歩行者

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

私もかつて代理人として示談交渉をしたことがありますが、歩行者同士の衝突事故でも、被害者が思わぬ怪我を負い、損害賠償額が高額になることがあります。

 

そこで、今回は歩行者同士の衝突事故について、ご紹介させていただきます。

 

なお、自分でも気づかないうちに、このような歩行者同士の事故についても、対象となる賠償責任保険に加入している場合がありますので、万一、加害者になってしまった方は、保険会社に確認されることをお勧めします。不幸にも、被害者になってしまった方も、加害者に対し、そのような保険に加入してないか確認されることをお勧めします。

 

 

■大分地裁令和3年3月15日判決


 

 

(事案の概要)

登校中の事故当時13歳の中学2年生の女子(被告)が、対面歩行してきた79歳の女性(原告)と衝突し、原告が尻もちをつくような形で後ろ向きに転倒し、第1腰椎椎体骨折の傷害を負ったという事案です。

 

(損害賠償責任を肯定)

判決は、次のように判示して、被告の損害賠償責任を認め、約792万円の損害賠償を認めました。

 

事故は中学校付近の歩道上で発生したものであるところ、当時は被告を含む中学校の生徒が登校する時間帯であり、かつ、歩道は車道外側線から測定しても約220cmの幅員しかなかったのであるから、その当時その場所においては歩行者同士が衝突する危険が具体的に発生していたものといえる。そして、被告は、事故当時、歩道の前方を歩行していた生徒4名を追い抜こうとしていたところ、上記生徒らは2列縦隊で進行しており、上記生徒らの前方の見通しは悪かったのであるから、このような場合、上記生徒らの前方から対向してくる歩行者と衝突して危害を加えることのないよう、対向歩行者の有無及び安全に十分留意しながら歩行すべき注意義務を負っていたものというべきである。

 

しかるに、被告は、対向歩行者の有無及びその安全に留意することなく、漫然とIの後に追従して前方を歩行していた生徒4名の追い抜きを開始し、対向してきた原告の存在に気付かないまま衝突して事故を惹起したのであるから、被告には上記注意義務を怠った過失があるというべきである。

 

(過失相殺を否定)

原告は、事故当時、両手に荷物を持った状態ではあったものの、歩道を歩行していたにすぎず、その態様が対向歩行者と衝突する危険を生じさせるようなものであったものとはうかがわれない。として、過失相殺を否定しています。

 

(素因減額3割)

もっとも、事故の態様は、被告が対面歩行中の原告に衝突したことにより、原告が尻もちをつくような形で後ろ向きに転倒したというものにすぎず、そのような事故態様から重篤な後遺障害が生じることは通常は想定することができず、原告が事故当時79歳の女性であり、骨粗鬆症が加齢的変性により生じたものと考えられることなどの事情を考慮すると、素因減額の割合は30%とするのが相当である。

 

■東京高裁平成18年10月18日判決


 

 

(事案の概要)

交通規制により車両の進入が規制されていた交差点内において、91歳の女性(被控訴人)が南から北に向かって歩行中、同じく本件交差点内を西から東に向かって歩行していた25歳の女性(控訴人)と接触して転倒し、右大腿骨頚部骨折などの傷害を負った事案です。

 

(損害賠償責任を否定)

判決は、次のように判示して、控訴人の損害賠償責任を否定しました。

 

事故は、控訴人が知人と並んで、人の流れに従ってゆっくりと歩いて交差点の中央付近に至り、目指す店舗を探そうと首を左後方に向け歩みを止めかかった瞬間、控訴人の右肩から背中、腰にかけて被控訴人が接触したというものである。そして、事故当時交差点内は通行人が非常に多く、混み合っていた上、店を探しながら立ち止まる人も多かったのであるから、このような中で人の流れに従ってゆっくり歩行していた控訴人が、店舗を探そうと左後方を向いて歩みを止めようとし、被控訴人が控訴人の右肩から背中、腰にかけて接触し、その瞬間、控訴人及び同伴の知人が被控訴人の手ないし日傘をつかんで支えようとした事実関係の下において、事故前後における控訴人の歩行ないし店舗の物色行為等に有責性を見出すことは困難であるから、控訴人に注意義務違反があったとは認められないというべきである。

 

■東京地裁平成4年5月29日判決


 

 

(事案の概要)

44歳の女性(原告)が、駅の階段の踊り場から二、三段降りかけたところ、後方より段階の手すりに手を掛けながら駆け降りてきた小学6年生の男子(被告)にいきなり激突され転落し、助骨亀裂骨折等の傷害を負ったという事案です。

 

(損害賠償責任を肯定)

判決は、被告は、多数の公衆が昇り降りする狭い駅階段では、他人にいきなりぶつかることのないよう通行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるものといわざるを得ないとして、約98万円の損害賠償を認めました。

 

他方、被告の両親の責任については、事故の態様は、被告の過失行為に起因するものであり、原告主張のような無謀な行為であるとはいえないばかりでなく、被告がかねてより素行が悪いと評判の子であり、かつ、事故につき、両親が親権者として監督義務を怠った過失があるとまで認定することは困難であるとして、否定しています。

 

■東京地裁平成1年3月31日判決


 

 

(事案の概要)

浅草寺境内において、不審人物を追いかけて来た警備員(被告)に接触・転倒した通行人(原告)が負傷した事案です。

 

(損害賠償責任を肯定)

判決は、事故当時、道路は人通りも多く、走行すれば勢い余って通行人に衝突、接触する危険があったといえるから、被告としては、警備員という立場もさることながら、危険を十分弁え、不法行為者を発見し追跡するとしても、通行人の動向に十分配慮を払い危険の発生を未然に防止すべき注意義務があったというべきである。ところが、被告は、これを怠り、不法行為に及んだ者が逃走するや、同人とはもともと顔見知りで、しかも、行為の態様・程度からしても直ちに追跡しなければならない緊急の事態とはいい難いのに、同人の動静のみに注意を奪われ、その追走を急ぐ余り、単なる通行人にすぎない原告に接触したと認められるから、被告には注意義務違背の過失があったといわざるを得ないとして、約690万円の損害賠償を認めました。

 

■まとめ


 

 

以上から、通常に歩行してだけの場合には、損害賠償責任を負いませんが、加害者とされる者が小走りをしていたり、前方不注視があった場合には、損害賠償責任を負う場合がありますので、注意が必要です。