【不動産売買】契約不適合責任の免責条項とその有効性
虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。
今年4月1日から改正民法が施行されましたが、改正民法においては、「瑕疵担保責任」という概念はなくなり、引き渡された目的物が種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しているか否かという「契約不適合責任」という概念に変更(再構成)されました。
私は現在5社の不動産会社の顧問弁護士をしており、アパート経営などをされている大家さんからもご相談を受けることが数多くありますが、今回は、不動産売買に関し、契約不適合責任を免除する条項の有効性と、その例文について説明させていただきます。
なお、契約不適合による損害賠償請求の要件については、こちら、
また、【不動産売買】中古建物の雨漏り等による契約不適合責任はこちら、をそれぞれご参照ください。
■基本的に有効
改正民法下の契約不適合責任も、旧法下の担保責任と同様、任意規定であり、これと異なる合意をすることは妨げられませんので、契約不適合責任を免除する特約も基本的に有効です。改正民法572条も、これを前提としています。
■例外的に無効になる場合
ただし、売主の契約不適合責任を免除する特約があったとしても、以下の場合には、売主は契約不適合責任を免れることはできません。
①売主が、契約内容に適合しないことを知りながら、買主に対し、これを告げなかった場合(改正民法第572条)
なお、売主だけでなく、買主もまた、売買契約締結時に、契約不適合の事実を知っていた場合はどうなるかという問題がありますが、この場合は、そもそも契約不適合にはあたらないということになると考えられます。
②売主自らが第三者のために権利を設定したり、第三者に対し、目的物を譲渡した結果、契約内容に不適合をもたらした場合(同条)
③売主が宅建業者で、買主が宅建業者ではない場合には、契約不適合が存在することを通知する期間を、目的物の引渡しから2年以上としなければならず、2年未満に限定する特約は無効となります(宅建業法第40条)。
ここで注意しなければならないのは、上記の場合、特約として有効なのは、買主が契約不適合の事実を知った時の売主に対する通知期間を、引き渡しから最短2年間とすることだけであるということです。
改正前と同様、「契約不適合責任は引渡しから2年間に限り行使することができる」という行使期間自体を2年間に限定する特約を設けてしまった場合には、宅建業法第40条により、無効となりますので、注意が必要です。
なお、売主も買主も宅建業者である場合には、同条の適用が除外されており(78条2項)、契約不適合責任を免責したり、制限したりする特約は有効となります。
④また、消費者契約法に基づき、売主が事業者で、買主が消費者の場合、契約不適合責任を免除する特約や、事業者にその責任の有無・程度を決定する権原を付与する条項は無効とされます(同法8条2項)。
⑤さらに、住宅の品質確保と促進等に関する法律に基づき、新築住宅の売主は、目的物の引渡時から10年間は、「主要構造部分」については、契約不適合責任を負う義務を負い、これに反する特約は無効となります。
■免責条項の例文
契約不適合責任をすべて免除する規定として、次のような例が考えられます。
「売主は、買主に対し、本件物件に関し、契約不適合を理由とする追完、代金減額、契約解除、損害賠償等の責任を追わない。」
また、契約不適合責任を負うとしても、損害賠償額の上限を限定するものとして、次の例が考えられます。
「売主の買主に対する損害賠償責任は、債務不履行責任、契約不適合責任(担保責任)、その他請求原因のいかんにかかわらず、金●●万円を超えないものとする。」
さらに、契約不適合責任の行使期間を制限する例としては次のようなものが考えられます。
「売主は、買主に対し、契約不適合責任を、本件物件の引き渡しをした時から、●か月以内に限り負う。」
「買主は、売主に対し、本件物件に契約不適合があったときは、買主が不適合を知った時から●か月以内に売主に通知し、履行の追完を催告した場合に限り、履行の追完を請求することができる。