損害賠償問題

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    2021.05.14

    【不動産売買】中古住宅の雨漏り等による契約不適合責任

    雨漏り

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    新築住宅で、雨漏りや漏水があれば、それは当然に瑕疵(契約に適合しない)であるといえ、契約不適合責任を追及することができます。

     

    それでは、中古住宅の場合はどうでしょうか?

     

    買主としては、買って1年もしないうちに、雨漏り等が生じた場合には、瑕疵があるんだから、売主に対し修繕や損害賠償請求することができると思うかもしれません。
    しかし、必ずしもそうはなりませんので注意が必要です。

     

    なお、【損害賠償】契約不適合による損害賠償請求の要件については、こちら

     

    また、【不動産売買】契約不適合責任の免責条項とその有効性については、こちらを、それぞれご参照ください。

     

    ■雨漏りが契約書等で明示されている場合


     

    中古住宅の売買において、雨漏りの事実や、瑕疵、劣化、損傷の程度が、売買契約書や重要事項説明書等で明示的に示されていて、買主がこれを容認して売買契約が締結された場合には、それらは契約の内容になっており、そもそも契約不適合には該当しません。

     

    東京地裁平成25年9月26日判決も、売買契約において、売主は一切の瑕疵担保責任を負わないこと、建物及びその設備は経年変化により老朽化・機能低下がみられ、これを原因として補修・修繕等が必要となり、その費用がかかる可能性があることが容認事項とされていたこと、不動産の引渡しは現況有姿のままされること、売主・買主間で雨漏りを修繕する旨の合意がないこと、買主は雨漏りの存在を事前に認識していたというべきであるから、その他、売主が雨漏りを修繕する義務を負うことを認めるに足りる根拠はないと判示して、買主側の請求を棄却しています。

     

    ■雨漏りが契約書等で明示されていない場合


     

    旧民法下の瑕疵担保責任について、裁判例は、売買の目的物が通常保有すべきことを取引上一般に期待されている品質・性能を欠く場合,目的物に隠れた瑕疵があるとして、売主はその瑕疵について責任を負う。そして、中古住宅が売買契約の目的物である場合,売買契約当時,経年変化等により一定程度の損傷等が存在することは当然前提とされて値段が決められるのであるから,当該中古住宅として通常有すべき品質・性能を基準として,これを超える程度の損傷等がある場合にこれを「瑕疵」というべきであると判示しています(東京地裁平成17年9月28日判決)。

     

    この考え方は、契約不適合責任においても、該当します。

     

    したがって、中古住宅に雨漏り等が生じた場合に、それが契約不適合に当たるか否かは、次のようなメルクマールで判断されます。

     

    ・当該中古住宅に、同種・類似の建物と比べ、通常有すべき品質・性能を基準として,これを超える程度の損傷等があったか。
    ・売買契約前に、大規模なリノベーションがなされていたか否か。
    ・売買代金が、当該中古住宅の価格として相場か、それとも高額か。

     

    以下、損害賠償を否定した裁判例と、肯定した裁判例をいくつかご紹介させていただきます。

     

     

    ■損害賠償責任を否定した裁判例


     

    (東京地裁令和元年10月17日判決)

    ビルを購入したところ、地下受水槽から漏水が発生していることなどが判明したとして、瑕疵担保責任等に基づき、損害賠償した事案につき、当該ビルは、築22年を経た中古ビルであり、現状有姿のまま引き渡すことに当事者双方が合意しているから、当該ビルに経年劣化による様々な不具合が生じていることは、売買契約を締結する上で当然の前提として売買代金等の条件に織り込み済みであると考えられる。したがって、当該ビルに不具合があっても、それが建物の安全性等、建物自体の使用の可否に関わるような重大なものではなく、経年劣化により通常生じ得るようなものである場合には、当該不具合をもって、瑕疵に当たるということはできないというべきであるとして、地下駐車場ピット内に地下水が浸出し、結露が発生するなどしていることについて、ビル自体の使用の可否に関わる重要なものであるとも、経年劣化により通常生じ得る程度を超えるものとも認められないから、ビルの瑕疵に当たるということはできないと判示しています。

     

    (東京地裁平成27年11月30日判決)

    買主が中古アパートである建物及びその敷地を買い受けた際、売主らから、雨漏りや腐食は発見されていない旨の説明を受けたにもかかわらず、引渡し後に雨漏りや腐食が発見され、修理費用などの損害を被ったと主張して、売主らに対し、瑕疵担保責任又は説明義務違反に基づき損害賠償請求した事案につき、売買契約に際し、「現在まで雨漏りは発見していない」、腐食を「発見していない」と明記した本件物件状況等報告書を交付したとしてもこの記載は、売主の当該建物の状況に関する認識を示したものにすぎず、これをもって直ちに過去に雨漏りや腐食が生じた物件ではないことを、自己の法律上の責任として保証したとまでは認められない。そして、過去に雨漏りや腐食があったこと自体は、それによって売買契約当時の建物の利用に支障を生じさせるものではなく、売買契約当時、当該建物が23年以上経年していたことも考慮すれば、瑕疵ということはできない旨判示しています。

