弁護士ブログ

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    2021.02.25

    【不動産】移転登記の訴訟等にかかった弁護士報酬を損害賠償請求できるか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    土地の売買契約を締結したにもかかわらず、売主が土地の引渡や所有権移転登記手続をしないため、買主が、売主に対し、これら債務の履行を求める訴訟提起・追行や、保全命令、強制執行の申立てを弁護士に依頼した場合、これらにかかった弁護士報酬(弁護士費用)を損害賠償請求することはできるでしょうか。

     

    最高裁令和3年1月22日判決は、このような場合に、弁護士報酬について、債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないとして否定しました。

     

    弁護士報酬

     

     

    ■ 事案の概要


     

     

    当該判決の事案は以下のようなものです。

     

    買主は、売主である株式会社との間で、売主の所有する土地を9200万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、売主に対して手付として500万円を支払いました。残代金全額の支払時に土地の所有権が買主に移転するものとされ、売主は、土地につき、自らの費用で、地上建物を収去し、担保権等を消滅させ、境界を指示して測量した上で、残代金の支払と引換えに引き渡すものとされました。

     

    しかし、その後間も無く、残代金の支払期限前に、売主は営業を停止し、その代表者が行方不明となったため、買主は、弁護士に依頼して、処分禁止の仮処分の申立、所有権移転登記手続及び地上建物を収去して明け渡すことをを求める訴訟を提起し、上記判決に基づいて強制執行を申し立てるなどしました。

     

     

    ■ 否定した理由


     

     

    最高裁は、以下の3つの理由から、訴訟提起等にかかる弁護士報酬を損害賠償請求することはできないと判示しました。

     

    ① 契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。

     

    ② 契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。

     

    ③ 土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、同契約から一義的に確定するものであって、上記債務の履行を求める請求権は、上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。

     

    そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。

     

    なお、当該事案では、弁護士が、買主の代理人として、土地の測量等を土地家屋調査士に依頼し、その費用を支払ったりしていますが、最高裁は、このような事務は、買主が自ら土地を確保し、利用するためのものにすぎないから、同事務に係る弁護士報酬についても、買主が売主に対して債務不履行に基づく損害賠償債権を有するということはできないと判示しています。

     

     

    ■ 考察


     

     

    裁判実務上、交通事故など不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、それにかかった弁護士報酬として、認容額の1割程度(実際に支払った金額ではありません)の損害賠償請求が認められています。

     

    しかし、本件事案では、弁護士報酬の損害賠償請求が否定されました。その違いはどこにあるのでしょうか。

     

    法定構成・根拠の違い、すなわち、不法行為に基づく損害賠償請求の場合には認められるが、契約の債務不履行に基づく損害賠償請求の場合には認められない、と結論づけるのは短絡的で、間違っていると思います。

     

    契約の債務不履行に基づく損害賠償請求の場合でも、たとえば安全配慮義務違反を理由とする場合には、①の理由との関係でいえば、侵害された権利利益の回復を求めるものと言えますし、実際に、裁判例で、弁護士報酬の損害賠償請求を認めたものは多数存在します。

     

     

    私は、③の理由が大きく、基本的に、損害賠償請求権が成立するか否かや、成立するとして、損害額をどのように算定するかについて、弁護士による専門的な判断を必要とする場合には、弁護士報酬の損害賠償請求が認められるが、契約内容から、債務の履行請求権が一義的に確定し、明確に導かれる場合には、弁護士報酬の損害賠償請求は認められないのではないかと思います。

     

    後者の場合にも、弁護士に依頼して、訴訟等を遂行することが多くありますが、日本ではまだ弁護士報酬について敗訴者が負担する制度が導入されておりませんし、そのような程度では、弁護士報酬について損害賠償請求することはできないということです。

     

    実際、売買代金請求訴訟や、貸金返還請求訴訟などでは、それに加えて弁護士報酬を請求することは認められていませんが、本件の土地の引渡や所有権移転登記請求訴訟も、これらと同様ということです。

     

     

    また、②の理由、予測できない事件・事故により損害を被る不法行為の場合とは異なり、契約においては、締結前に、相手方の資力や信用を調査したり、契約が履行されない場合に備えて、契約内容を検討・交渉の上、合意したり、場合によっては契約を締結しないことにより、リスクヘッジすることができるという観点も示唆にとみます。

     

     

    ■ 本判例の意義


     

     

