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    2016.06.02

    その自筆証書遺言は有効?

    霞が関パートナーズ法律事務所の弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は、自筆証書遺言の形式的な要件について、簡潔にご説明させていただきます。

     

    民法第968条1項には、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定められています。

      

    ●全文の自書

    ワープロや、パソコンによりプリントアウトした遺言は無効です。これだけパソコンが普及した現代ではうっかりやりかねませんね。

    司法書士がタイプ印書した不動産目録を添付し、不動産の帰属すべき者の氏名が記載されている場合も、裁判例上、自書要件に違反するとされています。

    他人が代筆した遺言も無効です。

     

    ●日付の自書

    日付は、遺言作成時の遺言能力の有無や、遺言の前後の確定のために必要です。

    日付は、年月日まで確定できる程度の表示が必要で、「昭和41年7月吉日」といった表示は、特定の日を表示していないから、無効と解されています(最高裁昭和54年5月31日判決)。

    成立の前後など遺言の内容に疑いがない場合でも、日にちまでの記載が必要で、年月だけの記載だけでは無効です。

    他方、「還暦の日」とか、「○歳の誕生日」といった記載は、作成した日付が特定できますから、有効です。

     

    ●氏名の自書

    氏名は、戸籍上の本名に限らず、雅号や芸名・屋号であっても、遺言者が確定できれば有効です。

    名前だけで姓の記載がなくても、同一性が確認できれば、遺言は有効と解されます。

     

    ●押印

    実印に限らず、認印や三文判でも有効です。

    拇印でも足りると解されています(最高裁平成元年2月16日判決)。

    白系ロシア人で日本に帰化した人の遺言に押印が欠けていた場合を有効とする判例(最高裁昭和49年12月24日判決)もありますが、これは欧米人の慣習を考慮したものであって、日本人一般の場合には、署名だけで押印がない遺言は無効でしょう。

    遺言書が数枚にわたるときにも、一通の遺言書と見られれば、割印がなくても差し支えありません。

     

     

     

     

     

  • cat4

    2016.06.01

    火災により建物が焼損した場合、賃貸借契約はどうなりますか?

    建物が滅失したときに、建物賃貸借契約がどうなるかについて、法律上、明文規定はありませんが、賃貸借契約の趣旨が達成できなくなるからとの理由で、賃貸借契約は当然に終了するというのが判例(最高裁昭和32年12月3日判決)です。

     

    では、火災により、どの程度、建物が焼失すると、賃貸借契約は終了するのでしょうか。

     

    この点、最高裁昭和42年6月22日判決は、賃借建物が、火災により、2階部分は屋根及び北側土壁がほとんど全部焼け落ち、柱、天井の梁、軒桁等は半焼ないし燻焼し、階下部分は北側土壁の大半が破傷したほかはおおむね被害を免れているが、罹災のままの状態では風雨をしのぐべくもなく、倒壊の危険さえもあり、そのため火災保険会社は約9割の被害と認めて保険金を支払ったこと、完全修復には多額の費用を要し、将来の耐用年数を考慮すると、建物全部を取り壊して新築する方が経済的である等の事実がある場合には、当該建物は、火災により全体として効用を失い、滅失したものというべきであるとし、建物賃貸借契約はこれにより終了したと解するのが相当であると判示しています。

     

    また、横浜地裁昭和63年2月26日判決は、建物の修復には新築よりも多額の費用を要すること、その一部であり、賃貸借の対象である店舗部分には外形的損傷はないが、電気、水、ガス関係の修復等を要し、多大な損傷を受けていないとはいえないことを認定し、当該建物の効用が主要な部分で喪失し、それを完全に回復するために家主が通常負担する以上の修繕費を必要とし、かえって、当該建物を取り壊して新築するほうが経済的であるから、当該店舗は主要な部分が喪失し、賃貸借の目的を達成されない程度に達したものとし、賃貸借契約は終了したと判示しています。

     

    他方、東京地裁平成6年10月28日判決は、賃借建物部分の柱、梁といった主要構造部分までが炭化して損傷しているが、当該建物は半焼で、火災後も従前通りの外形を保っており、屋根や外壁が焼け落ちるといったこともなく、当該建物の1階部分は賃借人が修理したこともあって使用されていること、地震、台風等に備えて改修工事を行う必要はあるが、その場合どの程度の費用を要するか必ずしも判然としないものの、当該建物を取り壊し再建築した方が経済的であるとまでは認められず、適当な復旧工事を行うことにより再使用が可能であるとして、当該建物部分が火災により全体としてその効用を失い滅失したとは認められないと判示しています(但し、賃借人が当該建物から出火させた上、これを無断で修復したことなどにより、信頼関係が破壊されたとして、賃貸人による無催告解除を認めています。)。

     

    このように、賃貸借の目的になっている主要な部分が焼失して、全体としてその効用を失い、賃貸借の目的が達成されない程度に達した場合には、賃貸借は終了すると解されていますが、この判断に当たっては、焼失した部分の修復が物理的に可能か否かのみならず、その修復が賃貸人の負担する通常の費用で行えるものか否かも考慮されるべきであり、当該修復費が新築する費用に近いか、またはそれを超える場合には、賃貸借は終了したと解されます。

     

      霞ヶ関パートナーズ法律事務所
    弁護士  伊 澤 大 輔
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