     

    (東京地裁平成26年1月15日判決)

    売主は、契約締結に際し、買主に対して物件状況等報告書を交付し、その中で、物件には経過年数に伴う変化や、通常使用による摩耗、損耗があることを告知している一方、建物躯体及び窓やドアのアルミサッシの品質性能について契約上特段の合意がされたとか、売主が特段の品質性能を保証した事実はないことによると、契約上、売主と買主との間で、売買目的物である当該建物について合意された品質と性能は、築38年の分譲マンションが通常有する程度のものであったということができ、「瑕疵」の該当性も、そのような品質性能を欠いているか否かという観点から判断すべきである。当該建物で壁紙に雨水が浸透する不具合は、建物躯体のひび割れが原因であるとは認められるものの、大規模修繕が行われていない限り、経年により建物躯体に雨漏りを生じるようなひび割れが生じることは一般にあり得ることと認められるなどと判示して、損害賠償請求を棄却しています。

     

     

    ■損害賠償請求を認めた裁判例


     

    (東京地裁平成30年7月20日判決)

    売買契約の目的物である建物は、昭和35年新築の中古物件ではあるものの、売買契約が締結される直前に、設備、水回り、電気、内装、外装その他について大規模なリノベーション工事が行われていること、売買代金が築50年以上の建物としては高額であること、売主は、前所有者から、瑕疵担保責任を負担しないという条件で建物を取得している一方で、買主に対し、瑕疵担保責任を負担していることが認められ、そうすると、当該建物は、現状有姿で売買されたのではなく、社会通念に照らし、少なくとも住宅としての最低限の基準を満たす品質・性能を有するものとして売買された、すなわち、雨漏りのしない建物として売買されたとみるのが相当であるとして、洗面室の周囲の雨漏りについては、瑕疵にあたると判示しています。

     

    (東京地裁平成25年3月18日判決)

    降雨があった場合に、本件建物部分のうち書斎及び居間にルーフバルコニー側から浸水する状態にあったところ、当該サッシからの浸水が室内の絨毯や畳の交換を要する程度に及んでいることに照らせば、当該サッシの老朽化の程度は、築後30年の経年劣化を考慮しても、通常有する品質性能を欠くものであり、当該建物部分の瑕疵であるというべきである(なお、当該サッシがマンションの共用部分に属するが、当該サッシの瑕疵が当該建物部分の使用収益に直接影響を与えるものである以上は、売買における目的物の瑕疵として売主が瑕疵担保責任を負うべきものと解される)と判示しています。

     

    (東京地裁平成20年6月4日判決)

    買主らが、建物の柱等に雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食があったところ、売主らが腐食及び侵食を知りつつこれを秘し、腐食及び侵食を容易に知ることができたのに十分な調査をしないで、当該建物を売却したと主張して、売主らに対し、瑕疵担保責任、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償請求した事案につき、ある程度の年数を経た木造建物に雨漏りによる腐食の跡やシロアリによる侵食の跡があったとしても、それが当該建物の土台、柱等の躯体部分にあるのではなく、又は、その程度が軽微なものにとどまるときは、必ずしもこれをもって当該建物の瑕疵ということができない場合があることは否定できないが、当該建物のうち、とりわけサンルームの部分については、土台や柱といった躯体部分に雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食があり、その範囲が柱の上部にまで及び、その程度も木材の内部が空洞化するまでに至っており、現に雨漏りがする状態であるというのであるから、当該建物が売買契約締結時において築後12年が経過した木造建物であることを考慮しても、同部分に建物としての瑕疵があることは明らかというべきであるとして、損害賠償請求を認めています。

     

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    2021.05.10

    【損害賠償】歩行者同士の衝突事故

     

    歩行者

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    私もかつて代理人として示談交渉をしたことがありますが、歩行者同士の衝突事故でも、被害者が思わぬ怪我を負い、損害賠償額が高額になることがあります。

     

    そこで、今回は歩行者同士の衝突事故について、ご紹介させていただきます。

     

    なお、自分でも気づかないうちに、このような歩行者同士の事故についても、対象となる賠償責任保険に加入している場合がありますので、万一、加害者になってしまった方は、保険会社に確認されることをお勧めします。不幸にも、被害者になってしまった方も、加害者に対し、そのような保険に加入してないか確認されることをお勧めします。

     

     

    ■大分地裁令和3年3月15日判決


     

     

    (事案の概要)

