虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、賃借人が、賃貸人から、賃料増額請求を受けた場合のQ&Aについて、ご説明させていただきます。

 


 

 

Q 賃料の増額請求を受けましたが、賃貸人の請求額に納得がいかない場合、賃料の支払いはどうすればよいですか?

 

借地借家法第32条2項に、「建物の借賃の増額について当事者間に協議が整わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことで足りる。」と定められています。したがって、裁判が確定するまでの間、自らが相当と認める家賃を支払えば、足ります。従来通りの賃料が相当と考えれば、とりあえず、従来通りの賃料を支払っておけばよいでしょう。

 


 

 

Q 増額請求された賃料額通りに支払わないと、賃貸借契約を解除されるおそれはないですか?

 

前述の通り、自ら相当と認める家賃を支払っていれば、基本的に、賃貸借契約を解除されることはありません。但し、支払っている賃料額が、賃貸人が負担すべき賃貸物件の公租公課の額をも下回るほど低額で、そのことを賃借人が知っていたときは、債務の本旨に従った履行をしたとはいえず、解除されるおそれがあります。

 


 

 

Q 賃貸人が増額した額でないと賃料を受け取ってくれない場合には、どうすればよいですか?

 

賃貸人の受領拒絶を理由に、供託すべきです(民法第494条)。賃貸人が受け取らないからといって、供託もせず、そのまま放置していると、賃料不払い(債務不履行)を理由に解除されるおそれがあります。

 


 

 

Q  増額請求に応じない場合、その後の手続きはどのようになりますか?

 

賃貸人と賃借人との任意の話し合いで合意に至らない場合、積極的に請求をする側の方で法的手続きをとらなければ、事態は動きませんので、賃貸人から賃料増額の調停申立(調停前置主義)がなされることを待つことになります。調停が不成立の場合には、調停条項の裁定や、調停に代わる決定という制度もありますが、賃貸人の方でさらに訴訟提起することになります。

 


 

Q 賃料増額の裁判が確定したとき、既に支払った賃料に不足額がある場合には、どうなりますか?

 

借地借家法第32条2項但書に、「その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。」と定められていますので、不足額に年1割の利息を付して支払わなければなりません。

 

ここでいう裁判には、判決のほか、賃料額が調停や裁判上の和解により確定し、調書に記載された場合も含まれます。

もっとも、調停や裁判上の和解の場合には、その条項の中で、不足額の精算方法について定められるのが、一般的でしょう。