企業法務

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    2021.05.26

    【取締役の解任】職務不適任による「正当な理由」が認められるか?

     取締役解任

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    取締役などの役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条1項)。理由のいかんを問いません。

     

    ただし、解任について正当な理由がない場合には、解任された取締役は、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償請求をすることができます(同条2項)。

     

    そのため、取締役を解任した場合、会社は、取締役から、損害賠償請求されることが多く、取締役の解任に「正当な理由」があるか否かは、重要な争点となります。

    特に職務への不適任を理由とする場合には、「正当な理由」が認められるケースと認められないケースとに分かれ、判断が難しいことががありますので、今回は、その裁判例について紹介させていただきます。

     

    ■正当な理由とは?


     

     

    東京地裁平成29年1月26日判決は、会社法339条2項の「正当な理由」の内容について、会社・株主の利益と解任の対象である役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり、具体的には、会社において、当該役員に役員としての職務執行をゆだねることができないと判断することもやむをえない客観的な事情があることをいうと判示しています。

     

    また、東京地裁平成25年5月30日判決は、正当な理由が存在する場合とは、当該取締役の職務の執行に当たり、

     

    ①不正の行為や定款又は法令に違反する行為があった場合
    ②取締役が経営に失敗して会社に損害を与えた場合
    ③当該取締役の経営能力の不足により客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合

     

    に認められるとし,単に株主と取締役との間で経営方針が異なるというだけでは正当な理由は認められないとしています。

     

    ■解任事由の告知の要否・会社の認識


     

     

    役員の解任について定める会社法339条において、役員を解任するに当たり、会社の故意過失や当該役員への解任事由の告知は要件とされていない上、「正当な理由」を会社が認識していた事情に限定する旨の規定も存在しないことからすれば、正当な理由の根拠となる事情は、解任時点で客観的に存在していれば足り、会社代表者らが認識していることまで要しないとされています(東京地裁平成30年3月29日判決)。

     

    ■正当な理由を認めた裁判例


     

     

    (東京地裁平成30年3月29日判決)

     

    同判決は、以下の事実を認定し、それぞれが単独で解任の正当な理由になるとまではいえないものの、これらを総合勘案すれば、当該事業について取締役会決議などがされていることなどを踏まえても、取締役として著しく不適任であるとされてもやむをえないといえ、解任には正当な理由があると判断しました。

     

    ・企業グループ全体の経営に重大な悪影響を及ぼすおそれのある事業を企図し実行したこと
    ・当該事業の実施を決定する取締役会及び当該事業への追加投資を承認する稟議において虚偽説明をしたこと
    ・子会社に対し虚偽説明を伴って当該事業に係る販売データの購入圧力をかけたこと
    ・グループ役職員等の電子メールに含まれる情報を不正に取得したこと

     

    解任された取締役が企画・実行した事業は、小売店舗の店頭で商品陳列状況を無断で撮影し、その画像をマーケティングに有用な情報にデータ化した上で販売するというものであり、店舗内で隠し撮りをする点で違法と判断される危険性があり、かつ、小売業者との信頼関係を破壊し、グループ全体の経営に悪影響を及ぼしかねないおそれのあるものであって、解任された取締役には、業務を遂行するに当たって要求される手続を軽視する姿勢が顕著に見られ、コンプライアンス意識も欠如していると判示されています。

     

    (東京地裁平成18年8月30日判決)

     

    取締役は、会社代表者から支店への異動を打診された直後から、会社代表者及び副社長の自己に対する人事異動の打診行為について批判し、それにとどまらず、その後は会社及び代表者の数々の問題点、疑問点を挙げ連ねて会社批判を繰り返し、上記打診がある前には全く見受けられなかったところの会社への敵対行動に出ていること、当該取締役は既に会社の情報を訴週刊誌の記者にまで情報提供しているがその必要性はなかったと思われること、会社の内部的な問題は、これをスキャンダルとして週刊誌等に掲載されれば会社の信用を損ね経営に支障を来すことは容易に予期できたものと考えられることなどからすると、当該取締役の行動は、会社の是正というよりも意に沿わない人事異動の打診があったことを契機とした会社と会社代表者への糾弾を中心とする報復措置と受け止められても仕方のないものであったと評価でき、むしろ業務執行を阻害するものというべきであり、現実に会社あるいは会社代表者の信用は損なわれ、取引及び収益の減少も相当程度生じていることから、その解任には正当事由があると判示しています。

