企業法務

  • qa

    2021.06.22

    【企業法務】取締役の法令違反と任務懈怠責任

    法令違反

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    取締役などの役員等は、その任務を怠ったときは、会社に対し、損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。

     

    また、役員等がその職務を行うについて、悪意又は重大な過失があったときは、その役員等は、これによって第三者に対しても損害賠償責任を負います(同法429条1項)。

     

    会社法には、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と定められおり(355条)、取締役は法令遵守義務を負っているわけですが、

     

    取締役が、何かしらの法令に違反した場合には、当然に、会社ないし第三者に対し任務懈怠責任を負うのかというのが、今回の問題です。

     

    ■最高裁平成12年7月7日判決(野村証券損失補填事件・否定)


     

     

    この点、上記最高裁判例は、ここでいう「法令」とは、取締役を名あて人として、取締役が職務上遵守すべき義務に限らず、さらに、商法その他の法令中の、会社を名あて人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定もこれに含まれると判事しています。

     

    その理由については、会社が法令を遵守すべきことは当然であるところ、取締役が、会社の業務執行を決定し、その執行に当たる立場にあるものであることからすれば、会社をして法令に違反させることのないようにするため、その職務遂行に際して会社を名あて人とする規定を遵守することもまた、取締役の会社に対する職務上の義務に属するというべきだからであるとしています。

     

    もっとも、当該事案は、証券会社が一部の顧客に対し、損失補填をした事案であり、独占禁止法(不当な利益による顧客誘引)に違反するとはされましたが、当該行為が行われた当時、証券会社のみならず、監督当局である大蔵省や公正取引委員会も、損失補填が独占禁止法に違反するという見解を採っていなかったことから、取締役らが損失補填が独占禁止法に違反するという認識を有していないくても止むを得ない事情があり、過失がないとして、損害賠償責任を否定しています。

     

    ■知財高裁平成23年6月23日判決(不正競争防止法違反・肯定)


     

     

    他社に対し、営業誹謗行為を行ったことにつき、会社の行為は不正競争(不正競争防止法2条1項14号)に該当するものであるところ、会社の代表取締役は、会社の代表者としての任務に反して、自ら上記不正競争を行ったのであるから、会社法429条1項の規定により。他社に発生した損害を賠償する責任があるというべきであると判示しています。

     

    ■大阪地裁平成21年1月15日判決(労働基準法違反・肯定)


     

     

    別件判決で認められた割増賃金の支払を受けていない労働者らが、当時の代表取締役、取締役、監査役に対し行った割増賃金相当額等の損害賠償請求につき、

     

    取締役及び監査役には会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として会社に労働基準法37条を遵守させ被用者に対し割増賃金を支払わせる義務があるにもかかわらず、当該代表取締役らは悪意又は重過失によりこの任務を怠ったのであり、

    この任務懈怠と当該労働者らが被った損害の間には相当因果関係が認められるとして、

    平成17年改正前の商法266条の3(会社法280条1項)に基づき割増賃金相当額と遅延損害金の限度で労働者らの請求を認めています。

     

    ■大阪地裁平成17年12月8日判決(商標法・否定)


     

     

    インターネットのウェブサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルにメタタグとして登録商標と類似する標章を記載し、その結果、検索サイトにおいて、トップページの説明として、登録商標と類似する標章が表示されていた事案において、商標権侵害を肯定しつつ、

     

    一般に、商標について、その登録の事実が、特許電子図書館の商標検索のサイトを利用することにより、容易に検索可能であるとしても、その事実自体が一般に広く知られているとも、標章を使用する際にはこれを調査するのが当然とされているとも認められないから、商標実務を業としているものでもない取締役において、原告主張の方法により各商標が登録されているか否かを確認しなかったからといって、重過失があったとまでいうことはできないとして、取締役の対第三者責任を否定しています。

     

    ■東京地裁平成8年6月20日判決(関税法、外為法違反・肯定)


     

     

    ジェット戦闘機に用いられる加速度計・ジャイロスコープ及びミサイルの部分品を関税法・(外為法)所定の各手続きを経ないで不正に売却・輸出したことが取締役の善管注意義務・忠実義務に違反する行為であり、これにより罰金・制裁金の支払いのほか売上高の減少・棚卸資産の廃棄等の損害を生じさせたとして、株主が、取締役らに対し、株主代表訴訟により損害賠償の請求をした事案です。

