成人した子の父親に対する、大学卒業までの扶養料の請求が認められなかった事例
霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。
今回は、さいたま家庭裁判所越谷支部平成22年3月19日審判をご紹介させていただきます。
これは、両親の離婚に伴い、母親(親権者)に引き取られた長女が、大学に進学し、成人に達した後に、別れて暮らす父親に対し、大学卒業まで、扶養料として月額11万5000円の支払を求める審判を申し立てましたが、認められなかった(申立を却下された)事案です。
一般に、未成年者の子に対する親の扶養義務は、生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)であるのに対し、子が成人した後は、親族間の扶養としての生活扶助義務(自分の生活を犠牲にしない限度で、被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務)になると言われています。
そして、通常、親が支出する子の大学教育のための費用は、生活保持義務の範囲を超えているものの、成年に達した子であっても、親の意向や経済的援助を前提に4年制大学に進学したようなケースで、学業を続けるために生活時間を優先的に勉学に当てることが必要な場合には、生活扶助義務として、親に対する扶養料の請求を認められることはありえます。
しかしながら、上記事案において、長女は、母親に連れられて父親と別居してから、父親と全く没交渉であり、父親は長女が大学に進学したことも知らずに、ただ離婚判決で命じられたとおり、母親に対し、離婚時に1835万円余の財産分与をした上、長女が成人に達するまで月額11万5000円の養育費(その他に弟の分の養育費として月額11万5000円、計23万円)を支払続けていました。
他方、母親は、父親から支払われた1835万円余の財産分与金を元手にマンションを購入し、自らのパート収入年間130万円と、父親から支払われる養育費で、大学に進学した長女及び私立高校生である弟の学費や生活費を賄いながら生活しています。
父親は、年収が1500万円程度ありますが、不動産は所有しておらず、再婚して再婚相手との間に子が産まれているほか、まだ弟の養育費月額11万5000円の支払が残っており、今後、新しい家族と居住するための不動産を購入する可能性もあり、それほど余裕がある状態でもありません。
そして、上記審判は、以上の通り、離婚判決後、長女と、父親とは完全に分かれて生活してきており、長女が父親の意向や経済的支援の約束のもとに大学に進学したということはないこと、母親は、1835万円余の財産分与金や養育費を受領してきており、申立人を大学に進学させるために必要な資力は有しているものと評価できること、母親がマンションを購入したことは、長女の責任ではないにしても、そのために生じる母親ら家族の生活費ないし長女の学費不足を、全く別家計の父親に転嫁することは相当でないこと、父親が、離婚判決で命じられたとおりに成人に達するまで養育費を支払い続けてきたことにより、父親の長女に対する生活保持義務としての扶養義務ははされていること、長女が大学における学業を継続することが経済的に困難になってきているとしても、その対応は、母親及び成人に達した長女においてなすべきであること等から、新しい家族とともに再出発を始めている父親に、生活扶助義務としての扶養料の支払を命じることは相当ではないとして申立を却下したのです。
この事案とは異なり、子が、扶養を求められている親の意向やその経済的援助を前提に4年制大学に進学したようなケースでは、大学卒業まで相当額の扶養料の支払いが認められることはあるでしょう。
また、上記事案では、前提として、父親が、母親に対し、既に多額の財産分与金を支払い、離婚判決どおり、長女が成人に達するまで養育費を払い続けていたことも評価されて、このような審判になったものと思料します。