【著作権】平成30年の著作権法改正について知っておくべき7つのこと
虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。
平成30年5月25日、著作権法の一部を改正する法律案が交付されました。 これは、主に、デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため、著作権者の許諾なしに、著作物を利用できる範囲を拡大し、著作物の利用をより円滑に行えるようにすることを目的としたものです。
■0 はじめに
原則として、他人の著作物を利用(例えば、コピーしたり、インターネットで送信したりする行為)するには、著作権者の許諾が必要です。
ただし、例外的に、法律で定める一定の場合には、著作権者の権利が制限され、許諾を得なくても、自由に利用することができます。今回の法改正により、以下の通り、その範囲が拡大されたのです。
■1 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用
公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができるようになります(新著作権法第30条の4)。
試験の用に供する場合に限らず、その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合も同様です。
■2 情報検索のための利用
著作物の市場に悪影響を及ぼさないビッグデータを活用したサービスのため、著作物の利用について、著作権者の許諾なく行えるようになります(同法第47条の6)。
例えば、書籍等の著作物の所在を検索するサービスについて、その結果とともに、書籍の表紙やその内容の一部を表示することが可能となります。
イノべーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定となっています。
■3 情報解析のための利用
コンピューターによる情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うこと)を行うことを目的とする場合には、必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案を行うことかができます(同法第47条の7)。
例えば、大量の論文データを収集し、学生の論文と照合して盗用がないかチェックし、盗用箇所の原典の一部分を表示するなど、論文盗用の有無を検証するために利用することができるようになります。
■4 教育の情報化における利用
ICTの活用により教育の質の向上を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材を、ネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、著作権者の許諾なく行えるようになります(同法第35条)。
現行法では、ここの著作権者の許諾とライセンス料の支払いが必要でしたが、これが不要となります。
ただし、著作権者に対し、補償金の支払いは必要となります。
■5 障害者の情報アクセス機会の充実
現行法では、視覚障害者や発達障害等で著作物を視覚的に認識できない者のみが対象になっている規定を見直し、肢体不自由等を含め、障害によって書籍を読むことが困難な者のためにも、録音図書の作成等を許諾なく行えるようにすります(同法第37条)。
これは、マラケシュ条約(視覚障害者や判読に障害のある者の著作物の利用機会を促進するための条約)の締結に向けられたものです。
■6 美術品の展示作品の解説等における利用
美術の著作物又は写真の著作物を原作品により公に展示する者は、当該著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を複製し、上映し、又は 自動公衆送信を行うこと等ができるようになります (同法第47条関係)。
現行法では、小冊子(紙媒体)への掲載のみ、許諾不要でしたが、例えば、タブレット(デジタル媒体)での解説や紹介が可能になります。
■7 施行日
平成31年1月1日からの施行です。
ただし、「4 教育の情報化における利用」については、公布の日から3年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。