虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

当事務所では、マンションにおける騒音問題についてご相談やご依頼を受けることが多々ありますが、問題の解決に役立てていただくため、今回は、騒音の立証方法についてご説明させていただきます。

 

なお、騒音の差止や損害賠償請求を認めた裁判例については、以下をご参照ください。

 

マンションの階上からの騒音防止及び損害賠償請求

 

騒音うるさい

 

■ 被害者が立証すべきこと


 

 

騒音の被害者は、裁判において、次の点を立証する必要があります。

 

① 騒音が客観的に存在すること(騒音の存在)

② その騒音が、上階や隣室等の居住者やその同居者の行動が原因であること(騒音の原因)

 

まずは通知書を発送したり、交渉をしたりする場合でも、相手方に拒否された場合に備え、訴訟提起を視野に入れて、調査や証拠の保全をしておく必要があります。アクションを起こした後では、相手方が警戒をし、十分な証拠の収集をすることができないおそれがあります。

 

 

■ 被害者が立証に成功した裁判例


 

 

東京地裁平成24年3月15日判決の事案では、被害者が専門業者に委託して、約64万円の費用をかけ、約1ヶ月間にわたり、リビングルームの中央で高さ1.2mの位置を測定点として騒音計マイクロホンを設置し、階上からの音を聴感で関知した際に、騒音計とこれに接続したレベルレコーダーを稼働させて、騒音を測定しました。これは重量衝撃音(子供の体重に近い重量物を高さ1m程度から落下させた時の床衝撃で発生する音)や、軽量衝撃音(椅子の引きずり音やスプーン等の比較的軽量固形物が落下した時の衝撃音)、上階の居室から下階の居室へ伝搬する歩行音の周波数特性等を分析できるものでした。

 

また、東京地裁平成19年10月3日判決の事案では、被害者が、騒音計のリースを受けるなどし、騒音計をリビングダイニングのほぼ中心から廊下寄りの位置で、天井から約70㎝~1mの位置に設置し、C特性で測定しました(なお、耳の感度に近似するのは、A特性であり、測定された床衝撃系騒音についてC特性をA特性に補正しています)。

 

さらに、東京地裁平成26年3月25日判決の事案はロックミュージシャンの歌声により騒音被害を受けたという特殊な事案ですが、被害者から委託を受けた専門業者が、1時間、JIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」に概ね則った方法で、被害者の洋室、リビングダイニング及び玄関ホールにおいて、暗騒音と相手方が歌った時の騒音レベルを測定しました。

 

これら裁判例では、いずれも相手方からの騒音の発生が認められ、損害賠償請求が認められています。

 

 

■ 被害者が立証に失敗した裁判例


 

 

これに対し、東京地裁平成9年4月17日判決の事案では、被害者が、階上からの騒音の発生状況を「騒音日誌」に記録したほか、これだけでは不十分と考え、連日5、6時間にわたり自宅において上方から生ずる音の録音を続け、より正確な騒音を録取するために、集音マイクを自宅の天井に接して録音した上、音響研究所に依頼し、天井付近でマイクを使用して録音した音を、実験で再現した音と対比、検討した結果、録音されていた音は、自宅で録音したものと推定できる旨の鑑定書を提出するなどしました。

 

しかし、当該判決は、客観的なデータを提供する騒音測定を行うに当たっては、計測用の器機を準備することに加え、音響工学に関する専門的知識及び技術も必要となるところ、被害者がこれまでに独自に行ったという騒音測定の結果は、いかなる機種をいかなる特性の下で使用し、いかなる方法によっていかなる音を採取したものであるか等が明らかにされていないことや、被害者が提出した調査結果も、録音されている音が、相手方宅でゴルフ練習機を作動させたことによって発生した音であると断定するものではなく、あくまでもその可能性があることを述べるに止っていることなどを理由に、騒音の発生を認めませんでした。

 

 

■ まとめ


 

 

以上の裁判例からすると、単に騒音の状況を記録した日誌や、騒音の録音だけでは立証としては不十分であり、騒音計による測定が必要不可欠であるといえます。

 

しかも、被害者宅の暗騒音の影響を排除したり、相手方宅からの重量衝撃音を分析できたりすることを考えると、騒音測定の専門業者に委託して測定するのが望ましいでしょう。