契約不適合

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

ネット上でも、契約不適合に関する解説はたくさんありますが、契約不適合を理由とする損害賠償請求の要件について、正確に、というか詳細に解説にするものが見当たらなかったので、私自身の備忘録的な意味も兼ねて(笑)、今回は、この点について、説明させていただきます。

 

なお、契約不適合責任の免責条項とその有効性については、こちらをご参照ください。

 

■契約不適合


 

 

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、契約不適合責任を追及することができます。その責任追及の手段の1つとして、損害賠償請求があるのです(民法564条、415条1項)。

 

目的物の「種類」に関する契約不適合とは、品名、形状・色彩、産地、製造業者等に関して合意した内容と異なること、「品質」に関する契約不適合とは、性質、効用、企画、価値等について合意した基準に満たないことをそれぞれ意味します。もっとも、いずれの契約不適合であっても、効果に変わりはありませんので、両者を区別する実益はありません。

 

また、目的物に数量不足があったすべての場合に、「数量」に関する契約不適合があったことになるわけではありません。契約当事者が、その契約において、「数量」に特別な意味を与え、その数量を基礎として代金額が決定されたような場合にはじめて、「数量」に関する契約不適合があったことになります。

 

契約不適合に該当するか否かの判断枠組みは、
・当該売買契約が具体的にどのような物を対象としていたか確定する段階と、
・実際に引き渡された物がその契約内容に適合する性質を有していたかを判断する段階
の2段階からなります。

 

売買の目的物が契約の内容に適合しないことについての主張・立証責任は、債務不履行を主張する買主が負います。

 

 

■損害と因果関係


 

 

また、契約不適合により、買主が損害を被ったこと、契約不適合とその損害との間に相当因果関係があることも要件となります。これらについての主張・立証責任も買主が負います。

 

■売主の責めに帰すことができない事由


 

 

買主は、売主に対し契約不適合責任を追及するにあたり、契約不適合が売主の責めに帰すべき事由によって生じたことを主張・立証する必要はありません。

 

これに対し、損害賠償請求を受けた売主は、抗弁として、契約不適合が「債務者(売主)の責めに帰すことができない事由」によるものであったことを主張・立証して損害賠償責任を免れることができます(415条2項)。

 

もっとも、売主に帰責事由がないとして、損害賠償責任を免れるのは、実務上、不可抗力など例外的な場合に限られます。 

 

■追完の催告の要否


 

 

契約不適合がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます(562条1項)。

※ただし、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、履行の追完請求をすることができません(同条2項)。

 

そこで、買主が売主に対し、契約不適合炉理由として、損害賠償請求をするにあたり、予め、履行の追完を請求する必要があるか、損害賠償請求権と追完請求権との関係が問題となります。

 

(追完とともにする損害賠償の場合)

まず、売主により追完されても、填補されない損害(たとえば、遅延損害金の賠償や、転売する機会を失ったことによる得べかりし営業利益)の賠償については、追完請求と両立するものであり、予め追完の催告をしなくても、損害賠償請求することができます。

 

(追完に代わる損害賠償の場合)

これに対し、買主自らが費用をかけて目的物を修補したり、他から適合する目的物を調達した費用など、追完請求とは両立しない損害賠償の請求については、諸説あります。

 

代金減額請求権も解除権も、原則として追完の催告を要求していることから、損害賠償請求においても、原則として、売主に対し、まずは追完の請求をし、売主に追完する機会を保証しなければならず、それでも売主が追完しなかった場合にはじめて、損害賠償請求することができるとされています(追完請求権の優位性)。

 

ただし、次の場合は、例外的に、追完の催告は不要となります(563条2項)。
・履行の追完が不能であるとき。
・売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
・契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
・これらの場合のほか、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

 

また、契約不適合に関する規定は任意規定ですので、追完の催告を要せず、直ちに、追完に代わる損害賠償請求をすることができる旨の特約は有効です。そこで、買主がこれを望むのであれば、予め売買契約書にこのような特約を明記しておく必要があるわけです。

 

■権利行使期間


 

 

(種類・品質の契約不適合の場合)

買主は、売買目的物に種類ないし品質に関する契約不適合があったことを知った場合、それを知った時(※引渡時からではありません)から1年以内に、売主に対し、不適合の事実を通知する必要があり、この通知をしないと損害賠償請求をはじめ、責任を追及することができなくなります(566条本文)。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、期間の制限を受けません(同条但書)。

 

また、同条は任意規定ですので、特約でこれと異なる定めを設けることができます。

 

通知は、単に「契約不適合がある」旨抽象的に告げただけでは足りず、細目にわたるまで告げる必要はないものの、不適合の内容を把握することが可能な程度に不適合の種類・範囲を告げる必要があります。他方、不適合責任を追及する意思を明確に告げて、損害額の根拠まで示す必要はありません。

 

上記権利行使期間の定めは、債権の消滅時効に関する一般準則の適用を排除するものではありませんので、買主が契約不適合の事実を知った時(主観的起算点)から5年、売買目的物の引渡しを受けて(客観的起算点)から10年で消滅時効にかかります(166条1項)。

 

(数量・権利の契約不適合の場合)

数量ないし権利に関する契約不適合については、特別な権利行使期間の制限の規定はありません。その結果、債権の消滅時効に関する一般準則が適用され、買主が契約不適合の事実を知った時から5年、売買目的物の引渡しを受けてから10年で消滅時効にかかります(166条1項)。

 

■損害賠償請求権と解除権との関係


 

 

買主が契約不適合を理由に売買契約を解除しても、損害賠償請求権は失われるものではなく、損害賠償請求することができます(545条4項)。

 

また、買主が買主に対し、追完に代わる損害賠償を請求しても、実際に、その弁済を受ける(あるいは損害賠償請求権が他の債務と相殺される)までは、解除権や代金減額請求権は失われません。