     

    (広島地裁平成6年11月29日判決)

     

    正当事由には、経営判断の誤りによって会社に損害を与えた場合も含まれるものというべきであるとし、会社の売上が毎年着実に伸びており、業務の特殊性からして、リスクの大きい株式取引に手を出さなければならない緊急性がなかったにもかかわらず、代表取締役が多額の株式の信用取引や投機性の高い取引を独断で行い、結果的に多額の損失を会社に与えたものであって、これは、代表取締役としての経営判断の誤りと評価されても止むを得ないものであると判示し、解任について正当事由を認めています。

     

    もっとも、同判決は、当該取締役が、脳血栓で二か月もの入院加療を要する状態になり、退院後も長期的な通院治療を必要とし、意識状態は普通であるものの、会話能力や筆記能力が相当程度低下しているのであって、かような状況で取締役として通常どおりの職務の遂行が可能であるとは考え難いというべきことや、当該取締役が、退院してからも、出社して自ら経営者としての職責を全うする態度を見せておらず、却って他の監査役や取締役らの責任追及に対してひたすら弁解に終始するばかりであり、自己の解任が議題になっている株主総会にも出席せず、職務の遂行に対する意欲も失われていたこともあわせて認定して、正当事由を認めたものであり、経営判断の誤りのみによって、正当事由を認めたものではありません。

     

     

    ■正当な理由を否定した裁判例


     

     

    (東京地裁平成29年1月26日判決)

     

    解任された取締役の次の行為について、各項目ごとに独立して、「正当な理由」があるということはできないと判示しています。

     

    ・受嘱承認手続に係る規範の不遵守等
    ・グループの方針の不遵守
    ・研修義務不履行者への措置・処分の未策定
    ・離職者数の多さ
    ・規程整備への非協力
    ・業績目標の未達
    ・アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢
    ・独断での新たなQRMプロセスの提案
    ・パートナーシップの検討における姿勢
    ・提供を受けたサービスの対価の支払懈怠

     

    また、当該取締役の行為や対応が、グループ子会社の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであり、これらを総合すると、代表取締役としての適性に疑念を生じさせる面があることは否定できないとしつつ、他方、業績が低迷して営業力も低い会社の収益を改善し規模を拡大することを目的として招聘されたものであり、当該取締役自身、そのことを十分認識して代表取締役(社長)に就任したものであること、実際、会社の損益は、黒字に転じ、在任中は一応黒字を維持しており、従業員数も、毎年約100人ないし150人ずつ増加していることが認められ、これらの事実を総合すれば、当該取締役が代表取締役として著しく不適任であると断ずることはできず、解任について「正当な理由」があるとまでいうこともできないと判示しています。

     

    (東京地裁平成11年12月24日判決)

     

    正当事由の有無につき検討するに、解任された取締役は、従業員を指導する際、余りにも激しく叱責し、店長や従業員から不満をかうようなことがあったり、会社代表者に苦情を述べる従業員がいたり、各店長から会社代表者に上申書が提出されるようなことがあったり、役員室に内側から施錠して一人役員室にこもって執務することがあるなど従業員らの信頼が十分でなく、当該取締役に適切さを欠く業務執行の態様があったことは否定できないと判示しています。

     

    しかし、従業員に対する叱責に関しては、当該取締役が自己の職務に熱心なあまり、その言動にいきすぎた面があったとも評価できなくもなく、この事実をもって職務への著しい不適任ということはできないし、当該取締役に対する従業員らからの信頼が十分でないことや業務執行の態様にやや不適切な面があったことが、結果として会社の経営にどのような影響を与えたのかも不明であり、業績の悪化、信用失墜等を含めた経営上の支障が会社に生じたことを認めるに足りる証拠もなとして、著しい職務への不適任があったということはできず、正当事由は認められないと判示しています。

     

