弁護士ブログ

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    2018.10.25

    【相続】死亡退職金は遺産分割の対象になるか?

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近ご相談を受けた中で、死亡退職金の遺産性が問題になった事案がありましたので、今回は、裁判実務の傾向を整理しておきたいと思います。

     

    ちなみに、「死亡退職金」は私企業等の従業員が死亡した時に支給されるもので、公務員が死亡した場合に支給されるものは「死亡退職手当」、私企業の役員が死亡したときに支給されるものは「死亡退職慰労金」と呼ばれています。

     

    退職金

     

     

    ■私企業等の従業員の「死亡退職金」


     

     

    私企業等の従業員の死亡退職金の法的性質や遺産性は、一律に決することができず、具体的な事案に応じて個別に判断する必要があります。

     

    死亡退職金に関する支給規定があるか否か確認する必要があり、支給規定がある場合には、支給基準受給権者の範囲又は順位などの規定により、支給規定がない場合には、従来の支給慣行や支給の経緯等を考慮して、個別に、遺産性を検討することになります。

     

    一般的に、支給規定の受給権者の範囲又は順位が、民法の遺族の範囲及び順位と異なる定めがなされている場合には、遺産性が否定されることが多いです。

     

    私立の学校法人の職員の死亡退職金について、最高裁昭和60年1月31日判決は、死亡退職金の支給を受ける遺族は、職員の死亡当時、主としてその収入により生計を維持していた者でなければならないこと、第一順位は配偶者であること(内縁関係を含む)、配偶者があるとき、子は全く支給を受けないことなど、民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは著しく異なった定め方をしていることから、遺族の生活保障を目的とし、遺族固有の権利であるとして、遺産性を否定しています。

     

     

    ■公務員の「死亡退職手当」


     

     

    受給者固有の権利であり、遺産にはなりません(遺産分割の対象にはなりません)。

     

    国家公務員退職手当法は、受給権者を遺族とし、受給権者の範囲及び順位を法定しており、受給権者の範囲及び順位は民法の定める相続人の範囲及び順位と異なっています。これは遺族の生活保障を目的としていると解され、遺産性はないとされています。

     

    地方公務員に対する死亡退職手当についても、国家公務員退職手当法と同様の内容を定めているときには遺産性が否定されます(最高裁昭和58年10月14日判決)。

     

     

    ■私企業の役員の「死亡退職慰労金」


     

     

    その遺産性は、支給規定、定款の定め、支給決議等の内容と支給の実情等に検討することになります。

     

    広島高裁平成12年2月16日判決は、「死亡した会社役員に対する退職慰労金が同人の相続財産に含まれるか否かは、その支給を決定した総会決議が、同人の相続財産とする趣旨で同人の相続人を支払対象者としてなされたか否かによって決せられるところ、本件決議は、本件退職慰労金の受給者が同人の内縁の妻及び法律上の妻のいずれかであることを当然の前提としているから、同人の相続財産ということはできない。」旨判示しています。

     

     

     

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    2018.10.05

    貴ノ岩の日馬富士に対する損害賠償請求の当否

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    大相撲の幕内貴ノ岩が元横綱日馬富士に対し、約2413万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

     

    報道によれば、その内訳は、次の通りとのことです。

      

    入院・治療費  約436万円

    十両に転落しなければ得られたであろう給与  約148万円

    懸賞金の逸失分  900万円

    退職時の幕内養老年金等の減額分  172万円

    巡業手当の逸失分  38万円

    慰謝料  500万円

    弁護士費用  約219万円

     

    これに対し、日馬富士側は不調となった調停で50万円を提示したとされており、双方の金額にはかなりの開きがあります。

     

    日々、損保業務等で、損害賠償事案を多く取り扱っている私としては、貴ノ岩の損害賠償請求の当否が気になりましたので、今回は、この問題について検討して参ります。

     

     

    ■入院・治療費


     

     

    入院・治療費は、被害者が実際に支出した実費ですので、診療報酬明細書や領収証により支出したことの立証があれば、基本的には、損害賠償請求が認められます。

     

    しかし、貴ノ岩の怪我は加療12日間程度の怪我だったようですので、その怪我の程度に比べ、入院・治療費として約436万円というのはあまりにも高額です。

     

    損害賠償が認められる治療費は、必要かつ相当な実費の範囲に限られるところ、貴ノ岩の入院・治療費には、精神的な問題によるものや、報道陣から隠れるための任意のものも含まれていたと考えられ、その多くは傷害事件との相当因果関係がなく、損害として認められないでしょう。

     

    傷害事件により精神的ダメージを受けた治療費についても認められる余地がありますが、基本的には、貴ノ岩が肉体的な怪我を治すにあたり、必要性・相当性の認められる範囲に限られます。

     

     

    ■逸失利益


     

     

    十両に転落しなければ得られたであろう給与、懸賞金の逸失分、退職時の幕内養老年金等の減額分、巡業手当の逸失分は、いずれも逸失利益の(得べかりし利益が得られなかったことによる)損害賠償です。

     

    これらについては、貴ノ岩の加療12日間程度の怪我によって、相撲をとることができなかった(休場せざるを得なかった)期間がどの程度の期間か、その休場によって十両に転落したのか等を検討することになります。

     

    一般的には、治療期間中でも就労することは可能であり、治療期間以上に休業期間が認められることはありません。力士という職業の特性上、負傷によって稽古ができなかった影響は考慮されるかもしれませんが、加療12日間程度の負傷であったことからすると、十両に転落しなければ得られたであろう給与、懸賞金の逸失分による損害が認められるとしても、その割合的ごく一部が認められるに過ぎないのではないかと思料します。  

     

     

    ■慰謝料


     

     

    入通院慰謝料は、基本的に、入通院の期間や、実通院日数をベースとして、算定されます。裁判基準において、1ヶ月の通院で28万円、2ヶ月の通院でも52万円ですので、加療12日間程度の怪我であったという貴ノ岩の慰謝料として500万円の請求は高額でしょう。

     

    本件は、過失による事故ではなく、故意による傷害事件であり、その分悪質性が高いですが、それでも、上記裁判基準の何割か増し程度の増額が一般的でしょう。

     

     

    ■弁護士費用


     

     

    不法行為等による損害賠償請求の訴訟(売買代金請求や貸金返還請求などその他の金銭請求事件では、弁護士費用の請求は認められません。)では、治療費や休業損害、慰謝料等の合計額の1割程度を弁護士費用相当の損害として請求するのが一般的です。

     

    判決でも、実際の認容額の1割程度が、弁護士費用として、事件・事故と相当因果関係のある損害として認められます。

    例えば、貴ノ岩の治療費や逸失利益、慰謝料が、合計200万円が妥当と判断される場合には、20万円が弁護士費用相当額の損害として認められることになります。

     

     

     

     

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