虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

マンションの階上の部屋からの騒音に悩まされている方は、多くいらっしゃるようですね。当事務所でもご相談を受け、ご依頼を受けております。

 

今回は、階上の部屋の子供による飛び跳ねや、走り回りなどの騒音が、階下の居住者の受忍限度を超え、不法行為を構成するとして、騒音の差し止め請求や、損害賠償請求を認めた裁判例(東京地裁平成24年3月15日判決。以下、「平成24年判決」と言います。)などをご紹介させていただきます。

 

なお、騒音の立証方法につきましては、こちらをご参照ください。

【マンショントラブル】騒音の立証方法

 

耳をふさぐ

 

 

■基本的なものの考え方


 

 

騒音は、受忍限度を超える場合に、人格権を侵害したものとして、不法行為となります。これは、社会共同生活を営む上で一般通常人ならば当然受任すべき限度を超えた侵害を被ったときに、侵害行為は、違法性を帯び、不法行為責任を負うという考え(受忍限度論)に基づくものです。

 

■判決主文


 

 

平成24年判決は、階上の建物から発生する騒音を、階下の建物内に、「午後9時から翌日午前7時までの時間帯は40db(A)を超えて、午前7時から同日午後9時までの時間帯は53db(A)を超えて、それぞれ到達させてはならない。」として、騒音防止(騒音の差止)を認めるとともに、階下の居室に居住する原告夫婦それぞれの損害賠償請求も認めました。

 

■判決理由


 

 

平成24年判決は、足音、走り回りや飛び降り、飛び跳ねなどを衝撃源とする生活音は、生活実感として、48db(A)を超えるとやや大きく聞こえ、うるささが気になり始める程度に達し、53 db(A)を超えるとかなり大きく聞こえ相当にうるさい程度に達し、40 db(A)であれば、小さく聞こえるもののあまりうるさくない程度にとどまることを認めた上で、

 

被告の子が認定した頻度・程度の騒音を階下の居室に到達させたことは、被告が配慮すべき義務を怠り、原告らの受忍限度を超えるものとして不法行為を構成するものというべきであり、かつこれを超える騒音を発生させることは、人格権ないし階下の居室の所有権に基づく妨害排除請求としての差止の対象となるとして、上記主文の通り判示したものです。

 

なお、db(A)とは、マイクロホンで物理的に捉えた音圧信号を人間の耳の感度特性に合わせて評価する場合に使用する単位であり、騒音レベルの評価に使用するものです。

 

■損害


 

 

平成24年判決は、損害として、次のものを認めています。

 ・原告夫婦それぞれの慰謝料のほか、

 ・原告妻が、騒音により頭痛等の症状を訴え、医師より自律神経失調症との診断を受け、通院を開始したことにより支出した治療費・薬代実費

 ・騒音測定を業者に依頼して支払った費用・報酬

 

騒音の測定費用は、本来、騒音防止や損害賠償請求をするための費用ですが、客観的な騒音の測定は、不法行為の立証のために必要不可欠なものであり、同測定は第三者の専門家に依頼することが必要不可欠であるとして、不法行為と相当因果関係がある損害として認めたものです。

 

このように、騒音の立証には、客観的な騒音測定が必須ですので、騒音による損害賠償請求等をお考えの方は、必ず、事前に、専門業者に騒音測定を依頼してください。

 

 

■その他の裁判例


 

 

その他にも、階上の居室の子供が廊下を走ったり、跳んだり、跳ねたりする音が階下に居住する住民の受忍限度を超えるとして損害賠償請求を認めた裁判例として、東京地裁平成19年10月3日判決(以下、「平成19年判決」といいます。)があります。

 

なお、この事案ではもともと損害賠償請求しかなされていませんでしたので、騒音防止(差止)については判断されていません。

 

平成19年判決では、被告の長男(当時3〜4歳)が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりするときに生じた音が、約1年8ヶ月間、ほぼ毎日、階下の原告の居室に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50〜65db程度のものであることが多いことや、

 

被告は、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかではなく、それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかでなく、

 

原告に対しては、「これ以上静かにすることはできない」、「文句があるなら建物に言ってくれ」と乱暴な口調で突っぱねたり、原告の申し入れを取り合おうとしなかったのであり、その対応は極めて不誠実なものであったことなどを認定し、

 

原告の慰謝料や、若干の弁護士費用を損害として認めています。