虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、仮想通貨の交換業者に対し、仮想通貨の返還請求をする場合、訴状の「請求の原因」にどのような記載をすればよいかについて説明させていただきます。

 

なお、訴状の「請求の趣旨」の記載方法については、下記ブログをご参照下さい。

izawa-law.com/blog/lawyer/3241.html

 


 

 

●契約の法的性質は?

 

利用者が、仮想通貨交換業者に対し、仮想通貨を預けている場合、その契約の法的性質をどのように解すればよいでしょうか。

 

私は、消費寄託契約(民法第666条)に準じたものと考えています。

 

マウントゴックス社事件の裁判例(東京地裁平成27年8月5日判決)では、ビットコインは有体物ではないなどという理由で、所有権を前提とする寄託契約の成立が否定されていますが、契約の対象が常に有体物でなければならない理由はなく、実体のない仮想通貨であっても、消費寄託契約に「準じた」契約は成立するはずです。

 

いずれにせよ、民法では、典型契約に限らず、非典型契約の成立も認められているわけですから、契約の法的性質にこだわる必要はなく、請求原因事実がどのようなものになるかの手がかり程度に考えればいいでしょう。

 


 

 

●請求原因事実は?

 

寄託契約において、寄託者が、受寄者に対し、寄託物の返還を求める場合の請求原因事実(要件事実)は、次の通りです。

 

① 受寄者が寄託者のために目的物を保管する旨の合意

② 受寄者が目的物を受け取ったこと

 


 

 

●具体的な記載例

 

上記を参考にすると、利用者が、交換業者に対し、仮想通貨の変換を求める場合の「請求の原因」の記載例は、次の通りとなります。

 

1 原告(利用者)は、被告(交換業者)のユーザーとして、被告と、仮想通貨の売買の場の提供及び仮想通貨の管理等のサービスに関する利用契約(以下、「本件契約」という。)を締結し、口座を開設している。

 

その立証資料として、利用者の名前や、ユーザーIDが表示されたログイン画面のスクリーンショットを書証として提出して下さい。

 

2 被告の本件契約に関する利用規約には、ユーザーの要求により、ユーザーの口座からの仮想通貨の送信に応じる旨の記載がある。

 

その立証資料として、利用規約を書証として提出して下さい。

例えば、コインチェック社の場合、その利用規約には、「当社は、登録ユーザーの要求により、当社所定の方法に従い、ユーザー口座からの金銭の払戻し又は仮想通貨の送信に応じます。」と規定されていますので(第8条3項)、これを引用すればいいでしょう。

 

3 原告は、被告に対し、次の仮想通貨を預託している。

 

続けて、 仮想通貨の種類と数量を記載して下さい。

また、その立証資料として、保管する仮想通貨の種類及び数量がわかる画面のスクリーンショットを書証として提出して下さい。

 

4 よって、原告は、被告に対して、本件契約に基づき、別紙目録記載の仮想通貨について、各送信先への送信手続きを求める。

 

訴状を「よって書き」で締めることになります。