霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、従業員が、勤務終了後、自家用車を運転中に起こした交通事故について、会社の使用者責任に基づく損害賠償義務を否定した裁判例(東京地裁平成27年4月14日判決)をご紹介させていただきます。

 

民法の基本の勉強になりますが、民法第715条の使用者責任の要件の一つである「事業の執行」には、判例上、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合も含まれるとされています(外形理論)。

 

これは、取引的不法行為のみならず、交通事故のような事実行為的不法行為にも適用されています。

但し、事実的不法行為に対して外形理論を適用することについては否定的な見解や、被用者の自家用車による通勤途上の事故については、使用者責任も運行供用者責任も原則として否定されるべきであるとする見解もあります。

 

頭書の東京地裁の裁判例は、工事現場において交通誘導の業務を行っていた従業員が、勤務が終了した後に、制服を着用したまま退勤し、自家用車を運転中に交通事故を起こしたという事案ですが、

被告(会社)は、警備員に交通誘導業務を行わせるにあたり、指定工事現場への直行直帰を認めており、業務の前後で被告の本社において被告の業務を行うことは予定されていなかったこと、

交通誘導業務に当たって自家用車を利用する必要があるなどの事情は窺われず、公共交通機関を利用して指定工事現場に行くことも可能であったこと、被告が警備員に対し、自家用車による通勤を命じたり、これを助長するような行為をしていたことは窺われないこと

に照らすと、警備員が交通事故当時、被告の制服を着用していたことを考慮しても、同時点の警備員の運転行為が被告の業務と密接に結びついているということはできないとして、会社の使用者責任に基づく損害賠償義務を否定しました。