    当該事案の原審では、弁護士報酬の損害賠償請求も認められていましたが、最高裁はこれを破棄自判しました。このように、弁護士報酬の損害賠償請求が認められるか否かについては、実務家でも悩み、判断が分かれるケースがありますが、最高裁が示した理由などから、これが認められる場合と認められない場合とがより明確になったといえます。

     

  • lawyer

    2021.02.18

    【マンショントラブル】騒音の立証方法

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    当事務所では、マンションにおける騒音問題についてご相談やご依頼を受けることが多々ありますが、問題の解決に役立てていただくため、今回は、騒音の立証方法についてご説明させていただきます。

     

    なお、騒音の差止や損害賠償請求を認めた裁判例については、以下をご参照ください。

     

    マンションの階上からの騒音防止及び損害賠償請求

     

    騒音うるさい

     

    ■ 被害者が立証すべきこと


     

     

    騒音の被害者は、裁判において、次の点を立証する必要があります。

     

    ① 騒音が客観的に存在すること(騒音の存在)

    ② その騒音が、上階や隣室等の居住者やその同居者の行動が原因であること(騒音の原因)

     

    まずは通知書を発送したり、交渉をしたりする場合でも、相手方に拒否された場合に備え、訴訟提起を視野に入れて、調査や証拠の保全をしておく必要があります。アクションを起こした後では、相手方が警戒をし、十分な証拠の収集をすることができないおそれがあります。

     

     

    ■ 被害者が立証に成功した裁判例


     

     

    東京地裁平成24年3月15日判決の事案では、被害者が専門業者に委託して、約64万円の費用をかけ、約1ヶ月間にわたり、リビングルームの中央で高さ1.2mの位置を測定点として騒音計マイクロホンを設置し、階上からの音を聴感で関知した際に、騒音計とこれに接続したレベルレコーダーを稼働させて、騒音を測定しました。これは重量衝撃音(子供の体重に近い重量物を高さ1m程度から落下させた時の床衝撃で発生する音)や、軽量衝撃音(椅子の引きずり音やスプーン等の比較的軽量固形物が落下した時の衝撃音)、上階の居室から下階の居室へ伝搬する歩行音の周波数特性等を分析できるものでした。

     

    また、東京地裁平成19年10月3日判決の事案では、被害者が、騒音計のリースを受けるなどし、騒音計をリビングダイニングのほぼ中心から廊下寄りの位置で、天井から約70㎝~1mの位置に設置し、C特性で測定しました(なお、耳の感度に近似するのは、A特性であり、測定された床衝撃系騒音についてC特性をA特性に補正しています)。

     

    さらに、東京地裁平成26年3月25日判決の事案はロックミュージシャンの歌声により騒音被害を受けたという特殊な事案ですが、被害者から委託を受けた専門業者が、1時間、JIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」に概ね則った方法で、被害者の洋室、リビングダイニング及び玄関ホールにおいて、暗騒音と相手方が歌った時の騒音レベルを測定しました。

     

    これら裁判例では、いずれも相手方からの騒音の発生が認められ、損害賠償請求が認められています。

     

     

    ■ 被害者が立証に失敗した裁判例


     

     

    これに対し、東京地裁平成9年4月17日判決の事案では、被害者が、階上からの騒音の発生状況を「騒音日誌」に記録したほか、これだけでは不十分と考え、連日5、6時間にわたり自宅において上方から生ずる音の録音を続け、より正確な騒音を録取するために、集音マイクを自宅の天井に接して録音した上、音響研究所に依頼し、天井付近でマイクを使用して録音した音を、実験で再現した音と対比、検討した結果、録音されていた音は、自宅で録音したものと推定できる旨の鑑定書を提出するなどしました。

     

    しかし、当該判決は、客観的なデータを提供する騒音測定を行うに当たっては、計測用の器機を準備することに加え、音響工学に関する専門的知識及び技術も必要となるところ、被害者がこれまでに独自に行ったという騒音測定の結果は、いかなる機種をいかなる特性の下で使用し、いかなる方法によっていかなる音を採取したものであるか等が明らかにされていないことや、被害者が提出した調査結果も、録音されている音が、相手方宅でゴルフ練習機を作動させたことによって発生した音であると断定するものではなく、あくまでもその可能性があることを述べるに止っていることなどを理由に、騒音の発生を認めませんでした。

     

     

    ■ まとめ


     

     

