霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、元請人が下請人に対し、建築瑕疵を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をした、東京地裁平成27年6月26日判決をご紹介させていただきます。事案の概要は次の通りです。

 

原告(元請け)は、平成10年に、ディベロッパーであるA社から、千葉県浦安市内における戸建住宅の設計・施工を請け負い、さらに被告(下請け)に対し、その基礎工事を発注しました。平成11年に完成した当該建物は、A社から、Bに対し売却されました。ところが、平成23年に発生した東日本大震災により、周囲の地盤が液状化し、当該建物に不同沈下が生じました。当該建物の所有者Bは、沈下修正工事を計画しましたが、事前調査を行った業者から、基礎の底盤の厚さが薄いため、沈下修正工事ができないと告げられたため、施工業者である原告に対し、損害賠償を求め、両者が協議した結果、原告がBに対し、解決金1000万円を支払うという和解が成立しました。その後、原告が基礎工事をした被告に対し、不法行為に基づき、解決金相当額の損害賠償を求める訴えを提起したというのが本件事案です。

 

原告と被告とは、直接、請負契約を締結した当事者であるわけですから、本来、契約に基づく債務不履行や瑕疵担保責任を追及すべきです。なぜそうしなかったかと言えば、契約の締結・引渡が十数年以上前なので、時効や除斥期間に掛かっていると考えられるため、不法行為に基づく損害賠償請求という構成をとらざるを得なかったものと推測されます。

 

この地裁判決の前提として、建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命・身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、基本的に、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う旨判示した最高裁平成19年7月6日判決、及び「建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する」旨判示した最高裁平成23年7月21日判決が参考になります。

 

冒頭の地裁判決は、これら最高裁判例を前提として、「元請人は施主又は居住者等から不法行為に基づく損害賠償責任を追及される可能性があるところ、自らが関与しない下請人の所為によって経済的な負担を強いられないという利益は不法行為上も法的保護の対象となるものと解される。」、「最高裁平成19年判決が建物の建築に係る元請人と下請け人との間の不法行為責任について直接判事したものでないとしても、その理は、下請人の元請人に対する不法行為責任の有無を判断するに際しても同様に妥当すべきである。」などと判示して、一般論として、元請人の下請人に対する、建築瑕疵を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を認めました

 

しかし、あてはめ段階において、専門家調停委員の意見も踏まえ、当該基礎の耐力を全体としてみる限り、不同沈下補正が不可能とはいえないことはもとより、将来的にみて建物の基本的な安全性を損なう蓋然性があるとまでは認められないとして、結論として、原告の請求を棄却しています。