虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今、日大アメフト部の悪質タックル問題が、世間の関心を集めています。

前監督やコーチの指示があったのか否かや刑事責任、事件後の日大の対応のまずさばかりが報道されていますが、日々、損害賠償事案を扱う私としては、ついつい民事上の損害賠償責任が気になってしまいます。

 

そこで、損害賠償義務を負うか否かについて、弁護士がどのような思考をするのか追体験していただくため、今回は、悪質タックルによって怪我をした関西学院大の選手が、日大に対して、損害賠償請求をすることができるかについて、検討していきたいと思います。

 

 


 

●法的構成

 

関西学院大の選手と、日大ないしそのアメフト部関係者との間には、何ら契約関係があるわけではありませんので、不法行為に基づく損害賠償請求しか考えられません。

 

この点、在校生が部活動等で怪我をした場合に、在籍している学校に対し、在学契約における安全配慮義務違反等を理由として、契約に基づく損害賠償請求するケースとは、事案を異にしますので、注意してください。

 


 

 

●日大選手の損害賠償責任

 

日大の損害賠償責任を検討する前提として、まず悪質タックルをした日大選手が損害賠償責任を負うかを検討する必要があります。

 

怪我をさせた以上、当然負うだろうとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、原則的に、スポーツ競技による事故は、正当業務行為として、違法性が阻却され(刑法第35条参考)、損害賠償責任を負いません。

 

もっとも、今回のタックルは、怪我をさせることを目的とした、故意による、明らかにルールを逸脱した危険、悪質なタックルですので、正当業務行為の範疇を逸脱しており、当該タックルをした日大選手は不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償責任を負うと考えられます。

 

 


 

 

●前監督・コーチの損賠賠償責任

 

前監督やコーチが、(怪我をさせることを目的とした)悪質タックルを指示したか否かについては争いがありますが、もし指示をしていたのであれば、共同不法行為(民法第719条)に基づく、損害賠償責任を負います。

 

また、具体的指示がなかったとしても、日大選手の悪質タックルについて、使用者責任(代理監督者責任。民法第715条2項)を負う可能性があります。

 


 

 

●日大の使用者責任

 

日大に対する、使用者責任(民法第715条)に基づく、損害賠償請求の可否を検討することになります。

 

日大と前監督やコーチとの間に使用関係があるとされるためには、雇用契約が存在する必要はありません。

雇用か業務委託かや、両者の間に契約関係が存在するかどうかといった点は重要ではなく、実質的にみて使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足ります(実質的指揮監督関係)。他方、独立性・自由裁量性の高い場面では、使用者責任は成立しません。

 

しかも、使用関係は、使用者が被用者を実際に指揮監督していたかどうかという点に即して判断されるのではなく、指揮監督すべき地位が使用者に認められるかどうかという点に即して判断されます。

 

この点、中学校や高校においては、学校の教職員が部活動の指導をしていることが多いでしょうし、校長の監督を受け、部活動の技術指導や大会への引率等を行うことを職務とする「部活動指導員」が学校教育法施行規則に新たに規定され、平成29年4月1日から施行されましたので、容易に指揮監督関係が認められ、学校の使用者責任が認められやすいと言えます。

 

これに対し、私立大学における部活動の法令上の根拠はないようであり、日大と前監督やコーチの契約関係や、規則等実態を精査する必要がありますが、報道によると、前監督は日大の常務理事であることなどからすると、日大の使用者責任に基づく使用者責任が認められる方向に考えられるでしょう。

 


 

 

●理事の不法行為による日大の責任

 

前述の通り、前監督は、日大の常務理事のようです。

 

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条には、「一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められています。

 

そして、日大は、私立学校法に基づく学校法人であり、学校法人には、上記規定が準用されていますので(私立学校法第29条)、同規定に基づく損害賠償請求が考えられます。

 

もっとも、上記規定における「その他の代表者」とは、代表理事の職務を一時行う者、代表理事の職務代行者、清算人などの法人代表機関であり、代表理事から委任を受けた副代理人や代表権を有しない理事はこれに含まれません。

 

結論として、常務理事は、「代表理事その他の代表者」に該当しませんので、この規定に基づき、日大に対し損害賠償請求することはできないでしょう。