    登校中の事故当時13歳の中学2年生の女子(被告)が、対面歩行してきた79歳の女性(原告)と衝突し、原告が尻もちをつくような形で後ろ向きに転倒し、第1腰椎椎体骨折の傷害を負ったという事案です。

     

    (損害賠償責任を肯定)

    判決は、次のように判示して、被告の損害賠償責任を認め、約792万円の損害賠償を認めました。

     

    事故は中学校付近の歩道上で発生したものであるところ、当時は被告を含む中学校の生徒が登校する時間帯であり、かつ、歩道は車道外側線から測定しても約220cmの幅員しかなかったのであるから、その当時その場所においては歩行者同士が衝突する危険が具体的に発生していたものといえる。そして、被告は、事故当時、歩道の前方を歩行していた生徒4名を追い抜こうとしていたところ、上記生徒らは2列縦隊で進行しており、上記生徒らの前方の見通しは悪かったのであるから、このような場合、上記生徒らの前方から対向してくる歩行者と衝突して危害を加えることのないよう、対向歩行者の有無及び安全に十分留意しながら歩行すべき注意義務を負っていたものというべきである。

     

    しかるに、被告は、対向歩行者の有無及びその安全に留意することなく、漫然とIの後に追従して前方を歩行していた生徒4名の追い抜きを開始し、対向してきた原告の存在に気付かないまま衝突して事故を惹起したのであるから、被告には上記注意義務を怠った過失があるというべきである。

     

    (過失相殺を否定)

    原告は、事故当時、両手に荷物を持った状態ではあったものの、歩道を歩行していたにすぎず、その態様が対向歩行者と衝突する危険を生じさせるようなものであったものとはうかがわれない。として、過失相殺を否定しています。

     

    (素因減額3割)

    もっとも、事故の態様は、被告が対面歩行中の原告に衝突したことにより、原告が尻もちをつくような形で後ろ向きに転倒したというものにすぎず、そのような事故態様から重篤な後遺障害が生じることは通常は想定することができず、原告が事故当時79歳の女性であり、骨粗鬆症が加齢的変性により生じたものと考えられることなどの事情を考慮すると、素因減額の割合は30%とするのが相当である。

     

    ■東京高裁平成18年10月18日判決


     

     

    (事案の概要)

    交通規制により車両の進入が規制されていた交差点内において、91歳の女性(被控訴人)が南から北に向かって歩行中、同じく本件交差点内を西から東に向かって歩行していた25歳の女性(控訴人)と接触して転倒し、右大腿骨頚部骨折などの傷害を負った事案です。

     

    (損害賠償責任を否定)

    判決は、次のように判示して、控訴人の損害賠償責任を否定しました。

     

    事故は、控訴人が知人と並んで、人の流れに従ってゆっくりと歩いて交差点の中央付近に至り、目指す店舗を探そうと首を左後方に向け歩みを止めかかった瞬間、控訴人の右肩から背中、腰にかけて被控訴人が接触したというものである。そして、事故当時交差点内は通行人が非常に多く、混み合っていた上、店を探しながら立ち止まる人も多かったのであるから、このような中で人の流れに従ってゆっくり歩行していた控訴人が、店舗を探そうと左後方を向いて歩みを止めようとし、被控訴人が控訴人の右肩から背中、腰にかけて接触し、その瞬間、控訴人及び同伴の知人が被控訴人の手ないし日傘をつかんで支えようとした事実関係の下において、事故前後における控訴人の歩行ないし店舗の物色行為等に有責性を見出すことは困難であるから、控訴人に注意義務違反があったとは認められないというべきである。

     

    ■東京地裁平成4年5月29日判決


     

     

    (事案の概要)

    44歳の女性(原告)が、駅の階段の踊り場から二、三段降りかけたところ、後方より段階の手すりに手を掛けながら駆け降りてきた小学6年生の男子(被告)にいきなり激突され転落し、助骨亀裂骨折等の傷害を負ったという事案です。

     

    (損害賠償責任を肯定)

    判決は、被告は、多数の公衆が昇り降りする狭い駅階段では、他人にいきなりぶつかることのないよう通行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるものといわざるを得ないとして、約98万円の損害賠償を認めました。

     

    他方、被告の両親の責任については、事故の態様は、被告の過失行為に起因するものであり、原告主張のような無謀な行為であるとはいえないばかりでなく、被告がかねてより素行が悪いと評判の子であり、かつ、事故につき、両親が親権者として監督義務を怠った過失があるとまで認定することは困難であるとして、否定しています。

     

    ■東京地裁平成1年3月31日判決


     

     

    (事案の概要)

    浅草寺境内において、不審人物を追いかけて来た警備員(被告)に接触・転倒した通行人(原告)が負傷した事案です。

     

    (損害賠償責任を肯定)

