霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

公証人が作成した公正証書遺言が無効とされることなどあるのかと思われるかもしれませんが、公正証書遺言作成時に、被相続人に遺言能力があったか否かが争われることがあり、公正証書遺言の無効が確認された裁判例も多数あります。

 

今回は、そのうちの一つである、東京高裁平成25年8月28日判決をご紹介させていただきます。

 

同判決は、

①被相続人は、進行癌による疼痛緩和のため、平成22年2月末ころから、病院より麻薬鎮痛剤を処方されるようになり、同年7月23日に病院に入院した後は、せん妄状態と断定できるかどうかはともかく、上記薬剤の影響と思われる傾眠傾向や精神症状がみられるようになったこと

②平成22年8月10日の公正証書遺言作成時の被相続人は、公証人の問いかけに対し、「うん」、「ああ、はい」等と受動的に反応するだけであり、公証人の案分読み上げ中に目を閉じてしまったり、自分の年齢を間違えて言ったり、不動産を誰に与えるか答えられなかったこと

③公正証書遺言の内容は、平成22年1月時点での被相続人の考えに近いところ、被相続人は、同年7月に、大学ノートにその考えを大幅に変更しているにもかかわらず、なぜ同年1月時点の考え方に沿った遺言内容をしたのか合理的な理由は見出しがたいこと

を理由に、被相続人は、公正証書遺言作成時に遺言能力を欠いていたと認めるのが相当であると判示しました。

 

公正証書遺言作成当時の被相続人の精神症状や、公正証書遺言作成時の被相続人の態様には注意が必要です。