虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

大相撲の幕内貴ノ岩が元横綱日馬富士に対し、約2413万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

 

報道によれば、その内訳は、次の通りとのことです。

  

入院・治療費  約436万円

十両に転落しなければ得られたであろう給与  約148万円

懸賞金の逸失分  900万円

退職時の幕内養老年金等の減額分  172万円

巡業手当の逸失分  38万円

慰謝料  500万円

弁護士費用  約219万円

 

これに対し、日馬富士側は不調となった調停で50万円を提示したとされており、双方の金額にはかなりの開きがあります。

 

日々、損保業務等で、損害賠償事案を多く取り扱っている私としては、貴ノ岩の損害賠償請求の当否が気になりましたので、今回は、この問題について検討して参ります。

 

 

■入院・治療費


 

 

入院・治療費は、被害者が実際に支出した実費ですので、診療報酬明細書や領収証により支出したことの立証があれば、基本的には、損害賠償請求が認められます。

 

しかし、貴ノ岩の怪我は加療12日間程度の怪我だったようですので、その怪我の程度に比べ、入院・治療費として約436万円というのはあまりにも高額です。

 

損害賠償が認められる治療費は、必要かつ相当な実費の範囲に限られるところ、貴ノ岩の入院・治療費には、精神的な問題によるものや、報道陣から隠れるための任意のものも含まれていたと考えられ、その多くは傷害事件との相当因果関係がなく、損害として認められないでしょう。

 

傷害事件により精神的ダメージを受けた治療費についても認められる余地がありますが、基本的には、貴ノ岩が肉体的な怪我を治すにあたり、必要性・相当性の認められる範囲に限られます。

 

 

■逸失利益


 

 

十両に転落しなければ得られたであろう給与、懸賞金の逸失分、退職時の幕内養老年金等の減額分、巡業手当の逸失分は、いずれも逸失利益の(得べかりし利益が得られなかったことによる)損害賠償です。

 

これらについては、貴ノ岩の加療12日間程度の怪我によって、相撲をとることができなかった(休場せざるを得なかった)期間がどの程度の期間か、その休場によって十両に転落したのか等を検討することになります。

 

一般的には、治療期間中でも就労することは可能であり、治療期間以上に休業期間が認められることはありません。力士という職業の特性上、負傷によって稽古ができなかった影響は考慮されるかもしれませんが、加療12日間程度の負傷であったことからすると、十両に転落しなければ得られたであろう給与、懸賞金の逸失分による損害が認められるとしても、その割合的ごく一部が認められるに過ぎないのではないかと思料します。  

 

 

■慰謝料


 

 

入通院慰謝料は、基本的に、入通院の期間や、実通院日数をベースとして、算定されます。裁判基準において、1ヶ月の通院で28万円、2ヶ月の通院でも52万円ですので、加療12日間程度の怪我であったという貴ノ岩の慰謝料として500万円の請求は高額でしょう。

 

本件は、過失による事故ではなく、故意による傷害事件であり、その分悪質性が高いですが、それでも、上記裁判基準の何割か増し程度の増額が一般的でしょう。

 

 

■弁護士費用


 

 

不法行為等による損害賠償請求の訴訟(売買代金請求や貸金返還請求などその他の金銭請求事件では、弁護士費用の請求は認められません。)では、治療費や休業損害、慰謝料等の合計額の1割程度を弁護士費用相当の損害として請求するのが一般的です。

 

判決でも、実際の認容額の1割程度が、弁護士費用として、事件・事故と相当因果関係のある損害として認められます。

例えば、貴ノ岩の治療費や逸失利益、慰謝料が、合計200万円が妥当と判断される場合には、20万円が弁護士費用相当額の損害として認められることになります。