虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

私は、借地権の買取をしている不動産会社の顧問弁護士をしておりますが、譲渡を予定している借地人の代理人として、地主の方と借地権譲渡の交渉をすると、「譲渡承諾はしない。土地を使わないなら返して欲しい。」とご主張される地主の方が多くいらっしゃいます。

 

借地権譲渡

 

確かに、借地人は、自分で借地を使用する必要性が少なくなったから、第三者に対し借地上の建物を譲渡しようとするわけですが、借地人が自分で借地を使用する必要性が少なくなったことが、賃貸借期間内における賃貸借の終了事由になるわけではありません。

 

借地権の存続期間が満了する場合においては、更新拒絶の要件として、地主及び借地人それぞれの土地を使用する必要性が考慮されますが(借地借家法第6条)、借地権譲渡の当否においては、これら必要性が考慮されるわけではありません。

 

地主が承諾しない場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求める申し立てをすることになるわけですが、その要件は、第三者が賃借権を取得しても、「借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず」借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないとき、というものです(同法第19条1項)。

 

■「借地権設定者に不利となるおそれ」


 

 

「借地権設定者に不利となるおそれ」は、一般的には、借地権譲受人の資力(経済的信用)と借地権譲受人の人的信頼性とから判断されます。

 

借地権譲受人の資力とは、地代を確実に支払うことができるか否かということですが、借地権付き建物を購入しようとする者は相応の資力を有していることが通常であり、現実に資力が問題となる事案は少ないと考えられます。

 

なお、借地非訟手続において、この点を証明するため、当事務所では、譲受予定者の決算報告書を書証として提出しています。

 

次に、借地権譲受人の人的信頼性は、地主の主観的な感情によるものではなく、例えば、譲受人が暴力団関係者であったり、風俗営業や騒音・振動・悪臭を伴う営業をしている者であるか否かといった、客観的な社会的信用の面から判断されます。

 

この点で不利になるおそれがあるとした裁判例として、譲受予定者が以前に地主所有の土地を不法占拠し、地主が譲受予定者に対する訴訟と強制執行を余儀なくされたことによって、両者間の信頼関係を維持することができないとされた事案があります(東京地裁昭和51年9月24日決定)。

 

■借地に関する諸事情の考慮


 

 

裁判所は、借地権譲渡許可の裁判をするに当たって、「賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情」を考慮する必要があります(同法第19条2項)。

 

借地権を譲渡しても、「借地権設定者に不利となるおそれ」がない場合でも、これら一切の事情を考慮して、申し立てが棄却される場合もあるということです。

 

賃貸借の残存期間が1、2年程度と短い場合には、更新拒絶の正当事由の有無を考慮して、許否が決せられます。