霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、自筆証書遺言の形式的な要件について、簡潔にご説明させていただきます。

 

民法第968条1項には、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定められています。

  

●全文の自書

ワープロや、パソコンによりプリントアウトした遺言は無効です。これだけパソコンが普及した現代ではうっかりやりかねませんね。

司法書士がタイプ印書した不動産目録を添付し、不動産の帰属すべき者の氏名が記載されている場合も、裁判例上、自書要件に違反するとされています。

他人が代筆した遺言も無効です。

 

●日付の自書

日付は、遺言作成時の遺言能力の有無や、遺言の前後の確定のために必要です。

日付は、年月日まで確定できる程度の表示が必要で、「昭和41年7月吉日」といった表示は、特定の日を表示していないから、無効と解されています(最高裁昭和54年5月31日判決)。

成立の前後など遺言の内容に疑いがない場合でも、日にちまでの記載が必要で、年月だけの記載だけでは無効です。

他方、「還暦の日」とか、「○歳の誕生日」といった記載は、作成した日付が特定できますから、有効です。

 

●氏名の自書

氏名は、戸籍上の本名に限らず、雅号や芸名・屋号であっても、遺言者が確定できれば有効です。

名前だけで姓の記載がなくても、同一性が確認できれば、遺言は有効と解されます。

 

●押印

実印に限らず、認印や三文判でも有効です。

拇印でも足りると解されています(最高裁平成元年2月16日判決)。

白系ロシア人で日本に帰化した人の遺言に押印が欠けていた場合を有効とする判例(最高裁昭和49年12月24日判決)もありますが、これは欧米人の慣習を考慮したものであって、日本人一般の場合には、署名だけで押印がない遺言は無効でしょう。

遺言書が数枚にわたるときにも、一通の遺言書と見られれば、割印がなくても差し支えありません。