損害賠償問題

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    2021.06.24

    【交通事故】ドライブレコーダーの映像提出を命じた裁判例

    ドライブレコーダー

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

    今回は、交通事故に関し、東京都に対し、事故車両である都営バスに設置されていたドライブレコーダーの映像が準文書にあたるとして、民事訴訟法の文書提出命令に基づき、その提出を命じた裁判例(東京高裁令和2年2月21日決定)をご紹介させていただきます。

     

    ■事案の概要


     

     

    被害者が都営バスに衝突して死亡した交通事故について、その相続人(原告)が、東京都(代表者は公営企業管理者東京都交通局長)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した事案です。

     

    東京都は事故態様について争い、被害者にも過失があるとして、過失相殺の主張をしたことから、原告が上記ドライブレコーダーの映像について、文書提出命令の申立をしました。

     

    ■根拠条文


     

     

    民事訴訟法第220条2号には、「挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。」は、「文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」と定められています。

     

    実体法上の引渡・閲覧請求権が認められることが、同条号の要件ですが、これら請求権が私法上のものに限られるか、公法上のものを含むかについては争いがあります。

     

    当該裁判例は、東京都情報公開条例に基づき、文書提出を認めていますので、公法上の請求権に基づくものも認める立場と考えられます。

     

    ■東京都情報公開条例の構造


     

     

    東京都情報公開条例には、非開示情報が記録されている場合を除き、開示請求をしたものに対し、当該公文書を開示しなければならない旨が定められています(7条本文)。

     

    そして、原則として、個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの(個人識別情報)は、非開示情報にあたるが(同条1項)、

     

    例外的に、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報は非開示情報には当たらないとされています(同項ロ)。

     

    ■裁判例の判断基準


     

     

    当該裁判例は、この東京都情報公開条例の構造から、特定の情報が公開の対象となるか否かは、

     

    ・当該情報の開示により、個人情報が開示されることによる不利益の程度と

    ・当該情報の開示により、保護される人の生命、健康、生活又は財産の重要性を

     

    比較衡量して、判断すべきとしています。

     

    ■裁判例のあてはめ


     

     

    当該裁判例は、

     

    ・走行中の都営バスのドライブレコーダーにより記録された映像であること

    ・約2分間という短時間のものであること

    ・開示の目的が民事訴訟の証拠として使用するものであること

     

    からすれば、仮にその映像に、特定個人の容貌や、車両のナンバープレートがなどの個人情報が含まれていても、訴訟中において、これらが開示されることによる不利益は非常に小さなものであるとしました。

     

    これに対し、本件の基本事件が、

     

    ・死亡事故に係る損害賠償請求訴訟であること

    ・過失相殺が争点になっていること

    ・映像の開示により過失割合に関する裁判所の判断が変動し、損害賠償額が大きく変わる可能性があるこ十分にあること

     

    から、ドライブレコーダー映像の開示により保護される可能性がある財産的利益は、相当程度大きいものがあるとしています。

     

    ■裁判例の結論


     

     

    以上によれば、ドライブレコーダー映像の提供により保護される財産的利益は、その提供により個人情報が開示される不利益を大きく上回っているから、当該映像は、民事訴訟法220条2号に該当するとして、文書提出命令を認めています。

     

  • qa

    2021.06.17

    【損害賠償】営業権侵害における不法行為の成否

    営業権侵害

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    営業活動が許される自由競争の範囲を逸脱した違法な行為については、不法競争防止法において「不正競争」として規制されています。

     

    それでは、不法競争防止法の定める「不正競争」に該当しない行為についても、不法行為(民法709条)にあたるとして、同条に基づく損害賠償請求をすることができるでしょうか?

     

    ■ 営業権とは?


     

     

    営業権ないし営業上の利益とは、権利として保護される範囲が固定されたものではありませんし、絶対的・排他的性質をもつ権利ではありません。

     

    営業権が権利として保護すべきか否かは、競業者の営業の自由(営業権)、職業選択の自由、その他の権利との衡量をする必要があります。

     

    ■ 最高裁平成23年12月8日判決(北朝鮮映画事件)


     

     

    この問題を考えるにあたって、営業権の問題ではなく、著作権に関するものですが、著作権法に定める著作物に該当しない著作物の利用行為について、原則的に、不法行為の成立を否定した最高裁平成23年12月8日判決(北朝鮮映画事件)が参考になります。同判決は次のように判示しています。

     

    著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。

     

    同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって、ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。

     

    したがって、同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない。

     

    ■ 知財高裁平成24年8月8日判決


     

     

    また、知財高裁平成24年8月8日判決は、不正競争防止法も、事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因、内容、範囲等を定め、周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしており、ある行為が不正競争行為に該当しないものである場合、商品等表示を独占的に利用する権利は、原則として法的保護の対象とはならないとし、不正競争防止法が規律の対象とする周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である旨判示しています。

     

    ■ 不正競争防止法が定める「不正競争」


     

     

    不正競争防止法第2条1項に定められている「不正競争」は限定列挙であり、例示列挙ではありません。

     

    同法を制定するにあたり、利害関係のある当事者各層の権利・利益、公共の利益等を総合考慮して、法規制の対象とする行為と、法規制の対象としない行為とを切り分けて判断したはずです。

     

    すると、同法の定めが不正競争法秩序のもとでの競業行為に対する価値判断としては最終的であり、「不正競争」に該当しない行為については、法的に積極的に許容されていると考えられます(潮見佳男『不法行為法Ⅰ〔第2版〕』参照)。

     

    ■ 結論


     

     

    以上から、不法競争防止法の定める「不正競争」に該当しない行為については、不法行為(民法709条)は成立せず、同条に基づく損害賠償請求もできないと考えられます。

     

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