霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

■ 結論

従業員が事故に遭って死傷するなどし、会社(使用者)にも、まとまりかけていた取引がまとまらなかったであるとか、一定期間売上が落ちたといった損害が生じた場合、加害者に対し、損害賠償請求できるかという問題〜いわゆる企業損害・間接損害の問題〜ですが、原則として、できません。まず認められないものと考えた方がよいでしょう。

 


 

■  理由

損害賠償では、基本的に、直接事故に遭った被害者自身の損害しか認められず、被害者と債権関係(労働契約もその一つです)を有している者の間接損害の賠償は認められていません。

 

判例は、会社の代表者自身が事故にあったような場合でも、法人とは名ばかりの、俗に言う個人会社であり、その実権が代表者個人に集中して、会社の機関として代替性がなく、経済的に代表者と会社が一体をなすような関係があるような場合に限って、会社の損害賠償請求を認めています(昭和43年11月15日判決)。

 

まして、一従業員は会社と上記のような経済的に一体の関係にはなく、会社のこうむった間接的な損害の賠償請求が認められるはずがありません。

 

判例も、富山の薬売りをしている従業員が、その担当地区で絶大な信頼を受け、医療品の配置販売業務に高度に熟練しており、従業員の代替性がない事案においても、従業員が不時の災害を受けても営業に支障を生じないように予め対策を講じておくのが経営者の責任である旨判示して、損害賠償請求を棄却した原審判決(東京高裁昭和54年4月17日判決)を正当なものとして、維持しています(最高裁昭和54年12月13日判決)。

 


■ 例外的に認められる場合

もっとも、次のような場合には、例外的に、会社の損害賠償請求が認められます。

 

①会社が従業員のこうむった損害を肩代わりした場合

例えば、会社が従業員の代わりに、治療費や通院交通費を支払ったり、休業中の給与を支払った場合(但し、従業員が入通院のため、有給休暇をしたとき、その有給休暇消化分が従業員自身の休業損害となり、会社に損害が生じたとは言えません)、それは会社が、直接の被害者である従業員がこうむった損害を肩代わりした(直接被害者自身の損害と重なり合う)ものにすぎませんので、損害賠償請求が認められます。

 

②会社に損害を与える目的で、故意に従業員を襲撃したような場合

このような場合は、事故ではなく、もはや事件ですね。