虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

コインチェック社の騒動も、平成30年3月12日からETHなどの仮想通貨が、3月22日からはLSK、FCTの仮想通貨の出金及び売却が順次再開され、ほっと一息ついている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかし、ようやく仮想通貨が出金等できるようになっただけであり、出金等が停止されている間に、仮想通貨の価値が下落したり、高値で売却する機会を逸したことによる損害は補填されていませんので、その損害賠償請求ができるかという問題が残っています。

 

もっとも、この損害賠償請求は、複数の専門的な法的問題点を含んでおり、仮想通貨の返還(送信)請求のように、単純なものではありません。

 

そこで、今回は、仮想通貨の価値下落等による損害賠償請求をする場合の法的問題点について検討いたします。

 


 

●何を債務不履行事由と構成するか?

 

仮想通貨交換業者と登録ユーザーとは、仮想通貨の売買の場の提供や、仮想通貨の管理等を内容とするサービスの利用契約を締結していますので、その法的構成は、利用契約の債務不履行に基づく損害賠償請求となります。

 

その債務不履行事由は、仮想通貨交換業者は、登録ユーザーに対し、利用契約に基づき、仮想通貨の売買や出金等に応じる義務があるのに、相当期間に及びサービスを停止し続け、サービスを提供しなかったこと(履行拒絶)と構成するのが素直でしょう。

 

この点、仮想通貨交換業者は、登録ユーザーからの要求を受けて仮想通貨の出金等に応じるものであることから、利用停止期間中に、登録ユーザーが仮想通貨交換業者に対し、出金等を要求していた方が、より債務不履行と主張しやすいですが、たたえ、このような要求をしていなかったとしても、仮想通貨交換業者が予めサービスの利用停止を公表していることから、履行を拒絶する意思を明示していたとして、債務不履行に当たると考えられます。

 


 

●免責の抗弁

 

仮想通貨交換業者からの反論として、まず考えておかなければならないことは、利用規約に、サービスの停止等の措置により登録ユーザーに生じた損害について一切の責任を負わない旨が定められている場合に、これに基づく免責の抗弁です。

 

しかし、登録ユーザーが個人(一般的に、個人が事業として仮想通貨の取引をしていることはないでしょう。)である場合には、消費者契約法の適用があるところ、上記規定は、同法の「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」に該当し、無効となります(同法第8条1項1号)。

 


 

●債務不履行に該当しないという反論

 

そこで、仮想通貨交換業者からの反論として考えられるのが、利用規約に、「ハッキングその他の方法により当社の資産が盗難された場合」には、サービスを停止できる旨の規定が設けられており、今回のサービス停止は、この利用規約に基づく措置であり、そもそも債務不履行にはあたらないという反論です。

 

これに対しては、

・仮想通貨の出金等に応じるのは仮想通貨交換業者の基本的かつ重要な義務であること、

・利用停止の発端となったNEMの不正送金トラブルは仮想通貨交換業者の管理体制の不備、システムの脆弱性によるものであって、仮想通貨交換業者の帰責性が大きいこと、

・他方、登録ユーザーには何らの落ち度もないこと、

・NEMと他の仮想通貨は別個のものであり、NEMがハッキングにより盗難されたからといって、他の仮想通貨まで一律に利用停止する必要性・合理性はないこと、

・少なくとも2ヶ月間近くもの長期間にわたり、利用停止する合理性はないこと、

・その利用停止は仮想通貨交換業者の任意の判断にすぎないこと、

・仮想通貨は投機性が高いものであるところ、利用停止によって登録ユーザーが被った損害は甚大であること、

等々を主張して、今回の利用停止は、利用規約が想定するケースには該当しないであるとか、本件に適用する限りにおいて利用規約は、「消費者の利益を一方的に害するもの」に該当し、無効である(消費者契約法第10条)などと主張していくことになるでしょう。  

 


 

 

●登録ユーザーが法人の場合

 

登録ユーザーが個人である場合に比し、仮想通貨を会社名義で保有している場合、会社(法人)は消費者に該当せず、当然に消費者契約法が適用されるわけではないため、損害賠償請求をするハードルが高くなります。

 

この点については、大学のラグビークラブチームが消費者契約法上の「消費者」に該当するとし、同法の適用を認めた東京地裁平成23年11月17日判決が参考になります。

この裁判例では、権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、事業者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、消費者契約法2条所定の「消費者」に該当すると判示されています。

 

そこで、仮想通貨の保有・取引の場面においては、登録ユーザーが個人であるか会社であるかで、事業者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において差があるとはいえないことや、その会社の規模や業務内容からして個人で仮想通貨を保有している場合と実質的な差はないことから、登録ユーザーが法人である場合にも、消費者契約法が適用ないし準用されるべきであると主張していくことが考えられます。

 

あるいは、前項と同様、今回の利用停止は、利用規約が想定するケースには該当しないであるとか、利用規約を本件に適用することは、公序良俗に反し無効である(民法第90条)と主張することになるでしょう。

 


 

 

●利用停止と損害との間の因果関係

 

さらに、仮想通貨交換業者からは、仮想通貨の価値の騰落は様々な要因によって生じるものであり、不正送金トラブルや利用停止によって、仮想通貨が下落したわけではないから、債務不履行と損害との間には、相当因果関係が認められないという反論が予想されます。

 

有価証券報告書の虚偽記載や、会社の不祥事等に起因する株価下落について損害賠償請求する事案と、同様の反論です。

しかし、そもそも本件では、不正送金トラブルや利用停止によって、仮想通貨の価値が下落したと主張して損害賠償請求するわけではありません。

利用が停止されている間、登録ユーザーは、仮想通貨の出金も売却もすることができず、その間、仮想通貨の価値下落による損害の発生を回避することも、高値で売却することもできませんでした。

登録ユーザーは、このように、利用停止がなければ、支配しえたはずの仮想通貨の価値と、利用停止が解除された時の仮想通貨の価値の差額を損害賠償請求するものであって、利用停止(債務不履行)と、その債務不履行状態の継続中に生じた損害との間には、相当因果関係が認められると考えられます。

 

もっとも、利用停止期間中の中間最高価格との差額の損害賠償請求が認められるかについては、検討を要します。

損害論については、また別の機会にご説明させていただきます。