霞が関パートナーズの弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、被用者が使用者所有の自動車を職務のため運転中に事故を起こし、被害者に賠償金を支払った場合において、被用者の使用者に対する求償を認めた裁判例(佐賀地裁平成27年9月11日判決)を紹介させていただきます。

 

事案の概要は、被用者が、使用者である会社所有の自動車を運転して、業務に従事中、被害者運転の自動車と衝突する交通事故を起こしてしまい、被害者に対して、その修理代金相当額を賠償したことから、使用者に対し、同額の求償をしたというものです。

 

実は、使用者が、被害者に対し、使用者責任に基づき賠償した場合に、被用者に対し求償できることについては、民法上規定がありますが(民法第715条3項。但し、一般的に、その求償権の行使や求償額は制限されます。)、これとは反対に、被用者が被害者に賠償金を支払った場合に、使用者へ求償(いわゆる逆求償)できるか否かについては、民法上、何ら規定がありません。

 

上記裁判例は、第三者に対し、被用者と使用者が損害賠償責任を負担した場合、両者の責任は不真正連帯責任の関係にあるといえ、使用者は被用者の活動によって自己の活動領域を拡張しているという関係に立つこと(いわゆる報償責任)から、被用者がその事業の執行について他人に損害を与えた場合には、被用者及び使用者の損害賠償債務については自ずと負担部分が存在することになり、一方が自己負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、その者は、自己の負担部分を超えた部分について他方に対し求償することができると解するのが相当である旨判示しています。

 

そして、当該事故に関し、使用者と被用者の負担割合を7対3とし、被用者が被害者に支払った賠償金の7割について、使用者に対する求償を認めていますが、その事情としては、

①被用者が九州地方のエリアマネージャーとして雇用されており、使用者の事業拡大を担う立場として業務を行っていたこと、

②被用者の業務の性質上、事故発生の危険性を内包する長距離の自動車運転を予定するものであったこと、

③被用者は、当該事故発生前後の期間、相応の態度で業務に取り組んでおり、その業務量も少なくなかったこと、

④当該事故における被用者の過失の内容は、車両後退時の後方確認不十分であり、自動車運転に伴って通常予想される事故の範囲を超えるものではないこと、

等が総合考慮されています。

 

なお、上記裁判例は、第一審の鳥栖簡易裁判所が被用者の請求を一部認容したことから、これを不服として使用者が控訴した控訴審判決(控訴棄却)です。さらに、使用者は上告しましたが、上告は棄却され、確定しています。