霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、飼犬の鳴き声により、近隣住民に対し、財産的、精神的損害を与えたとして、飼主に対する損害賠償請求が認められた事例(大阪地裁平成27年12月11日判決)をご紹介させていただきます。

 


 

●事案の概要

 

原告は、山間部の閑静な住宅地に暮らしていましたが、その後、道路を挟んで約30mの距離にある建物に被告らが居住し、雑種の雄犬を飼い始めました。原告は、被告らに対し、飼犬が昼夜を問わず大きな鳴き声を断続的にあげるため、睡眠障害を伴う神経症を発症するなどしたとして、治療や慰謝料等の支払いを求める損害賠償請求をしました。

 


 

●根拠条文

 

民法第718条1項本文には、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定められています。これが損害賠償の根拠条文になります。

もっとも、その但し書きに、「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りではない。」と免責事由が定められています。

 


 

●判断基準

 

本件のような騒音に基づく損害賠償請求が認められるには、騒音が一般社会生活上、受忍限度を超える違法性があることが要件とされます。

受忍限度を超えるか否かは、被侵害利益の性質、被害の程度、加害行為の態様、地域性、当事者間の交渉経過等を総合考慮して判断するものとされています。

なお、その主張・立証は、被害者である原告の方でしなければなりません。

 


 

●裁判所の判断

 

裁判所は、PCMレコーダーで録音した飼犬の鳴き声が、窓を開けた状態でのものではあるが、音量の最大値が70.6dbで、平均値は64.5dbであり、深夜や早朝の時間帯に60dbを超える音量が記録されている事実などから、飼犬は深夜や早朝の時間帯を含め、被告が被告宅から出入りする際や、見知らぬ人が被告宅の付近を通った際などに、日常的に、比較的大きな音量で、一定の時間、鳴き続けていたものと推認できるなどと判示しました。

そして、原告には、飼犬が深夜や早朝を問わず鳴き声を上げることによって、現に、睡眠を妨げられるなどの生活上の支障が生じていたのに対して、被告らは、原告から、飼犬の鳴き声に対する苦情を言われたり、調停の申立てをされたりした後も、これらを真摯に受け止めて、飼犬の鳴き声を低減させるための適切な措置を執ったわけではなかったとして、飼犬の鳴き声は受忍限度を超えると判示しました。

 

また、免責事由に関し、「住宅地において犬を飼育する飼主は、犬の管理者として、犬の鳴き声が近隣住民に迷惑を及ぼさないよう、日常生活において犬をしつけ、場合によっては専門家に依頼するなどして犬を調教するなどの飼育上の注意義務を負うというべきである。」が、被告らが、飼犬について相当な注意をもってその管理をしたということはできないとして、原告の損害賠償請求を認定しました。

 


 

 

●認定された損害

 

心療内科に通院した治療費、薬代、交通費のほか、録音機器購入費、慰謝料25万円、弁護士費用3万円が認定されています。