    判決は、事故当時、道路は人通りも多く、走行すれば勢い余って通行人に衝突、接触する危険があったといえるから、被告としては、警備員という立場もさることながら、危険を十分弁え、不法行為者を発見し追跡するとしても、通行人の動向に十分配慮を払い危険の発生を未然に防止すべき注意義務があったというべきである。ところが、被告は、これを怠り、不法行為に及んだ者が逃走するや、同人とはもともと顔見知りで、しかも、行為の態様・程度からしても直ちに追跡しなければならない緊急の事態とはいい難いのに、同人の動静のみに注意を奪われ、その追走を急ぐ余り、単なる通行人にすぎない原告に接触したと認められるから、被告には注意義務違背の過失があったといわざるを得ないとして、約690万円の損害賠償を認めました。

     

    ■まとめ


     

     

    以上から、通常に歩行してだけの場合には、損害賠償責任を負いませんが、加害者とされる者が小走りをしていたり、前方不注視があった場合には、損害賠償責任を負う場合がありますので、注意が必要です。

     

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    2021.05.05

    【損害賠償】契約不適合による損害賠償請求の要件

    契約不適合

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    ネット上でも、契約不適合に関する解説はたくさんありますが、契約不適合を理由とする損害賠償請求の要件について、正確に、というか詳細に解説にするものが見当たらなかったので、私自身の備忘録的な意味も兼ねて(笑)、今回は、この点について、説明させていただきます。

     

    なお、契約不適合責任の免責条項とその有効性については、こちらをご参照ください。

     

    ■契約不適合


     

     

    引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、契約不適合責任を追及することができます。その責任追及の手段の1つとして、損害賠償請求があるのです(民法564条、415条1項)。

     

    目的物の「種類」に関する契約不適合とは、品名、形状・色彩、産地、製造業者等に関して合意した内容と異なること、「品質」に関する契約不適合とは、性質、効用、企画、価値等について合意した基準に満たないことをそれぞれ意味します。もっとも、いずれの契約不適合であっても、効果に変わりはありませんので、両者を区別する実益はありません。

     

    また、目的物に数量不足があったすべての場合に、「数量」に関する契約不適合があったことになるわけではありません。契約当事者が、その契約において、「数量」に特別な意味を与え、その数量を基礎として代金額が決定されたような場合にはじめて、「数量」に関する契約不適合があったことになります。

     

    契約不適合に該当するか否かの判断枠組みは、
    ・当該売買契約が具体的にどのような物を対象としていたか確定する段階と、
    ・実際に引き渡された物がその契約内容に適合する性質を有していたかを判断する段階
    の2段階からなります。

     

    売買の目的物が契約の内容に適合しないことについての主張・立証責任は、債務不履行を主張する買主が負います。

     

     

    ■損害と因果関係


     

     

    また、契約不適合により、買主が損害を被ったこと、契約不適合とその損害との間に相当因果関係があることも要件となります。これらについての主張・立証責任も買主が負います。

     

    ■売主の責めに帰すことができない事由


     

     

    買主は、売主に対し契約不適合責任を追及するにあたり、契約不適合が売主の責めに帰すべき事由によって生じたことを主張・立証する必要はありません。

     

    これに対し、損害賠償請求を受けた売主は、抗弁として、契約不適合が「債務者(売主)の責めに帰すことができない事由」によるものであったことを主張・立証して損害賠償責任を免れることができます(415条2項)。

     

    もっとも、売主に帰責事由がないとして、損害賠償責任を免れるのは、実務上、不可抗力など例外的な場合に限られます。 

     

    ■追完の催告の要否


     

     

    契約不適合がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます(562条1項)。

    ※ただし、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、履行の追完請求をすることができません(同条2項)。

     

    そこで、買主が売主に対し、契約不適合炉理由として、損害賠償請求をするにあたり、予め、履行の追完を請求する必要があるか、損害賠償請求権と追完請求権との関係が問題となります。

     

    (追完とともにする損害賠償の場合)

    まず、売主により追完されても、填補されない損害(たとえば、遅延損害金の賠償や、転売する機会を失ったことによる得べかりし営業利益)の賠償については、追完請求と両立するものであり、予め追完の催告をしなくても、損害賠償請求することができます。

     

    (追完に代わる損害賠償の場合)

    これに対し、買主自らが費用をかけて目的物を修補したり、他から適合する目的物を調達した費用など、追完請求とは両立しない損害賠償の請求については、諸説あります。

     

    代金減額請求権も解除権も、原則として追完の催告を要求していることから、損害賠償請求においても、原則として、売主に対し、まずは追完の請求をし、売主に追完する機会を保証しなければならず、それでも売主が追完しなかった場合にはじめて、損害賠償請求することができるとされています(追完請求権の優位性)。

     

    ただし、次の場合は、例外的に、追完の催告は不要となります(563条2項)。
    ・履行の追完が不能であるとき。
    ・売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    ・契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
    ・これらの場合のほか、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