     

    関税法及び外国為替管理法に違反する不正取引・不正輸出について、取締役がその事実を認識しながら支持・承認したものについては、取締役の善管注意義務・忠実義務に違反するとされました。

     

    他方、一部の取引については、取締役会の決裁事項や報告事項になっていなかった上に、国内取引の形態をとり、製品が加速度計・ジャイロスコープであることや最終仕向地がイランであることが判らないような方法で、従業員らにより秘密裡に進められていた等の事情の下で、取締役がその事実に気付かなかったとしても、取締役の善管注意義務・忠実義務に違反するとはいえないと判示されています。

     

    ■東京地裁平成6年12月22日判決(贈賄行為・肯定)


     

     

    取締役が行った贈賄行為について、株主代表訴訟が提起された事案について、次のように判示しています。

     

    とりわけ贈賄のような反社会性の強い刑法上の犯罪を営業の手段とするようなことがおよそ許されるべきでないのは当然である。それにより会社に利益がもたらされるとか、慣習化し同業者がやっているため贈賄をしないと仕事をとれないおそれがあるといった理由で、営業活動としての贈賄行為を正当化し得るものではない。

     

    したがって、贈賄行為は、たとえ会社の業績の向上に役立ち、会社のための営業活動の一環であるとの意識の下に行われたものであったとしても、定款の目的の範囲内の行為と認める余地はなく、取締役の正当な業務執行権限を逸脱するものであり、かつ、贈賄行為を禁ずる刑法規範は、取締役が業務を執行するに当たり従うべき法規の一環をなすものとして、商法266条1項5号の「法令」に当たるというべきである。

     

    そうすると、被告の贈賄行為は、それが同時に政治資金規正法に違反するかどうかにかかわらず、法令及び定款に違反する行為として、会社に対する損害賠償責任を生じさせることになる。

     

     

    ■大阪地裁平成12年9月20日判決(外国の法令・肯定)


     

     

    大和銀行ニューヨーク支店において、同行の行員が、10年以上の間、同行に無断かつ簿外で米国財務省証券の取引を行って約11億ドルの損失を出し、その損失を隠ぺいするために顧客、大和銀行所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却して、大和銀行に約11億ドルの損害が発生したことを米国当局に隠匿していたなどとして、米国において、刑事訴追を受け、罰金3億4000万ドルを支払った損害を、同行に賠償するよう求めた株主代表訴訟の事案です。

     

    外国法令にしたがうことは、取締役の善管注意義務の内容をなし、不正な取引の事実を知りながら、米国法が要求する当局への届出をしなかった取締役及び届け出るように他の取締役に働きかけなかった取締役に、善管注意義務違反の責任が認められています。

     

     

    ■まとめ


     

     

    以上かすると、取締役が法令違反による任務懈怠責任に基づき、会社や第三者に対し、損害賠償責任を負うのは、法令違反をしただけでなく、法令違反になることを認識していた(過失はおろか故意があったような)場合と考えられます。

     

  • qa

    2021.06.17

    【損害賠償】営業権侵害における不法行為の成否

    営業権侵害

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    営業活動が許される自由競争の範囲を逸脱した違法な行為については、不法競争防止法において「不正競争」として規制されています。

     

    それでは、不法競争防止法の定める「不正競争」に該当しない行為についても、不法行為(民法709条)にあたるとして、同条に基づく損害賠償請求をすることができるでしょうか?

     

    ■ 営業権とは?