    以上の裁判例からすると、単に騒音の状況を記録した日誌や、騒音の録音だけでは立証としては不十分であり、騒音計による測定が必要不可欠であるといえます。

     

    しかも、被害者宅の暗騒音の影響を排除したり、相手方宅からの重量衝撃音を分析できたりすることを考えると、騒音測定の専門業者に委託して測定するのが望ましいでしょう。

     

  • qa

    2021.02.15

    【借地契約の更新拒絶】賃料が低額だと正当事由が認められるか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    借地契約の期間満了時における更新拒絶や、賃借権譲渡許可の申立手続(借地非訟)において、地主側から、過去に支払われていた地代が低額(低廉)であったから、更新拒絶における正当事由が認められるとか、譲渡許可の申立は棄却されるべきであると主張されることが多々あります。

     

    しかし、地代が低額である点については、本来、賃料増額請求により、対応すべきであって、これをもって正当事由があるとはいえません(東京地裁平成27年9月7日判決)。

     

    これに対し、東京地裁昭和55年4月22日判決は、地主は、当該土地を取得した当初から将来当該土地を借地人から明渡して貰うことを考え、当該土地の賃貸借による経済的利益を全く考えておらず、そのためこの間の大きな社会的、経済的変動にもかかわらず賃料増額の請求を全くせずに今日に至ったことなどの事情が存在することなどをもって、相当な立退料の提供を条件に、正当事由が具備する旨判示していますが、あくまで、相当な立退料の提供を条件に、事情の1つとして判示しているに過ぎないことに注意が必要です。

  • qa

    2021.02.04

    【通行権】土地を購入したが、私道の所有者が通行を認めてくれない場合、どうしたらよいか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    私は、複数の不動産業者の顧問弁護士をしておりますが、先日、担当者から、このような質問を受けました。

     

    従前の売主の時には、通行が認められていたが、新たな買主に対しては、近隣住民である私道の所有者が通行を承諾してくれないというようなことが時々起こります。

     

    このような場合、私道の所有者の同意が得られなくても、通行が認められるか否かは、従前、どのような根拠によって、通行が認められていたか否かによって異なります。

     

    通行権

     

     

    ① 位置指定道路やみなし道路の場合


     

    当該通路が建築基準法上の道路に該当する場合、すなわち、位置指定道路(同法42条1項5号)やみなし道路(2項道路。同条2項)に該当する場合は、道路としての機能を期待されているため、買主に限らず一般人も当該通路を事由に通行することができ、当該通路の所有者はこれを妨げることはできません。

     

    例えば、最高裁平成9年12月18日判決は、大規模な分譲住宅団地において開設された幅員4メートルの位置指定道路が、約30年以上にわたり、近隣住民等の徒歩及び自動車による通行に使用されていたところ、団地住民が通行契約の締結に応じない車両等の通行を禁止する目的で簡易ゲート等を設置した事案につき、

    「道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。」と判示し、通行を認めています。

     

    位置指定道路か否かは、所在地を管轄する役所の建築課窓口において、「道路位置指定図」を閲覧することで確認することができます。その写しを「指定道路調書証明書」として交付してもらえる場合もあります。

    また、みなし道路か否かは、役所の道路課等において、「建築基準法上の道路台帳」を閲覧することによって、確認することができます。

     

    ② 囲繞地(袋地)通行権が認められる場合


     

    購入した土地が袋地の場合には、公道に出るため、囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することができます(民法第210条)。ただし、通行できる場所及び方法は、通行権者のために必要で、囲繞地のために損害がもっとも少ないものを選ばなければなりません(同法第211条)。

    また、購入した土地が従前袋地ではなかったが、分割されて袋地となった時は分割者の土地のみを通行することができます(同法第213条)。

    なお、囲繞地通行権は、平成16年の民法改正により、「公道に至るための他の土地の通行権」に改称されました。

     

    ③ 通行地役権が設定されている場合


     

    売買された土地の便益のために、当該通路を通行目的のために利用する内容の地役権が設定されている場合は、物権ですので、買主に地役権が移転し、改めて通路所有者の同意を得なくても、通行することができます。

     

    また、地役権は登記することができ、登記されていれば、通路の所有者が替わったとしても、新たな所有者に対しても、地役権を主張することができます。

     

     

    ④ 従前の売主と通路所有者との間で通路の利用契約が締結されていた場合


     