     

    また、契約不適合に関する規定は任意規定ですので、追完の催告を要せず、直ちに、追完に代わる損害賠償請求をすることができる旨の特約は有効です。そこで、買主がこれを望むのであれば、予め売買契約書にこのような特約を明記しておく必要があるわけです。

     

    ■権利行使期間


     

     

    (種類・品質の契約不適合の場合)

    買主は、売買目的物に種類ないし品質に関する契約不適合があったことを知った場合、それを知った時(※引渡時からではありません)から1年以内に、売主に対し、不適合の事実を通知する必要があり、この通知をしないと損害賠償請求をはじめ、責任を追及することができなくなります(566条本文)。
    ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、期間の制限を受けません(同条但書)。

     

    また、同条は任意規定ですので、特約でこれと異なる定めを設けることができます。

     

    通知は、単に「契約不適合がある」旨抽象的に告げただけでは足りず、細目にわたるまで告げる必要はないものの、不適合の内容を把握することが可能な程度に不適合の種類・範囲を告げる必要があります。他方、不適合責任を追及する意思を明確に告げて、損害額の根拠まで示す必要はありません。

     

    上記権利行使期間の定めは、債権の消滅時効に関する一般準則の適用を排除するものではありませんので、買主が契約不適合の事実を知った時(主観的起算点)から5年、売買目的物の引渡しを受けて(客観的起算点)から10年で消滅時効にかかります(166条1項)。

     

    (数量・権利の契約不適合の場合)

    数量ないし権利に関する契約不適合については、特別な権利行使期間の制限の規定はありません。その結果、債権の消滅時効に関する一般準則が適用され、買主が契約不適合の事実を知った時から5年、売買目的物の引渡しを受けてから10年で消滅時効にかかります(166条1項)。

     

    ■損害賠償請求権と解除権との関係


     

     

    買主が契約不適合を理由に売買契約を解除しても、損害賠償請求権は失われるものではなく、損害賠償請求することができます(545条4項)。

     

    また、買主が買主に対し、追完に代わる損害賠償を請求しても、実際に、その弁済を受ける(あるいは損害賠償請求権が他の債務と相殺される)までは、解除権や代金減額請求権は失われません。

     

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    2021.04.19

    【損害賠償】店舗火災や業務上の火災では、損害賠償請求できる?

     火災

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    近隣から発生した火災被害に遭った場合、自らかけている火災保険により補償を受けるのが一般的でしょう。

     

    しかし、建物に火災保険をかけているだけでは、家財の損害は補償されません。家財も対象とした保険に加入する必要があります。

     

    また、火災被害に遭ったことにより、うつ病になってしまい、通院したり、お店の経営をしていたが休業を余儀なくされ、休業損害が生じたような場合も、このような損害は自らかけている火災保険では、補償されないのが通常です。

     

    そこで、火災保険では補償されない損害について、火災をおこした加害者(失火者)に対し、損害賠償請求したいが、失火者に重過失がないと、損害賠償請求できないと聞くので、果たしてできるだろうかとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

     

    ■失火責任法の規定


     

    失火責任法は、「民法709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。ただし失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。」と規定しています。そのため、失火者に重過失がなければ、不法行為に基づく、損害賠償請求をすることはできません。

     

    ■重過失とは


     

    最高裁昭和32年7月9日判決は、「重大なる過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、「わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い注意欠如の状態」を指すものと判示しています。

     

    しかし、下級審裁判例では、形式的には「故意に近い著しい注意欠如」という枠組みを用いながらも、具体的な判断に際して故意と比べて、重大な過失の有無を判断したものはありません。

     

    下級審判決では、火気を扱う事業者について、自らの過失に基づき火災を発生させた場合には、基本的に、重過失があるとして、損害賠償責任が認められています。

     

    行為義務自体が高められている場合、とりわけ、業務上の注意義務違反がある場合には、その違反をもって重過失と判断する傾向にあります。

    業務者はたとえ軽過失であったとしても、重過失のある市民と同じレベルのサンクションを受けるべきと考えられているのです。

     

    刑法第117条の2も、「業務上必要な注意を怠ったことによる」過失と、「重大な過失による」失火とを並べて、同等に刑罰を加重していいます(以上、潮見佳男著「不法行為法Ⅰ〔第2版〕」259頁)。

     

    以下、重過失があるとして、損害賠償請求を認めた裁判例を紹介させていただきます。

     

     

    ■東京高裁平成29年9月27日判決


     

     

