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    2020.03.19

    【民事執行法改正】預貯金口座の調査方法

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

    令和2年4月1日から、改正民事執行法が施行されます。新設された債務者の預貯金債権等に係る情報の取得手続により、債権者による債務者の預貯金口座の調査がしやすくなりますので、今回はその要件や手続き等について解説させていただきます。

     

    預金通帳

     

    ■申立できる者


     

     

    預貯金に関する情報の開示を求めることができるのは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者です。

     

    改正前は、債務名義のうち、仮執行宣言付判決、支払督促及び公正証書等では財産開示手続の申立をすることができませんでしたが、改正後は金銭債権であれば全ての種類の債務名義で申立をすることができるようになり、申立できる債務名義の範囲が拡大されました。

     

    このほか、債務名義がなくても、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者も申立をすることができます。
    もっとも、一般の先取特権を有する者とは、共益の費用、給料等の雇用関係、葬式費用、日用品の供給に関する債権を有する者ですので(民法第306〜310条)、これを利用できる債権者は限定的です。

     

     

    ■申立の要件


     

     

    預貯金に関する情報取得手続は、不動産や給与債権に係る情報取得手続とは異なり、先行して債務者に対する財産開示手続きを行う必要はありません

     

    ただし、執行開始要件を備えていること(債務者に債務名義が送達されていることや、債務者について破産手続開始決定がなされていないことなど)や強制執行の不奏功等が要件として必要となります。

     

    強制執行の不奏功等とは、強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立の日より6ヶ月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき、あるいは知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明(債務者が持ち家か否か、持ち家であれば担保割れしているか否かなど)があったときです。

     

     

    ■情報提供を求めることができる金融機関


     

     

    銀行、信用金庫、信用協同組合、労働金庫、商工中金、農業協同組合、農業協同組合など、ほとんどの金融機関に対し、預貯金口座に関する情報の開示を命じることができます。詳しくは改正執行法第207条1項1号をご確認下さい。

     

    日本国内にある外国銀行の支店に預けられた預貯金債権は対象となりますが、他方、外国銀行の本店や、日本の金融機関でも海外支店に存在する預貯金債権に関する情報の取得は難しいと考えられています。

     

    また、振替社債等については、振替機関及び口座管理機関に対し、情報の開示を命じることができます。

     

     

    ■提供を受けることができる情報


     

     

    預貯金債権の存否、預貯金債権が存在する場合には、その取扱店舗、預貯金債権の種別、口座番号及び調査基準日時点での残高全額です。店舗も含まれますので、いわゆる全店照会が可能となります。

     

    また、債務者の有する振替社債等の存否、これが存在するときは、その振替社債等の銘柄、額または数に関する情報提供を求めることもできます。

     

    振替社債等には、社債のほか、国債、地方債、投資信託の受益権、株式、新株予約権、新株予約権付社債等が含まれます。

     

    これに対し、振替決済の対象とはならない株式や社債等、生命保険や損害保険の解約返戻金については、改正執行法に基づく情報提供の対象とはなりません。これらについては、従前の実務通り、弁護士会照会等を用いて情報を取得していくことになります。

     

     

    ■手続


     

     

    債権者が裁判所に対し申立をすることにより行われます。原則として、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に申立をします。

     

    申立に際し、債務者の氏名について、できる限り、ふりがな、生年月日、性別、その他の特定に資する事項の記載を必要とします。

     

    預貯金債権に関する情報取得手続については、その流動性の高さによる財産隠しの危険性から、債務者に対して決定の送達はなされません。

     

    決定が出された場合、銀行等は、申立人用の情報提供書面の写しを執行裁判所に提出するか、申立人に対して情報提供書面の写しを直接発送します。

     

    銀行等から情報提供されると、その申立による最後の銀行等から情報が提供されてから1ヶ月程度経過後に、裁判所から、債務者に対し、情報提供命令に基づいてその財産に関する情報の提供がされた旨の通知がされます。

     

     

    ■費用


     

     

    申立手数料は申立1件につき2000円です。同一の債務名義に複数の債務者が記載されている場合も,財産開示手続の性質上、債務者ごとに別事件として申立てをすることが必要となります。

     

    また、申立人は、自身や第三者への郵送費用6000円(東京地裁の場合)も予納する必要があります。

     

    さらに、回答をする金融機関は、1社ごとに2000円の報酬を請求することができます。申立人は、この報酬相当額も予納する必要があります。

     

    これら情報取得手続にかかる費用は、債務者の負担となりますが、実際に債務者に請求するためには、執行費用額確定処分を経て、強制執行により回収する必要があります。

     

    なお、情報取得手続の申立を弁護士に依頼する場合には、別途弁護士費用がかかります。

     

     

    ■弁護士会照会との相違


     

     

    これまでにも、弁護士会照会による口座照会をすることができましたが、この方法で調査できる金融機関は、基本的に、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、みずほ信託銀行、ゆうちょ銀行に限定されていました。これに対し、改正民事執行法に基づく預貯金債権等に係る情報取得の手続きでは、国内にあるほとんどの金融機関に対し、情報の開示を求めることができます。

     

    また、改正民事執行法に基づく預貯金債権等に係る情報取得の手続きでは、金銭債権であれば全ての種類の債務名義で申立をすることができるのに対し、弁護士会照会では、銀行にもよりますが、支払督促や公正証書では、照会できない場合があります。

     

    他方、改正民事執行法に基づく預貯金債権等に係る情報取得の手続きでは、強制執行の不奏功等が要件として必要となるのに対し、弁護士会照会ではこのような要件は必要とされていません。また、弁護士会照会では、債務者に照会の告知は予定されていません。このように両手続は、一長一短です。

     

    そのほか、かかる実費に若干差があります。

     

    以上を踏まえて、改正民事執行法に基づく情報取得の手続と、弁護士会照会手続きのいずれを申し立するかについて選択することになります。

     

     

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