     

     

    営業権ないし営業上の利益とは、権利として保護される範囲が固定されたものではありませんし、絶対的・排他的性質をもつ権利ではありません。

     

    営業権が権利として保護すべきか否かは、競業者の営業の自由(営業権)、職業選択の自由、その他の権利との衡量をする必要があります。

     

    ■ 最高裁平成23年12月8日判決(北朝鮮映画事件)


     

     

    この問題を考えるにあたって、営業権の問題ではなく、著作権に関するものですが、著作権法に定める著作物に該当しない著作物の利用行為について、原則的に、不法行為の成立を否定した最高裁平成23年12月8日判決(北朝鮮映画事件)が参考になります。同判決は次のように判示しています。

     

    著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。

     

    同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって、ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。

     

    したがって、同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない。

     

    ■ 知財高裁平成24年8月8日判決


     

     

    また、知財高裁平成24年8月8日判決は、不正競争防止法も、事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因、内容、範囲等を定め、周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしており、ある行為が不正競争行為に該当しないものである場合、商品等表示を独占的に利用する権利は、原則として法的保護の対象とはならないとし、不正競争防止法が規律の対象とする周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である旨判示しています。

     

    ■ 不正競争防止法が定める「不正競争」


     

     

    不正競争防止法第2条1項に定められている「不正競争」は限定列挙であり、例示列挙ではありません。

     

    同法を制定するにあたり、利害関係のある当事者各層の権利・利益、公共の利益等を総合考慮して、法規制の対象とする行為と、法規制の対象としない行為とを切り分けて判断したはずです。

     

    すると、同法の定めが不正競争法秩序のもとでの競業行為に対する価値判断としては最終的であり、「不正競争」に該当しない行為については、法的に積極的に許容されていると考えられます(潮見佳男『不法行為法Ⅰ〔第2版〕』参照)。

     

    ■ 結論


     

     

    以上から、不法競争防止法の定める「不正競争」に該当しない行為については、不法行為(民法709条)は成立せず、同条に基づく損害賠償請求もできないと考えられます。

     

  • qa

    2021.06.03

    【企業法務】会社の役員等に対する責任追及訴訟の手続き

    役員等の責任追及訴訟

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(役員等)が、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負いますが(会社法423条1項)、会社が役員等に対し、その責任を追求する訴訟を提起する場合には、通常の訴訟とは異なる手続きが必要となります。

     

    令和3年3月1日施行の改正会社法により改正がなされた点もありますので、うっかり手続ミスをしないように、今回は会社が役員等に対し責任追及をする訴えを提起する場合の手続き等について、説明させていただきます。

     

    なお、今回は株主代表訴訟については対象外とさせていただきます。

     

    ■責任追及訴訟において会社を代表する者


     

     

    取締役の責任を追及する訴えについては、監査役が会社を代表します(386条1項1号)。

     

    ただし、業務監査権限を有する監査役が置かれていない会社では代表取締役が会社を代表します。

     

    また、委員会設置会社では、監査委員(訴えの相手方となる場合を除く)が会社を代表します(408条3項1号)。

     

    ■訴えの管轄


     

     

    責任追及等の訴えは、株式会社(または株式交換等完全子会社)の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属しますので、それ以外の裁判所に訴訟提起することはできません(848条)。

     

     

    ■公告または株主への通知


     

     

    株式会社は、責任追及の訴えを提起したときは、遅滞なく、その旨を公告し、または株主に通知しなければなりません(849条5項)。

     

    株式会社が、株主から、責任追及の訴えを提起したとして、訴訟告知を受けたときも同様です。

     

    ただし、公開会社でない株式会社の場合は、株主への通知で足ります(同条9項)。

     

    これらは、会社と取締役との馴れ合い訴訟を防止するとともに、和解が適切に行われることを担保するものです。

     

     

    ■訴訟参加


     

     

    原則として、株主又は株式会社は、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するため、責任追及訴訟に参加することができます(849条1項本文)。

     

     

    ■和解をする場合


     

     

    令和3年3月1日施行の改正会社法により、株式会社等が、その取締役(監査等委員及び監査委員を除く)や元取締役の責任を追及する訴訟において和解をする場合には、次の者の同意を得なければならなくなりました(849条の2)。

     

    ・監査役設置会社の場合、監査役(監査役が二人以上の場合には、各監査役)
    ・監査等委員会設置会社の場合、各監査等委員
    ・指名委員会等設置会社の場合、各監査委員

まずは相談することが
解決への第一歩となります。

トラブルを抱え、鬱々とした日々を過ごしてはいませんか?

当事務所はトラブルに即時介入し、依頼者の盾となり、ストレスフルな日々から解放します。

pagetop