    中華料理店の厨房付近から発生した火災により、当該店舗の上の階にあった居酒屋が全焼したことについて、中華料理店の従業員がガスこんろの調理用の火を消し忘れたもので、従業員にはガスこんろの調理用の火が点いたままであるとの認識がなかったものと考えられるが、揚げ物用の油が入った鍋を載せたガスこんろの火が点いていることを忘れて、その場を離れれば、火災に至る可能性があることは、料理人である従業員において極めて容易に予見することができる事柄であり、従業員には、揚げ物用の油が入った鍋の使用を終える際、ガスこんろの火が消えていることを確認すべき注意義務があるところ、その注意義務はわずかな注意を払えば履行することが十分に可能な内容というべきである。それにもかかわらず、従業員は、ガスこんろの調理用の火を消し忘れてその場を離れ、その結果、火災になったというのであるから、その失火については、従業員に重大な過失があったとするのが相当であると判示しています。

     

     

    ■その他の厨房器具に関する火災で損害賠償を認めた裁判例


     

    その他にも、次の厨房器具に関する火災事案では、いずれも重過失があるとして、損害賠償請求を認めています。

     

    (東京地裁昭和56年5月19日判決)
    ガスコンロでから揚げを調理している途中で調理室を出て、料理の下準備をしているうち、ガスコンロの火がから揚げの油に引火して火災となった事案

     

    (広島地方裁判所昭和48年3月26日)
    パン焼炉から小火が起こり一応消化したものの、パン焼炉周辺に散乱する鋸屑への水撒き、残火の確認をしなかったために、付近に堆積してあった鋸屑に引火し火災になった事案

     

    (東京地方裁判所42年8月2日判決)
    業務用トースターを使用後電源を切らず、帰宅したため、上方の棚板に着火し火災となった事案

     

     

    ■東京地裁令和元年6月13日判決


     

    宗教法人が神宮から譲与を受けた鳥居材を当該被告が預かり保管中、その作業所において発生した火災により上記鳥居材が焼損した事案につき、元代表者は、作業所内には多数の木材が保管されており、同所に設置された焼却炉内の火が消火されずに残っていれば、そこから火の粉が飛ぶなどして周囲の木材に燃え移り、火災が発生する危険のあることを容易に予見することができたにもかかわらず、焼却炉内の火を確実に消火せずに帰宅したことによって、焼却炉を火元とする本件火災を発生させたことが認められ、元代表者には、失火責任法上の重過失があったものと認められると判示しています。

     

     

    ■東京地裁平成29年9月4日判決


     

    焼肉店における無煙ロースターによる火災につき、「被告は、火力を扱う事業者として、火災等の事故を発生させないよう、メーカーの定めるロースターの使用方法を遵守して火災等の事故を発生させないようにする注意義務を負っていた」としたうえ、排気に含まれる油脂分を吸着しダクト内に油脂分が入り込むことを防ぐ機能を持つオイルキャッチャーを使用せず、当該機能を有しない金属たわしで代替し、また、高温の排気がダクトに入り込むことを防止しダクト火災のリスクを軽減させる機能をもつファイヤーダンパーを設置せず、さらに、被告が防火ダンパーやダクト内について、十分な清掃をしていなかったこと等を指摘して、「被告は、重要かつ基本的な注意義務を怠り、本件火災を惹起させたというべきであるから、重過失があるというのを免れない」と判示しています。

     

    ■東京地裁平成27年1月15日判決


     

    家族で営む鋳物製造工場からの出火により被害を受けた近隣住民らが損害賠償請求した事案につき、同判決は、被告らが作業を終えてから、放置した高温の鋳型の周辺について段ボール等が存在していたにもかかわらず、居室で休み、高温の鋳型について特段の監視を行っていなかったと認定し、適切な監視を行っていたならば、段ボールが鋳型に接触して本件火災が発生したとしても、出火直後に段ボールを撤去したり、消火の措置を講じたりするなどすることができたものというべきであると判示しています。

     

    そして、被告らにおいてわずかの注意さえすれば、たやすく火災の結果を予見することができたというべきであるのに、漫然と段ボール箱が近くにあるのに高温の鋳型を放置して、その監視をしなかったものというべきであるから、被告らの注意義務違反の程度は重大であるとして、損害賠償請求を認めています。

     

    ■東京地裁平成26年4月25日判決


     

    工場内のH鋼をアセチレンガス切断機で溶断する作業をしていたところ、切断機の炎が断熱材に燃え移り火災が発生し倉庫等が延焼により焼失した事案において、同判決は、作業員には、ウレタン等の可燃性の断熱材が付着したH鋼をアセチレン切断機で切断するに当たって、断熱材を十分に除去することなく溶断作業をした注意義務違反があり、断熱材が残存しているか否かは目視等により容易に確認できたし、また、目視できない箇所に断熱材が残存している可能性も容易に認識しえたのに確認を怠っており、また、普段ガス溶断作業していた者らを待てない事情も認められず作業員はガス溶断作業をすべきでなかったとして、重大な過失があったとして、損害賠償請求を認めています。

     

    ■東京地裁平成18年11月17日判決


     

