ドライブレコーダー

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

今回は、交通事故に関し、東京都に対し、事故車両である都営バスに設置されていたドライブレコーダーの映像が準文書にあたるとして、民事訴訟法の文書提出命令に基づき、その提出を命じた裁判例(東京高裁令和2年2月21日決定)をご紹介させていただきます。

 

■事案の概要


 

 

被害者が都営バスに衝突して死亡した交通事故について、その相続人(原告)が、東京都(代表者は公営企業管理者東京都交通局長)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した事案です。

 

東京都は事故態様について争い、被害者にも過失があるとして、過失相殺の主張をしたことから、原告が上記ドライブレコーダーの映像について、文書提出命令の申立をしました。

 

■根拠条文


 

 

民事訴訟法第220条2号には、「挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。」は、「文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」と定められています。

 

実体法上の引渡・閲覧請求権が認められることが、同条号の要件ですが、これら請求権が私法上のものに限られるか、公法上のものを含むかについては争いがあります。

 

当該裁判例は、東京都情報公開条例に基づき、文書提出を認めていますので、公法上の請求権に基づくものも認める立場と考えられます。

 

■東京都情報公開条例の構造


 

 

東京都情報公開条例には、非開示情報が記録されている場合を除き、開示請求をしたものに対し、当該公文書を開示しなければならない旨が定められています(7条本文)。

 

そして、原則として、個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの(個人識別情報)は、非開示情報にあたるが(同条1項)、

 

例外的に、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報は非開示情報には当たらないとされています(同項ロ)。

 

■裁判例の判断基準


 

 

当該裁判例は、この東京都情報公開条例の構造から、特定の情報が公開の対象となるか否かは、

 

・当該情報の開示により、個人情報が開示されることによる不利益の程度と

・当該情報の開示により、保護される人の生命、健康、生活又は財産の重要性を

 

比較衡量して、判断すべきとしています。

 

■裁判例のあてはめ


 

 

当該裁判例は、

 

・走行中の都営バスのドライブレコーダーにより記録された映像であること

・約2分間という短時間のものであること

・開示の目的が民事訴訟の証拠として使用するものであること

 

からすれば、仮にその映像に、特定個人の容貌や、車両のナンバープレートがなどの個人情報が含まれていても、訴訟中において、これらが開示されることによる不利益は非常に小さなものであるとしました。

 

これに対し、本件の基本事件が、

 

・死亡事故に係る損害賠償請求訴訟であること

・過失相殺が争点になっていること

・映像の開示により過失割合に関する裁判所の判断が変動し、損害賠償額が大きく変わる可能性があるこ十分にあること

 

から、ドライブレコーダー映像の開示により保護される可能性がある財産的利益は、相当程度大きいものがあるとしています。

 

■裁判例の結論


 

 

以上によれば、ドライブレコーダー映像の提供により保護される財産的利益は、その提供により個人情報が開示される不利益を大きく上回っているから、当該映像は、民事訴訟法220条2号に該当するとして、文書提出命令を認めています。