虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、周辺住民らによる、開発工事の差止請求等を棄却した裁判例(神戸地裁尼崎支部令和元年12月17日判決)をご紹介させていただきます。

 

開発工事

 

 

●事案の概要


 

 

本件は、兵庫県西宮市内にある高塚山と呼ばれる小高い丘にある土地の所有者が事業主、建設会社が工事施行者となって、宅地分譲のための開発を行っていることについて、周辺住民らが、人格権から導かれる「まちづくり権」などを侵害されたと主張して、開発工事の差止や、損害賠償を請求した事案です。

 

 

●「まちづくり権」


 

 

周辺住民(原告)らは、「まちづくり権」について、「より暮らしやすい、自らの幸福を追求しうる生活環境を自ら決定する権利、自らの住む地域のあり方を自らが決定する権利」であると定義した上で、これは人格権が具体化したものであり、法的権利として認められるなどと主張しました。

 

この点について、本判決は、「まちづくり権」について、法的権利性を有し、工事差止等が認められるためには、

 

①権利として客観的に認知されていること、

②その内容や効力が及ぶ範囲、発生の根拠、権利主体などについて、一義的な判断を下すことができる程度の明確な実態をすること

 

が必要であるとした上で、原告らが主張する「まちづくり権」は、

 

①土地所有権等を制約するものとして客観的に認知されているということはできないし、

②どの範囲の住民が、どのような相手方に対して、差止等の権利行使を行うことができるのかといった具体的内容も全く不明である

 

などと判示して、その法的権利性を否定しました。

 

 

●都市計画法や条例違反の主張


 

 

また、原告らは、当該開発許可手続において、原告ら住民に対する十分な住民参加手続が履践されなかった結果、当該開発工事は、都市計画法や条例に違反するものになったと主張しました。

 

この点について、本判決は、都市計画法や条例によるまちづくりに対する住民関与の手続きは、主として市等の地方公共団体の責務とされているものであって、

 

都市計画法上の開発許可を受けた者は、当該開発許可に重大かつ明白な違法が存し、無効であるような場合の他は、取消訴訟によって取り消されない限り、開発工事を実施することは行政法上適法であることからしても、

 

事業主ないし施工業者との関係で、住民らがまちづくりに自らが参加し、自らの住む地域のあり方を自らが決定する利益が、法的利益として認められるとまでいうことはできないと判示しました。