虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

最近ご相談を受けた中で、死亡退職金の遺産性が問題になった事案がありましたので、今回は、裁判実務の傾向を整理しておきたいと思います。

 

ちなみに、「死亡退職金」は私企業等の従業員が死亡した時に支給されるもので、公務員が死亡した場合に支給されるものは「死亡退職手当」、私企業の役員が死亡したときに支給されるものは「死亡退職慰労金」と呼ばれています。

 

退職金

 

 

■私企業等の従業員の「死亡退職金」


 

 

私企業等の従業員の死亡退職金の法的性質や遺産性は、一律に決することができず、具体的な事案に応じて個別に判断する必要があります。

 

死亡退職金に関する支給規定があるか否か確認する必要があり、支給規定がある場合には、支給基準受給権者の範囲又は順位などの規定により、支給規定がない場合には、従来の支給慣行や支給の経緯等を考慮して、個別に、遺産性を検討することになります。

 

一般的に、支給規定の受給権者の範囲又は順位が、民法の遺族の範囲及び順位と異なる定めがなされている場合には、遺産性が否定されることが多いです。

 

私立の学校法人の職員の死亡退職金について、最高裁昭和60年1月31日判決は、死亡退職金の支給を受ける遺族は、職員の死亡当時、主としてその収入により生計を維持していた者でなければならないこと、第一順位は配偶者であること(内縁関係を含む)、配偶者があるとき、子は全く支給を受けないことなど、民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは著しく異なった定め方をしていることから、遺族の生活保障を目的とし、遺族固有の権利であるとして、遺産性を否定しています。

 

 

■公務員の「死亡退職手当」


 

 

受給者固有の権利であり、遺産にはなりません(遺産分割の対象にはなりません)。

 

国家公務員退職手当法は、受給権者を遺族とし、受給権者の範囲及び順位を法定しており、受給権者の範囲及び順位は民法の定める相続人の範囲及び順位と異なっています。これは遺族の生活保障を目的としていると解され、遺産性はないとされています。

 

地方公務員に対する死亡退職手当についても、国家公務員退職手当法と同様の内容を定めているときには遺産性が否定されます(最高裁昭和58年10月14日判決)。

 

 

■私企業の役員の「死亡退職慰労金」


 

 

その遺産性は、支給規定、定款の定め、支給決議等の内容と支給の実情等に検討することになります。

 

広島高裁平成12年2月16日判決は、「死亡した会社役員に対する退職慰労金が同人の相続財産に含まれるか否かは、その支給を決定した総会決議が、同人の相続財産とする趣旨で同人の相続人を支払対象者としてなされたか否かによって決せられるところ、本件決議は、本件退職慰労金の受給者が同人の内縁の妻及び法律上の妻のいずれかであることを当然の前提としているから、同人の相続財産ということはできない。」旨判示しています。