霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、ぼったくり店におけるクレジットカードの利用について、会員を免責した裁判例(東京地裁平成27年8月10日判決)をご紹介させていただきます。

 

被告は、深夜、1時間4000円との約定で都内の飲食店に入店し、少なくともシャンパン1本を追加注文しましたが、その後店舗内で眠ってしまい、未明に店舗従業員から代金の精算を求められ、代金額を聞かずに、クレジットカードを交付しました。その後、店舗従業員から代金が100万円であると告げられ、これに対し、被告は不当請求であるとして支払を拒絶し、売上票への署名をすることなく、クレジットカードを取り返しました。そして、店舗従業員との話し合いの結果、被告が5万円を払うことで解決することになり、被告はATMから5万円を出金した上で店舗に支払いましたが、それ以前に、店舗は、クレジットカードの処理端末を利用して、78万4100円の利用があったとする手続きをとってしまっており、後日、カード会社と決済代行業者、店舗の間で、順次、これについて立替払いの決済がなされました。この立替金について、カード会社が会員である被告に対し、支払を求めたのが、上記事案です。

 

当該カードの規約には、盗難、詐取、横領又は紛失に係るクレジットカードが第三者により不正使用された場合における利用代金の支払いについても会員本人の責任とした上で、一定の要件の下で会員の損害を原告が填補するものとされていましたが、上記以外の態様により不正使用がされた場合の会員の責任に関する明文規定は存在しませんでした。

 

しかし、頭書の裁判例は、上記に列挙された事由は例示的なものであって、それ以外の態様により会員の正当な意思によることなく占有が移転されるなどしたクレジットカードが不正使用された場合についても、当該規約が適用されると判示しました。

 

そして、当該店舗からの当初の請求は、意図的な過大請求であったと認め、そのような請求が行われることを認識せずに、クレジットカードを交付したことは、被告の正当な意思によらない占有移転であり、店舗従業員が過大請求額に基づく利用があったとする手続きをとったことは不正請求にあたるから、上記規約の適用があり、被告の立替金の支払いは免責される旨判示したのです。

 

以上のとおり、本件事案は、過大請求されることを知らずに、一旦、クレジットカードを交付してしまい、その後、過大請求であることを知って、売上票に署名することなく、クレジットカードを取り返しましたが、カードの利用処理がされてしまっていたという事例です。

 

これに対し、ぼったくり店において、過大請求であることを知りながら、根負けして、クレジットカードを交付し、売上票に署名してしまった場合には、会員が免責されない可能性が高いので、お気を付け下さい。