虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

同業他社を退職した従業員を採用したところ、その同業他社から、顧客情報を利用して営業活動を行なっており、これが不正競争防止法に違反するなどと警告を受けた。・・・そんな相談が顧問先から時々寄せられます。 ここでいう顧客情報とは、取引先の名称や住所、電話番号、ファックス番号、担当者の氏名、メールアドレスなどです。

 

営業秘密

 

顧客情報の利用が不正競争防止法に違反するか否かは、顧客情報が同法の保護対象となる「営業秘密」に該当するか否かによります。「営業秘密」に該当しなければ、不正競争防止法違反に問うことはできません。

 

 

■「営業秘密」とは?


 

 

不正競争防止法における「営業秘密」とは、次の3つの要件を全て満たすものとして定義されています(第2条6項)。

 ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)

 ② 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

 ③ 公然と知られていないものであること(非公知性)

 

このうち、紛争において最も争点となるのは、①の秘密管理性です。

 

 

■秘密管理性を満たす場合とは?


 

 

秘密管理性が認められるには、会社や経営者が主観的にその情報を秘密にしたいと考えているだけでは足りません。その情報が客観的に秘密として管理されていると認められる状態にある必要があります。

 

裁判例では、秘密管理性の判断にあたり、次の2つの要素が考慮されています。

 イ 当該情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)

 ロ 当該情報にアクセスした者が秘密であることを認識できるようにされていること(認識可能性)

 

経済産業省の営業秘密管理指針(平成27年1月全面改訂)でも、これら2つが重要な要素とされていますが、それぞれ別個独立の要件ではなく、前者の「アクセス制限」は後者の「認識可能性」を担保する一つの手段であると考えられると説明されています。

 

したがって、情報にアクセスした者が秘密であると認識できる場合には、十分なアクセス制限がないということだけを理由に秘密管理性が否定されることはないかもしれません。もっとも、何らの秘密管理措置が取られていない場合には、秘密管理性要件は満たしません。

 

 

■裁判例


 

 

ここで仕入先情報(仕入先の名称や住所、電話番号、ファックス番号、担当者の氏名、メールアドレス、取扱商品の特徴)に関する、不正競争防止法上の「営業秘密」該当性が問題になった裁判例(東京地裁平成20年11月26日判決)をご紹介させていただきます。

 

この裁判例は、秘密管理性の認定においては、主として、認識可能性とアクセス制限が判断要素となる旨、従前の判断基準の枠組みを踏襲した上で、

 

 ・原告においては、アルバイトを含め従業員でありさえすれば、そのユーザーIDとパスワードを使って、サーバーに接続されたパソコンにより、仕入先情報が記載されたファイルを閲覧することが可能であったこと

 ・そのファイル自体には、情報漏洩を防ぐための保護手段が何ら講じられていなかったこと

 ・従業員との間で締結した秘密保持契約も、その対象が抽象的であり、仕入先情報がそれに含まれることの明示がされていないこと

 ・その他、原告において、従業員に対して、本件仕入先情報が営業秘密に当たることについて、注意喚起をするための特段の措置も講じられていなかったこと

 ・仕入先情報の内容の多くが、インターネット等により一般に入手できる情報をまとめたものであること

 ・証拠上、原告に、個々の仕入先を秘匿しなければならない事情も窺われないこと

 

などを理由に、仕入先情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当することを否定しています。

 

 

 

 

■秘密保持契約との関係


 

 

 

会社と従業員とが秘密保持契約を締結している場合には、顧客情報の利用が不正競争防止法に違反するか否かとは別に、秘密保持契約に違反するか否かが問題となります。

 

この点については、別の機会に改めてご説明させていただきます。