたとして、原告に連絡があったことから、306号室の前居住者が怖がっていたという事実を認めることはできるが、被告が307号室のドアではなく、306号室のドアをガチャガチャさせていたことを認定するに足りる証拠はなく、被告に加害意思があった事実を認めることはできない。

    ・また、その後、306号室の前居住者が、他の賃貸物件に転居することなく、結局のところ、同一建物である×××の別の階に移転しただけに止まったことからすれば、306号室の前居住者が受けた被害も比較的軽いものであったことが推認されるというべきである。

     

    以上によれば、被告との関係で必ずしも受忍しがたいような状況があると認定することはできないとして、信頼関係を破壊するまでの行為があったとはいえないとして解除を認めていません。

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    2021.12.02

    【不動産】私道における駐車の可否

    迷惑駐車

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    私道の地形上、自動車による通行ができない場合や、自動車の通行が危険である場合、自動車による通行はしない旨の特約がない限り、私道を自動車で通行をすることは認められると考えられます。

     

    では、自動車での通行権が認められる場合でも、私道に駐車することは許されるでしょうか?

     

    裁判例を見る限り、一時的な停車については認められても、長時間の駐車については、もはや通行と同視することができず、他人の通行を妨害するものとして許されず、妨害の排除(自動車の他の場所への移動)が認められています。

     

    駐車と停車の違い


     

    道路交通法上の駐車とは、「車両等が客待ち、荷待ち、貨物の積卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く。)、又は車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転をする者がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう。」と定められています(第2条1項18号)。

    車両の継続的な停止ですが、単に時間の長短だけでなく、運転者の意思や具体的状況によって判断されます。

     

    これに対し、道路交通法上の停車とは、「車両等が停止することで駐車以外のものをいう。」と定められています(同条項19号)。例えば、貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための自動車の停止です。

     

    ■囲繞地通行権に基づく場合


     

    東京高裁昭和50年1月29日判決は、「袋地所有者が営業上小型貨物自動車を出入りさせ、一時停車させる必要があり、囲繞地所有者も自動車の使用による便益を享受しているなどの事情があるときは、袋地所有者は、幅員2.67メートルの囲繞地通行権を認められるべきであるが、その内容は、小型自動車による通行及びその停車を含むが駐車を含まないものと認めるのが相当である。」旨判示しています。

     

    ■賃貸借に基づく場合


     

    東京地裁昭和63年2月26日判決は、「本件土地の有効幅員は二・七五ないし二・七六メートルに過ぎず、被告らが乙地に住むようになるまで、本件土地に常時、車を駐車させた者はいなかったこと、被告らは原告建物の玄関の前方に車を駐車させることがあり、本件土地に駐車されることによって、原告及びその家族の通行及び居住が不便となるものであること、被告らに本件土地に駐車させないよう注意したが、被告らは本件土地に専用賃借権を有するとの考えのもとに右の注意に応じなかったことが認められる。」、「被告らがこのとおり、本件土地に日夜、車を駐車させることは原告の賃借権の行使を妨害するものであるから、被告らはこれを撤去すべき義務がある。」旨判示し、通路として使用している土地の賃借人から、同じ土地を同様に賃借している者に対する賃借権に基づく駐車禁止が認められています。

     

    ■通行地役権に基づく場合


     

    最高裁平成17年3月29日判決は、「本件地役権の内容は、通行の目的の限度において、本件通路土地全体を自由に使用できるというものであると解するのが相当である。そうすると、車両を本件通路土地に恒常的に駐車させることによって同土地の一部を独占的に使用することは、この部分を上告人が通行することを妨げ、本件地役権を侵害するものというべきであって、上告人は、地役権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求権に基づき、被上告人に対し、このような行為の禁止を求めることができると解すべきである。」と判示しています。

     

    ■共有持分に基づく場合


     

    東京高裁平成10年2月12日判決は、「控訴人は、本件係争土地を本件駐車場所として使用することは、本件土地の共有持分に基づく使用として当然に許されるように主張するが、控訴人の主張する使用権は、本件係争土地を控訴人が本件駐車場所として排他的に使用する権利であって、そのような使用が本件土地の共有持分に基づく使用として許される範囲を超えることは明らかである。」と判示して、共有持分に基づき、駐車場所として使用することを認めていません。

     

    ■位置指定道路である私道の場合


     

    東京地裁平成23年6月29日判決は、「被告土地の関係者が本件私道を徒歩ないし自転車等で通行することは、前記位置指定道路の性質からしても、また実際の本件私道や被告土地の状況からしても、本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものとはいえないが、幅約4メートルしかなくかつ通り抜けできない本件私道に自動車を乗り入れることは、駐停車により本件私道によってのみ公道に通じている本件隣接地の利用者の利便を著しく損なう可能性の高いものであり、ひいては本件隣接地の所有者、すなわち本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものである。」として、私道の利用についての取り決めは、自動車通行することや駐停車することを禁ずる限度で有効な制限と判示しています。

     

    道路交通法や車庫法に基づく駐車禁止等の可否


     

    そもそも、当該私道が一般交通の用に供されている場合は、私道における駐車は認められるべきではありません。

    自動車の保管場所の確保等に関する法律第11条1項に、「何人も、道路上の場所を自動車の保管場所として使用してはならない。」と定められているからです。

     

    しかしながら、一般私人が、これら法令を根拠に、駐車や保管の禁止を請求できるかというと、東京地裁平成31年3月14日判決は、「道路交通法44条及び車庫法11条はいずれも取締法規であるから、原告が当該法令を直接の根拠として、被告らに対して本件駐車位置への駐車・保管を禁止する旨の請求をすることはできない。」と判示しています。

     

    ■駐車しても、残りの幅員で車両通行が可能な場合は?


     

    駐車しても、残りの幅員で車両通行が可能であったとしても、幅員全部について、駐車の禁止を求めることができます。

    この点、前述の最高裁平成17年3月29日判決も、「車両を駐車させた状態での残余の幅員が3m余りあり、通路土地には幅員がこれより狭い部分があるとしても、そのことにより係争地付近における通路土地の通行が制約される理由はないから、この結論は左右されない。」と判示しています。

     

     

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