弁護士ブログ

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    2021.03.30

    【土地賃貸借】更新料を支払わないと、借地契約は解除されるか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は土地の賃貸借契約において、更新料支払の合意がなされているにもかかわらず、借地人が更新料を支払わなかった場合に、賃貸借契約を解除できるかについて、説明させていただきます。

     

    契約解除

     

    ■最高裁判例


     

     

    最高裁昭和59年4月20日判決は、「土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至つた経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当である」と判示しています。

     

    そして、「原審の確定した前記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。」と判示しました。

     

    ただし、当該事案は、借地人に建物の無断増改築、借地の無断転貸、賃料支払の遅滞等の賃貸借契約に違反する行為があったが、調停において、これら借地人の行為を不問とし、紛争予防目的での解決金をも含めた趣旨で更新料の支払を合意したものと認められると事実認定されており、このような具体的な事情とは無関係に、一般論として、更新料の不払いにより、借地権契約が解除できるかについては、注意する必要があります。

     

    ■東京地裁平成27年4月10日判決


     

     

    賃貸人が更新について賃借人に連絡した際に、具体的な額を提示することなく、話し合いを求めたにもかかわらず、賃借人は一方的に支払を拒絶していること、賃借人は、更新料支払条項を十分に理解し認識した上で、賃貸借契約の契約証書に署名押印しており、賃貸人は、更新時期にも同契約証書の作成経緯について説明し、再度、話し合いによる解決を求めたにもかかわらず、賃借人はかたくなに本件更新料支払条項の効力を否定して話し合いにも応じなかったことなどの事情からすれば、賃貸人及び賃借人間の信頼関係が破壊されたと認められ、更新料の不払は本件賃貸借契約の解除原因となる旨判示しています。

     

    ■東京地裁平成29年9月28日判決


     

     

    同判決は、建物賃貸借契約に関するものですが、「賃貸人としては、賃借人が更新料を支払うことを合意したからこそ賃貸借契約を2回にわたり更新したのであり、他方、賃借人としても、更新料を支払うことを合意して賃貸借契約の更新を得たのであるから、更新料の支払は、更新後の賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものといえる。」

     

    「したがって、更新料の不払は、不払の態様、経緯その他の事情からみて、賃貸人・賃借人間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には、更新後の賃貸借契約の解除原因となり得るものというべきである」旨判示しました。

     

    そして、「更新料の不払の期間が相当長期に及んでおり、不払の額も少額ではないこと、賃借人が合理的な理由なく更新料の不払をしており、今後も当該不払が任意に解消される見込みは低く、当事者間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと、更新料の不払は賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。」し、賃貸借契約が解除により終了したとして、建物の明渡を命じています。

     

    ■契約解除を否定した裁判例


     

     

    他方、東京地裁平成25年5月15日判決は借地契約の解除を否定していますが、更新の際に具体的な額の更新料を支払うことを約したことを認めるに足りる証拠がなく、更新に際して更新料を支払う義務を負うものではないことを理由とするものです。

     

  • lawyer

    2021.03.17

    【建物賃貸借】連帯保証人による保証契約の一方的な解除を認めた裁判例

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    賃借人が長期間家賃を滞納しているけど、いずれ連帯保証人から支払ってもらえればいいなどと考え、賃借人に対し契約解除をし、明渡請求することを漫然と放置している大家さんはいらっしゃらないでしょうか。

    そんなことをしていると、連帯保証人から、保証契約を解除され、滞納家賃の回収ができなくなってしまうおそれがありますので、注意が必要です。

     

    今回は、連帯保証人による保証契約の一方的な解除を認めた横浜地方裁判所相模原支部平成31年01月30日判決をご紹介させていただきます。

     

    契約解除

     

     

    ■ 事案の概要


     

     

    市営住宅を賃借するにあたり、被告(賃借人の母)が連帯保証しました。しかし,賃借人は当時から生活保護を受給しており,ほどなく賃料支払を怠るようになって,賃借人と接触・連絡もとれない状態で契約解除ができる3か月分の滞納が生じたものの,原告(賃貸人)は,賃貸借契約を解除せず,連帯保証人である被告に上記滞納額の分割納付を求めました。その後も賃借人は賃料をまったく支払わず,滞納分が累積し,被告は,原告に対し,保証責任の拡大を防止するため,再三,賃借人を退去させて欲しいと伝えたが,原告は応じず,賃貸借契約から約14年が経過した時点で,ようやく建物明渡訴訟を提起し,被告に対し,滞納賃料,違約金,賃料相当損害金の合計約332万円の支払を求めました。

     

    ■ 判決の要旨


     

     

    賃借人が賃料の支払を怠り,将来も支払う見込みがないことが明らかで,賃借人ともまったく接触・連絡もとれず,被告が保証責任の拡大を防止するため再三訴外賃借人を退去させて欲しいとの意向を示していたにもかかわらず,原告は,賃貸借契約の解除及び明渡しの措置を行わず,そのまま使用を継続させ滞納賃料等を累積させていたことから,原告には連帯保証契約上の信義則違反が認められ,保証人からの一方的意思表示による解除が許容されるとし,契約締結から12年以上が経過して被告が賃借人の退去を求めた時点で,黙示的な解除の意思表示がなされたと認定し,以後の保証債務の履行を免れると判断しました。

