内縁の夫が交通事故により死亡した場合、その内縁の妻に損害賠償請求権を認めた事例
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
今回は、内縁の夫が事故により死亡した場合、その内縁の妻に損害賠償請求権を認めた裁判例(東京地裁平成27年5月19日判決)をご紹介させていただきます。
一般論として、内縁の配偶者が、他方の配偶者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が不法行為によって死亡したときは、内縁の配偶者は、将来の扶養利益の喪失を損害として、加害者に対して、その損害賠償請求をすることができます(最高裁平成5年4月6日判決)。
頭書の裁判例でも、原告(内縁の妻)が死亡した内縁の夫と、約29年にわたり、ほぼ住居を同一にして生活し、主に内縁の夫の稼働収入によって生計を維持してきたこと等から、両者が内縁関係にあったことを認定し、内縁の妻の被告(加害者)に対する扶養請求権侵害による損害賠償請求を認めています。
法律上の婚姻関係がある場合には、死亡した配偶者が将来得たであろう逸失利益が損害額となり(死亡した本人の生活費を控除することになりますが)、それを他の配偶者が相続するという構成をとるのに対し、内縁関係の場合には、扶養されていた内縁の配偶者自身の扶養利益が損害額となる点が異なりますね。
一般的に、扶養利益の算定は、死亡した被害者の年間収入から、その死亡した被害者本人の生活費を控除した額に、家族構成を考慮しながら決定される内縁配偶者の扶養利益分を乗じ、それに想定される扶養関係の存続期間を乗じて算出するものとされています。
また、内縁の配偶者には、扶養利益の喪失による損害のほかに、固有の慰謝料も認められます。
当該事例でも、内縁の夫と妻との関係及び生活状況等、その他一切の事情を考慮して、内縁の妻の固有の慰謝料として500万円を認定しています。
なお、当該事例では、死亡した内縁の夫にも過失があり、40%の過失相殺をするのが相当であることから、内縁の夫と身分上ないし生活関係上一体であると認められる内縁の妻の固有損害についても、40%の過失相殺が相当であると判示されています。