    私道を通行する者と私道の所有者との間で、通路の利用契約が締結されている場合があります。通行の対価を伴う場合には、賃貸借契約ないしこれに類似した契約、無償の場合には、使用貸借ないしこれに類似した契約と考えられます。

     

    いずれにせよ、このような利用契約は債権契約であり、契約当事者間のみにおいて法的拘束力を有するものであって、土地が売買されても、買主には承継されず、買主はこの利用契約に基づく権利を主張することができません。このような場合には、私道所有者の同意を得る必要があります。

     

     

     

     

  • qa

    2021.01.27

    【借地非訟】建物の朽廃とは?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    借地権譲渡許可の申し立てをすると、地主側から、借地上の建物は朽廃(きゅうはい)しており、借地権は消滅しているから、申立は棄却されるべきである旨の主張がなされることがあります。これは、借地法第2条1項但書(第5条1項後段で準用)に基づく主張です。

     

     

    ●建物の朽廃とは


     

     

    朽廃とは、時の経過によって自然に建物の効用が失われた場合をいいます。

     

    法律上、朽廃と滅失とは異なる概念であり、滅失は、建物が物理的に消滅する場合であり、借地法上、朽廃の場合には借地権は消滅しますが、それ以外の理由により建物が滅失した場合には借地権は消滅しません(再築可能)。

     

     

    ●朽廃の判断基準


     

     

    建物が朽廃したと言えるためには、「自然的に達したことが必要であって、火災、風水害や地震により一挙に建物としての効用を失うに至ったり、取壊しのように人為的に建物の効用を失われた場合は『朽廃』には当たらない」と判示されています(東京地裁平成24年11月28日)。

     

    また、朽廃に至ったかどうかは、「建物を全体的に観察し、特に柱、梁、桁、基礎、土台等の構造部分に腐朽損傷があるかどうか等を中心に、建物保全のための通常の修繕によっては存続が不可能になっていないかどうかを検討して判断」します(東京地裁平成14年8月29日判決)。

     

     

    ●朽廃が認められる事例


     

     

    建物が使用できる状態であれば、朽廃には至らないとされ、朽廃が認められるケースは多くありません。

     

    裁判例上、朽廃が認められる場合は、次のような場合です。

    ・かろうじて倒壊を免れている状況で、いつ倒壊するかわからない危険な状態となっている。

    ・基礎等建物の構造部分にほぼ全面的な補修をしなければならず、新築同様の費用が必要となる状態である。

    ・建築後60年が経過し、10年間雨漏りが放置され主要構造部分に相当程度の腐食が認められる居住できるような状態ではない。

     

     

    ●朽廃を否定した判例


     

     

    これに対し、最高裁昭和42年7月18日判決は、築26年経過した建物について、「部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、また、屋根瓦にも同程度の損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に、また一個の構成物である建物全体としてみるときは、自力によって屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることはなく、局部的応急修理の上維持保全の処置を講じるならば建物としての耐久力は安定且つ平衡性を維持し場合によっては増大される状態にあつて、いまだ建物としての社会的経済的効用を失う程度に至つていない、というのであるから、本件建物は借地法にいう朽廃の程度には達していないものと解すべき」と判示しています。

     

  • lawyer

    2021.01.22

    【損害賠償】民法改正による法定利率変更の影響

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    令和2年4月1日に施行された改正民法により、法定利率について、それまで年5%で固定されていたものが、変動性に改正されましたが、これにより損害賠償実務にも大きな影響があります。そこで、今回は、その影響について解説させていただきます。

     

    年利

     

     

    ●法定利率変更のポイント


     

     

    今回の民法改正による法定利率の変更点は次の通りです。

     

    ・当初の法定利率は3%とする(改正民法第404条2項)。

    ・法定利率は、その後3年ごとに見直す(同3項)。

    ・各期の法定利率は、過去5年の毎月の短期貸付平均利率の平均として法務大臣が公示した割合を「基準割合」とし、直近変動期の基準割合との差が1%を超えたときに、その差の1%未満を切り捨てて、整数の単位で法定利率に反映する(同4、5項)。すなわち、4%とか、2%という利率になり、4.5%とか、2.35%といった利率にはなりません。

     

    なお、年6%とされていた商事法定利率(商法514条)は、今回の改正により削除され、商行為にも、民法の法定利率が適用されるようになりました。

     

     

    ●いつの時点の法定利率が適用されるか?


