虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

神戸製鋼所によるアルミや銅製品の品質データ改ざん問題について、強制捜査が行われました。検査データの数値を改ざんしたり、検査をせずに数値を捏造したりして、うその検査証明書を顧客に提出し、販売していたとのことです。

また、スバルでも、道路運送車両法の保安基準を満たしていない数値について、排ガス・燃費データの改ざんが行われていたようです。

 

このような行為は、商品の品質等について誤認させるような表示を禁じる不正競争防止法第2条1項第14号に違反する疑いがあります。

 

虚偽表示(誤認惹起行為)をした場合、刑事上、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれらの併科)が科されるおそれがありますが(同法第21条第2項第1、5号)、民事上の損害賠償責任についてはどうでしょうか。

 


 

◆契約当事者の場合

 

データを改ざんした製造業者から、契約により直接製品の供給を受けていた業者は、その品質が契約内容になっている場合、製造業者に対し、契約の債務不履行(不完全履行)に基づき損害賠償請求することができます。

 

では、契約書上、どの程度の品質を満たす必要があるか明確に定められていない場合はどうでしょうか。

 

この場合、当事者が契約においていかなる品質のものを予定していたのか、当事者の意思を探求することになります。契約書上は定められていなくても、行政法規や業界のルールにおいて、品質基準が定められているような場合には、その品質を満たしていないと、債務不履行と評価される可能性が高いでしょう。

 

どの品質のものを引き渡すべきかが契約の内容及び性質に照らして定まらないときには、民法上、債務者は中等の品質のものを引き渡さなければならない旨の規定もありますが(第401条第1項)、まず当事者の意思解釈が先であり、この規定が適用される場合は少ないと考えられます。

 


 

◆契約当事者でない場合

 

製造業者と直接契約関係には立たないが、流通した製品に関し損害を被った者は、データを改ざんした製造業者に対し、不法行為(民法709条)あるいは製造物責任法第3条に基づき、損害賠償請求することが考えられます。

 

この点、原告であるマンションの販売会社が、マンションに用いる予定であった免震ゴムの欠陥のために、顧客との契約の解除及びそれに伴う違約金の支払を余儀なくされたなどとして、免震ゴムの製造業者(被告)に対し、不法行為等に基づき、約3億円の損害賠償請求をした事案では、免震ゴムの不適合の原因は、被告内部におけるデータの改ざんにあるのだから、被告が、故意又は過失により、原告のマンションの販売者としての法律上の利益を侵害したことは明らかであるとして、損害賠償請求を認容しています(東京地裁平成27年2月27日判決)。

 

ところで、製造業者からは、データの改ざんがあっても製品の安全性には問題がないと主張が考えられます。しかし、上記裁判例では、仮に客観的には安全性への有意な影響がないとしても、行政法規に対する不適合があれば、当該免震ゴムをそのまま使用してマンションを竣工させ、買主に引き渡すということは現実には不可能であるとして損害賠償請求を認めています。

 


 

◆競争関係にある事業者の場合

 

データを改ざんした製造業者と競争関係にある事業者は、誤認惹起行為(データ改ざん)により、「営業上の利益を侵害」された場合には、不正競争防止法第4条により損害賠償請求することができます。

 

この場合、損害額の推定等により、競争関係にある事業者の立証責任が軽減されています。

 

なお、一般消費者は、「営業上の利益を侵害」されることが考えられないため、原則として、不正競争防止法に基づく損害賠償の請求主体にはなりません。