    アセチレンガスによる切断作業の業者が周囲に可燃物がないかの確認を怠り火災を発生させたケースにつき、当該作業が爆発又は火災の発生する危険性の高い行為であるため、業者は十分な注意義務を負っていたとし、ガスバーナーの炎が当たるおそれのある板壁の部分に鉄板を差し込むという防火措置を講じていたものの、その防火措置が不十分であるとして、当該作業に業として従事していたものであることをも勘案して、重過失を認めています。

     

    ■東京地裁平成8年10月18日判決


     

    ラーメン店舗の火災事故につき、店舗内装工事の請負人には、ガスレンジの設置に当たり、同判決は、条例の設置基準に依拠し、壁との距離の確保等につき十分確認し火災の発生を防止すべき注意義務があるところ、断熱材が使用されていたとは認められないのに、壁との距離を条例の設置基準に違反してガスレンジを設置したことは注意義務に著しく違反する重大な過失があったとして、損害賠償請求を認めています。

     

     

    ■東京地裁平成4年2月17日判決


     

     

    印刷業者が業務上日常的に使用するガソリンを栓をしないままの瓶に入れて燃焼中の石油ストーブに近接した足元の床上に置いていたため、右瓶が倒れてガソリンがストーブに引火して火災が発生した事案につき、印刷業者は、引火性の強い危険物であるガソリンを日常的に使用していたのであるから、火気を使用するに際してはガソリンの取扱いについて万全の注意を払うべき義務があるにもかかわらず、ガソリンの入った瓶から約七五センチメートルしか離れていないところにストーブを置いてこれを使用し、ストーブが燃焼中であったのに、瓶を、栓をしないままで、ストーブに近い側であってしかも何かの拍子に触れるなどして倒す可能性の高い足元の床に置いていたというのであるから、印刷業者は、通常人の当然用いるべき注意義務を著しく欠いたものというべきであり、その注意義務違反の程度は、失火責任法所定の重過失に該当するものといわなければならないと判示しています。
     

     

  • cat2

    2015.05.22

    示談書はどのように書けばいいですか?

    一般の方は示談書を取り交わすことなど滅多になく、どのような内容を盛り込めばいいかわからないのではないでしょうか。

     

    弁護士が見れば、それが素人が作成したものか、プロが作成したものか一目でわかります。皆さんにも、後顧の憂いを残すこと無く、紛争を確実に解決することができるよう、示談書の書き方をご説明したいと思います。

     

    ところで、事件や事故について示談をする場合には、必ず示談金を払う前に(少なくとも示談金の支払いと引換に)、示談書を取り交わして下さい。お金を支払ってしまった後では、被害者から示談書を取り付けることができず、さらに損害賠償請求を受けるおそれがあります。

     

    以下に、書式例を示します。

     

    示 談 書

    被害者●●(以下、「甲」という。)と、加害者××(以下、「乙」という。)とは、後記事故(以下、「本件事故」という。)について、本日、次の通り、示談する。

    1 乙は、甲に対し、本件事故の損害賠償債務(※1)として、金  円の支払義務があることを認める。

    2 乙は、甲に対し、前項の金員を本示談の席上で支払い、甲はこれを受領した。(※2)

    3 甲は、乙に対し、本件事故について特別に許し、検察庁に対し、乙について不起訴処分とする寛大な処分を求める。(※3)

    4 甲は、乙に対し、その余の請求を放棄する。

    5 甲と乙とは、甲乙間に、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。(※4)

     

    (事故の表示)

    注:日時や場所、事故態様によって、具体的に特定して下さい。

     

    平成  年  月  日

        甲         印 (※5)

        乙         印 (※5)

    以上

    ※1 他に「解決金として」と表記する例もよくあります。

    ※2 これは示談の席上で、示談金を現金で支払う場合の記載例です。被害者としては支払いを確実に受けることができ、安心でしょう。これに対し、後日、振込送金する場合には、「平成 年 月 日限り、甲名義の口座に振込送金する方法にて支払う。なお、送金費用は乙の負担とする。」と記載します。

    ※3 これは、既に事故が刑事事件化しており、示談をすることによって、不起訴にしてもらいたい場合の記載例です。刑事事件化していない場合には省略しても構いません。

    ※4 これは清算条項と呼ばれる重要な条項です。それ以上、お互いに金銭等を請求することができなくなります。

    ※5 住所と氏名を署名して、押印するのが一般的ですが、被害者の方が加害者に住所を知られたくないという場合には、氏名だけの署名でもよいでしょう。印鑑は実印ではなく、認め印でも構いません。

     

    霞ヶ関パートナーズ法律事務所
    弁護士  伊 澤 大 輔
    ☎ 03-5501-3700
    izawa-law.com/

     

     

     

     

  • cat2

    2015.05.11

    事故等により怪我をした場合、どのような立証資料を揃えればいいですか?

