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    2024.05.08

    【著作権】写真をウェブページに掲載した行為が「引用」に該当しないとされた裁判例

    虎ノ門桜法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

    今回は、他人が著作権を有する商業用写真を自社ウェブページに掲載した行為が「引用」には該当しないとして著作権侵害を認めた東京地裁令和5年5月18日判決をご紹介させていただきます。

    なお、主たる争点である引用の成否のほか、損害額についてのみ説明させていただき、当該裁判例で争点となっていた承諾の有無や、消滅時効の成否、取締役の責任の有無については、割愛させていただきます。

    シンガポールの夜景

     

    ■事案の概要


     

    写真家である原告は、デザインの企画・制作等をしている被告会社が受託した小冊子(本件小冊子)に、原告が著作権を有する写真4点(本件各写真)を掲載することを許可しました。

    被告会社は、本件小冊子の作成後、自社の実績紹介として自社のウェブページに本件各写真を7年以上も漫然と掲載し続けました。

    そこで、原告が、被告会社においてそのウェブページ上に本件各写真を掲載した行為が、著作権に係る公衆送信権を侵害すると主張して、被告会社らに対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償請求しました。

     

    ※自社の実績紹介のためだったとはいえ、著作物を取り扱うデザイン会社が、自社のウェブページに、他人の著作物を掲載した行為は脇が甘かったと思いますが、皆様におかれましては、このようなミスをしないよう注意してください。

     

    ■引用の根拠条文


     

    著作権法32条1項には、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定められています。

    「引用」に該当する場合、著作権は制限され、著作権侵害には当たらないことになるわけです。

     

    ■引用の判断基準


     

    当該裁判例は、著作権法32条1項を引用し、

    「公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべきである。」と判示しています。

    現行著作権法の文言に即して判断すべきであるという総合考慮説を採用したものであり、絵画鑑定証事件判決(知財高裁平成22年10月13日判決)を踏襲したものです。

     

    これに対し、「引用」の成立要件として、明瞭区別性や主従関係性を要することを判断基準とする主従関係説がありますが、これは旧著作権法下における古い判断基準です。

     

    ■引用の成否(あてはめ)


     

    当該裁判例は以下の事実を認定し、

    ・本件各写真は、被告会社に対し、合計460万円で本件小冊子への掲載について利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものであるところ、

    ・本件各写真は、本件契約の許諾期間経過後に、ウェブページに掲載されたこと、

    ・ウェブページの右側には、画面の横幅半分以上を占める長方形の枠があり、その上部には横一列で本件各写真を含む写真が小さく表示されているところ、当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示されること、

    ・画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示されること、

    ・被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、ウェブページに上記デジタルデータを掲載したところ、本件各写真のデジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったこと、以上の事実が認められる。

     

    これらの事情の下においては、ウェブページには、商業的価値が高い本件各写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となる態様で大きく掲載されており、本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されていることからすると、本件各写真の著作権者である原告に及ぼす影響も重大であることが認められる。

    したがって、ウェブページにおける本件各写真の利用は、上記認定に係る本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮すれば、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできない、と判示し、著作権侵害を認めました。

     

    ■損害額


     

    このように商業用写真の著作権侵害が認められた場合の損害額の算定についても参考になりますので、紹介させていただきます。

     

    (原告の請求額)

    原告は、1クール(3ヶ月)ごとの本件各写真の使用許諾料を基準に、無断使用された期間の損害を積み上げ、1億7540万円の損害賠償請求をしました。

     

    (当該裁判例の算定)

    これに対し、当該裁判例は、次のとおり、414万円の損害のみ認めています。

    ・ウェブページにおいて広告として写真等を使用する場合、当該使用料は、使用期間が長期になるに従って1年当たりの料金が逓減し、使用期間が5年ないし10年の場合における1年当たりの使用料は、使用期間が1年の場合の3割程度の金額となるものと認められる(長期間使用の場合の使用料の逓減)。

    ・写真を商業目的で使用する場合と、実績紹介として非商業目的で使用する場合とでは、使用目的、使用態様その他取引の実情に照らし、その使用料は大幅に異なるものと認めるが相当であり、その他の本件に現れた事情も斟酌すると、本件契約の使用料の1割をもって、本件ウェブページの掲載につき支払うべき金銭の額に相当する額というべきである(商業目的か非商業目的かによる使用料の違い)。

     

    本件小冊子に本件各写真を掲載したときの460万円の使用料は本件プロジェクト期間の1クール(3か月)に対するものと認めるのが相当であるから、本件各写真のウェブページの掲載につき原告が受けるべき金額は、1年当たりの商業目的の使用料1840万円(460万円×4)に、掲載期間7.5年を乗じ、更に長期逓減率である3割を乗じた上で、実績紹介としての非商業的目的であることを考慮してその1割を乗じた金額とするのが相当である。

    したがって、損害額は、次の計算式のとおり、414万円になるものと認められる。

    (計算式)1840万円×7.5年×30%×10%=414万円

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