     また,仮に上記時点での解除の有無にかかわらず,上記時点以降の保証債務の支払を請求することは,権利の濫用として許されないと判断しました。

     

    ■ 判断理由


     

     

    判決は、「期間の定めのない継続的な建物賃貸借契約を締結する賃貸人、保証人は、保証契約を締結する時点で、債務の拡大の可能性・危険性・保証人側からの債務拡大の回避・防止が困難であるという事情について保証契約の前提ないし内容として、当然認識されているものと考えられ、また、継続的契約については、当事者間の信頼関係を基礎としていることをも考慮すると、賃貸人も保証契約上不当に保証人の債務が拡大しないようにする信義則上の義務を負担していると認めるべきである。」と判示しました。

     

    そして、

    ①上記保証契約締結後相当な期間が経過し、

    ②賃借人が賃料の賃料の支払を怠り、将来においても賃借人が債務を履行する見込みがないか、

    ③保証契約締結後に賃借人の資産状態が悪化し、これ以上保証契約を継続させると、保証人の賃借人に対する求償権の行使も見込めない状態になっているか、

    ④賃貸人が上記事実を保証人に告知せず、保証人が上記事実を認識し、何らの対策も講じる機会も持てないまま、未払賃料等が累積していったり、

    ⑤上記のような事情のため、保証人が保証債務の拡大を防止したい意向を有しているにもかかわらず、賃貸人が依然として賃借人に上記建物の使用収益をさせ、賃貸借契約の解除及び建物明渡しの措置を行わずに漫然と未払債務を累積させているような場合には、

     

    賃貸人の前記保証契約上の信義則違反により、賃貸人が保証契約の解除により信義則上看過できない損害を被るなどの特段の事情がない限り、保証人は、賃貸人に対する一方的意思表示により、上記保証契約を解除し、以後の保証債務の履行を免れることができると解すべきである。

     

    また、少なくとも、前記のような事情がある場合、仮に保証人からの解除の意思表示がなかったとしても、賃貸人の保証人に対する保証債務の履行請求は、信義則に反し、権利の濫用として一定の合理的限度を超えては許されないと解すべきであると判示したのです。

     

  • lawyer

    2021.03.12

    【マンション管理】役員候補者を制限する管理規約の有効性

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は、マンション管理組合の役員である理事および幹事について、「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」旨の管理規約の条項(以下、「本件条項」といいます。)の有効性について判断した裁判例(東京高裁平成31年4月17日判決)をご紹介させていただきます。

     

    マンション管理

     

    ■ 事案の概要


     

     

    原告らがマンション管理組合の役員として立候補したものの、理事会が理事ら全員の賛成により、本件条項に基づき、これを承認しない旨の決定したことから、原告らが役員立候補権を侵害されたとして、理事ら全員を被告として、共同不法行為に基づく損害賠償請求をした事案です。

     

    ■ 本件条項の有効性


     

     

    高裁は、本件条項について、明示されてはいないものの、成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて明らかに管理組合の理事としての適格性に欠ける者については、理事会が立候補を承認しないことができるという趣旨であると解され、その限度で本件条項は有効であると判示しました。

     

    そして、理事会が上記の裁量の範囲を逸脱して、立候補を認めない旨の決定をした場合は、立候補者の有する人格的利益を侵害するものとして、違法性を有すると判示したのです。

     

    上記は、区分所有法には、規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないと定められており(30条3項)、これを害するような規約の定めは無効であることを理由とした判断です。

     

    ■ 理事らの過失は否定


     

     
    もっとも、高裁判決は、次の理由から、役員立候補者の承認をしない旨の決定をした理事らの過失を否定し、原告らの損害賠償請求を認めませんでした。

     

    ・本件条項には、立候補者を承認するか否かの基準が明示されていないこと。
    ・理事会の裁量を制限するような定めはないこと。
    ・承認をしない旨の決定をした時点では、本件条項の趣旨が裁判等によって明らかにされていなかったこと。
    ・理事らが法律やマンション管理について専門知識を有するものではなかったこと。
    ・理事としての報酬も多額ではないこと。

     

    ただし、規定に承認するか否かの基準が示さされていたり、理事が法律に関し専門的知識を有していたり、この判決が出た以上、今後は、違法な決定をした場合には、過失が認められ、損害賠償責任を負うおそれがありますので、注意が必要です。

     

    なお、違法な決定に関与しても、過失がないと判断した要素、判断過程は、今後の実務の参考になります。

     

  • lawyer

    2021.03.03

    週刊文春にコメントが掲載されます

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    先日取材を受けまして、明日3月4日発売の週刊文春(2021年3月11日号)に私のコメントが掲載されます。

    http://shukan.bunshun.jp/

     

    皆様の期待を裏切って大変申し訳ありませんが、私が不祥事を起こして、文春砲の餌食になったわけではありません(笑)。

     

    週刊誌

     

     

    騒音トラブルに関する記事です。

     

    誌面の関係があって、正確なコメントを掲載することはできなかったのですが、

     

    騒音が受忍限度を超えるか否かの判断にあたっては、

     

    単に音の大きさだけでなく、

    ・音の種類や発生頻度、

    ・影響の程度

    ・音を発生させる行為の公益上の必要性

    ・所在地の地域環境

    ・関係者同士で話し合われた内容・経緯

    ・騒音元の講じた防止措置の有無や内容

     

    等を総合的に考慮して判断されることを補足しておきます。

     

     

     

     

     

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