    交通事故の場合には、医療機関から保険会社に対し、直接治療費を請求し、保険会社が医療機関に対し、直接治療費を支払うことになり、その過程で、保険会社が診断書や診療報酬書等を入手しますので、被害者の方でこれら資料を揃える必要はありませんが、交通事故以外の事件・事故の場合には、基本的に、被害者の方で、すべての損害の立証資料を揃える必要があります。

     

    ①治療費

    通院した際の領収証をすべてとっているのであれば、それで足りますが、領収証をとっていなくても、医療機関に依頼をすれば、遡って月ごとの診療報酬明細書を発行してくれます。むしろ、診療報酬明細書の方が、領収証よりもがさばらず、具体的な治療内容や通院日が一覧でわかりますので、簡便です。診療報酬明細書を発行してもらうには、一通数千円程度の文書料がかかりますが、その文書料も損害として請求できます。

     

    ②通院交通費

    電車代やバス代等の公共交通機関については領収証が発行されませんので、裏付け資料は必要なく、自己申告で足ります。通院日と合致し、自宅等と医療機関との間の合理的な通院ルートであれば、通常、損害として否定されることはありません。

    他方、タクシーを利用した場合には、その領収証が必要になります。

    また、自家用車で通院した場合には、ネットで自宅等から医療機関への合理的なルートを検索し、1kmあたり15円×距離(km)×往復2のガソリン代を自己申告で請求すればよいでしょう。

     

    ③傷害慰謝料

    領収証や診療報酬明細書で、通院期間や実通院日数がわかりますので、これらによって算定することが可能になります。

     

    ④休業損害

    給与所得者の場合には、勤務先に休業損害証明書を発行してもらう必要があります。その書式は、自賠責保険で使用されているものを利用するのが一般的です。その他に、事故前年の源泉徴収票や、事故前3ヶ月分の給与明細書を揃えるとよいでしょう。

    他方、自営業者の場合には、主に確定申告書で休業損害を立証することになりますが、給与所得者の場合に比べ、その立証は容易ではないかもしれません。

    また、休業損害を請求する前提として、一定期間就労不能であったことを立証する資料として、診断書が必要になります。

     

    ⑤後遺障害関係

    後遺障害診断書のほか、レントゲン写真やMRI画像、各種検査結果が必要となります。醜状痕の場合には、その部位や大きさ、状況がわかる写真も用意した方がよいでしょう。

    また、後遺障害逸失利益算定の前提となる基礎収入については、事故前年の源泉徴収票や確定申告書で立証することになります。

     

    霞ヶ関パートナーズ法律事務所
    弁護士  伊 澤 大 輔
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  • cat2

    2015.05.07

    事故等により負傷した場合、どのような損害を請求できますか?

    事件・事故により負傷したときに損害賠償請求できる、主な項目は以下の通りです。

     

    ①治療費

    通常、かかった治療費は実費全額を請求できますが、必要性・相当性の認められない治療費は否定される場合があります。治療期間が相場よりもかなり長い場合も、否定される場合があります。薬代や診断書等の文書料実費も請求できます。

     

    ②通院交通費

    通院に要した交通費実費が認められます。足を怪我して歩行が困難であるとか、体調が相当悪いような場合には、タクシー代の請求も認められますが、それ以外の場合は、電車やバスなど公共交通機関の料金が基本になります。他方、通院に、自家用車を利用した場合には、1㎞あたり15円のガソリン代を認めるのが保険実務です。

     

    ③入通院(傷害)慰謝料

    入通院に要した期間や実通院日数に応じた慰謝料を請求できます。その基準には、自賠責保険基準、各損害保険会社が使用している任意保険基準、訴訟等で用いられる裁判(赤本)基準といったものがあります。

     

    ④休業損害

    事故等によって、仕事をすることができず、実際に収入が減った場合には、その収入減分を請求できます。なお、実際の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合には、その分を休業損害として請求できます。

     

    ⑤後遺症慰謝料

    後遺症が残った場合には、その等級に応じた慰謝料を請求することができます。交通事故の場合には、損害保険料率算出機構による後遺障害等級の事前認定を受けることが前提となりますが、交通事故以外の場合には、そのような制度がありませんので、後遺障害診断書や画像等により立証をし、交渉により折り合いが付けられるかが問題になり、交渉で折り合いが付かない場合には、訴訟によることになります。

     

    ⑥後遺症逸失利益

    また、後遺症が残った場合には、その基礎年収、後遺障害等級ごとの労働能力喪失率、労働能力喪失期間(基本的に、症状固定日から67歳まで。但し、中間利息を控除する必要)を掛け合わせた逸失利益を請求できます。

     

    怪我をした場合の損害賠償額は、以上のような項目を一つ一つ計算し、これらを積み上げて算出することになります。

     

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