虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

先日、損害保険会社から依頼を受け、盗難事故のモラルリスクに関する勉強会の講師を努めさせて頂きました。モラルリスクとは、保険金の不正請求が疑われる事案のことです。

 

その見極めに関する具体的ノウハウを、ここでご説明することはできませんが、若干、判例等をご紹介させていただきたいと存じます。

 


 

 

●判例

 

自動車盗難に基づく保険金請求事件に関する、最高裁平成19年4月23日判決は、保険金請求者が、盗難の外形的事実を主張・立証する必要がある旨を判示しています。

 

その外形的事実は、次の2つの事実から構成されます。

① 被保険者の占有にかかる自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと

② 被保険者以外の者がその場所から自動車を持ち去ったこと

 


 

 

●盗難の外形的事実

 

自動車盗難を裏付ける外形的事実としては、次のものが挙げられます。

 

 車両の保管状況  

 車両が所在不明になったときの状況

 車両が破損された痕跡の有無(事後に盗難車が発見された場合)

 盗難防止装置の有無

 警報音等の発生の有無

 監視カメラの映像

 警察への盗難届等

 


 

 

●事実認定のポイント

 

盗難の事実が、常に監視カメラにより証明されなければならないわけではありません。それでは、監視カメラのない場所での盗難については、客観的な立証ができなくなってしまいますね。

 

裁判例の多くは、被保険者の供述の信用性の判断に力を注いでいます。

 

供述の信用性は、客観的事実(事故態様と事故現場や被害品の客観的状況)との整合性、説明それ自体の明確さ・曖昧さ、重要な点に関する説明内容の変遷、被害品を盗まれた者として取るべき行動の自然さ・不自然さ等を考慮して、判断されることになります。

 

被保険者の供述など外形的な事実を積極的に裏付ける証拠と、その信用性に疑問を抱かせたり、あるいは反対の事実を裏付けたりする証拠との対比によって、事実認定がされるのです。