     

     

    法定利率は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって、定められます(同第419条本文)。

     

    不法行為に基づく損害賠償は、不法行為時から、遅滞の責を負いますので、その時点の法定利率が適用されることになります。

     

    いったん法定利率が決まれば、その後、法定利率が変更されても、影響を受けることはありません。例えば、不法行為時の法定利率が3%であった場合、その後、1%に変更されていたとしても、請求できる遅延損害金は年3%のままです。

     

     

    ●経過措置


     

     

    改正民法による法定利率は、令和2年4月1日以降に生じた損害賠償請求権に適用されます。

     

    これに対し、令和2年3月31日以前に生じた損害賠償請求権の遅延損害金は年5%のままとなります。

     

    そのため、訴状記載のよって書きの記載は次の通りとなります。

     

    (令和2年4月1日以降に生じた損害賠償請求の場合、当面の間)

    「金○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済まで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。」

     

    (令和2年3月31日以前に生じた損害賠償請求の場合)

    「金○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済まで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

     

     

    ●中間利息控除


     

     

    損害賠償実務上、後遺症に基づく逸失利益の請求については、本来であれば将来得られるはずの収入を一時金で先に支払う場合に、中間利息控除が行われています。

     

    従前(令和2年3月31日以前に)生じた損害賠償請求において、後遺障害逸失利益を算定する場合、労働能力喪失期間に対応する年5%の利率によるライプニッツ係数を乗ずる方法によって算定されていました。

     

    これに対し、令和2年4月1日以降に生じた損害賠償の場合、その請求権が生じた時点における法定利率によって中間利息が控除されることになりました(同第417条の2第1項)。

     

    すなわち、不法行為時(事件・事故時)の法定利率が3%であった場合には、その後、後遺障害の症状固定時の法定利率が2%になっていたとしても、不法行為時の法定利率である年3%で中間利息が控除されることになります。

     

    但し、中間利息控除の計算期間(労働能力喪失期間)の始期については、従前の運用通り、症状固定時となります。

     

     

     

  • lawyer

    2021.01.08

    周辺住民らによる開発工事の差止請求を棄却した事例

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は、周辺住民らによる、開発工事の差止請求等を棄却した裁判例(神戸地裁尼崎支部令和元年12月17日判決)をご紹介させていただきます。

     

    開発工事

     

     

    ●事案の概要


     

     

    本件は、兵庫県西宮市内にある高塚山と呼ばれる小高い丘にある土地の所有者が事業主、建設会社が工事施行者となって、宅地分譲のための開発を行っていることについて、周辺住民らが、人格権から導かれる「まちづくり権」などを侵害されたと主張して、開発工事の差止や、損害賠償を請求した事案です。

     

     

    ●「まちづくり権」


     

     

    周辺住民(原告)らは、「まちづくり権」について、「より暮らしやすい、自らの幸福を追求しうる生活環境を自ら決定する権利、自らの住む地域のあり方を自らが決定する権利」であると定義した上で、これは人格権が具体化したものであり、法的権利として認められるなどと主張しました。

     

    この点について、本判決は、「まちづくり権」について、法的権利性を有し、工事差止等が認められるためには、

     

    ①権利として客観的に認知されていること、

    ②その内容や効力が及ぶ範囲、発生の根拠、権利主体などについて、一義的な判断を下すことができる程度の明確な実態をすること

     

    が必要であるとした上で、原告らが主張する「まちづくり権」は、

     

    ①土地所有権等を制約するものとして客観的に認知されているということはできないし、

    ②どの範囲の住民が、どのような相手方に対して、差止等の権利行使を行うことができるのかといった具体的内容も全く不明である

     

    などと判示して、その法的権利性を否定しました。

     

     

    ●都市計画法や条例違反の主張


     

     

    また、原告らは、当該開発許可手続において、原告ら住民に対する十分な住民参加手続が履践されなかった結果、当該開発工事は、都市計画法や条例に違反するものになったと主張しました。

     

    この点について、本判決は、都市計画法や条例によるまちづくりに対する住民関与の手続きは、主として市等の地方公共団体の責務とされているものであって、

     

    都市計画法上の開発許可を受けた者は、当該開発許可に重大かつ明白な違法が存し、無効であるような場合の他は、取消訴訟によって取り消されない限り、開発工事を実施することは行政法上適法であることからしても、

     

    事業主ないし施工業者との関係で、住民らがまちづくりに自らが参加し、自らの住む地域のあり方を自らが決定する利益が、法的利益として認められるとまでいうことはできないと判示しました。

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