どのような場合に、保全手続の担保金を取り戻せるか?
虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。
最近立て続けに、仮差押や仮処分手続の担保金の取り戻しが問題となる事件について、ご相談やご依頼がありましたので、整理をしておきます。
仮差押や仮処分手続では、保全執行実施の条件として、裁判官が定めた額の担保金を供託する必要がありますが、どのような場合に、その担保取消が認められるかという問題です。
■勝訴判決が確定した場合
本案訴訟において、債権者勝訴の判決が確定した場合には、担保取消が認められます。
例えば、建物明渡しを認めた判決が確定すれば、占有移転禁止の仮処分において提供した担保の取消が認められますし、売買代金の支払いを命じる判決が確定すれば、預貯金債権の仮差押において提供した担保の取消が認められます。
債権者は、被保全権利全部について本案訴訟で勝訴することが必要ですが、一部敗訴部分があっても、債務者に損害が生じる余地が稀有と認められる場合には、担保事由が消滅したものとされます。
■担保権利者の同意による場合
担保権利者(仮差押や仮処分手続きの債務者)が担保取消に同意した場合には、担保金を取り戻すことができます。
実務上、担保権利者本人の同意の場合には、同意書の真正な成立を証するため、同意書とともに、同意書に押印した印鑑の印鑑証明書を提出する必要があります。
一般的には、本案訴訟で訴訟上の和解が成立することが多く、この場合には、担保取消と、担保取消決定についての即時抗告権の放棄の条項、すなわち、「被告は、原告に対し、原告が●の仮処分命令申立事件について供託した担保(●法務局平成●年度金第●号)の取消しに同意し、その取消決定に対し抗告しない。」が入ることになります。 この場合には、印鑑証明書は必要ありません。
■権利行使の催告により同意が擬制される場合
本案訴訟提起前に、仮差押や仮処分の申立ての取り下げなどがされた場合、担保提供者の申し立てにより、裁判所は、担保権利者に対して、一定期間内に損害賠償請求権を行使すべき旨を催告します。
担保権利者がその期間内に権利行使をしなかった場合は、担保取消しに同意したものとみなされ、担保金の取り戻しができます。
もっとも、既に本案訴訟が提起されている場合には、仮差押等の取下げなど民事保全手続きの完結だけでは足りず、本案訴訟の完結が必要です。