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    2021.05.26

    【消費者契約法】製品性能の不実告知があったとして、売買契約の取消が認められた裁判例

    軽自動車

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は、軽自動車の売買契約において、カタログの表示又は販売店の従業員の説明により重要事項である車両の燃費値について不実告知があったとして、消費者契約法4条1項による取消しが認められた裁判例(大阪地裁令和3年1月29日判決)を紹介させていただきます。

     

     

    ■事案の概要


     

     

    三菱自動車等が、軽自動車のカタログ等に、「国交省の定める測定方法等による燃費性能」よりも優れた燃費性能を表示させた上で、販売店らをして、原告らに対して軽自動車を販売させたとして、車両に係る各売買契約を消費者契約法4条1項1号(不実告知)に基づいて取り消したなどと主張した事案です。

     

     

    ■不実告知による取消の要件


     

     

    消費者契約法4条1項1号は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について、事実と異なることを告げたこと(不実告知)により、消費者が告知された内容を事実であると誤認し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたときは、これを取り消すことができると規定しています。

     

    その要件を整理すると、次の通りとなります。

     

    ①事業者と消費者との間の契約であること(消費者契約該当性)。
    ②事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不実告知をしたか(勧誘及び不実告知該当性)。
    ③告知された内容は、重要事項に当たるか(重要事項該当性)。
    ④消費者が告知された内容を真実であると誤認したか、不実告知と誤認、誤認と消費者契約の申込みの意思表示との各間に因果関係があるか(因果関係の有無)。

     

    ■ ①消費者契約


     

     

    消費者契約法2条1項の「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)をいい、個人事業者であっても、事業としてでもなく、事業のためではない目的のために契約の当事者となる場合には、「消費者」となり得ます。

     

    原告の一人であるJは個人事業主でしたが、主にその妻が日常の家事に使用するため、車両(サクラピンクメタリック色)を購入したことが認められ、自らの事業として又は自らの事業のために当該車両を購入したものとは認められないから、Jは、当該車両の売買契約において、「消費者」に該当するというべきであると判示されています。

     

    ■ ②勧誘及び不実告知


     

     

    消費者契約法4条1項1号の「勧誘」とは、事業者が消費者に対し、消費者契約の締結に際し、消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の消費者契約の締結に向けた働きかけを行うことをいい、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような媒体により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合もこれに含まれます。

     

    販売店らによるカタログの交付またはその従業員による説明は、同号の「勧誘」に当たるものと認められます。

     

    また、カタログ等の「燃料消費率(国土交通省審査値)」の表示は、国土交通省の定める測定方法による算出値であるということを意味するものであるところ、国土交通省の定める測定方法による算出値ではないのに同測定方法による算出値であるかのように表示し、かつ、実際の国土交通省の定める測定方法による算出値よりも優良な数値を表示した点において、事実と異なるものであり、カタログ等の表示並びにこれを前提とした販売店らの従業員による説明を確認又は理解した者は、表示された値が国土交通省の定める測定方法による算出値であり、かつ、実際の算出値よりも優良な数値であることについて、事実であるとの誤認を生じさせるものというべきであるから、不実告知に当たると認められます。

     

    ■  ③重要事項


     

     

    消費者契約法4条1項1号の「重要事項」とは、消費者契約に係る「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」(同条4項1号)等であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(同項柱書)をいいます。

     

    ここで「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とは、契約締結の時点における社会通念に照らし、その契約を締結しようとする一般的・平均的な消費者が契約を締結するか否かについて、その判断を左右すると客観的に認められるような契約についての基本的事項をいいます。

     

    そして、当該事案において、不実告知の対象事項は、車両の燃費値という「質」に関わるものであるところ、車両の燃費値は、軽自動車を購入しようとする消費者にとって、経済的な観点のみならず、環境問題への配慮がされた車両か否かという売買において購入の一つの重要な要素であり、事業者である三菱自動車おいても、目標燃費値を達成することが車両の売上げ増に直結するものであるとして、車両の開発が行われていたことが認められます。

     

    これらの事情からすると車両の燃費値は、車両の売買契約を締結しようとする一般的・平均的な消費者が車両の売買契約を締結するか否かの判断に通常影響を左右すると客観的に認められるような車両の売買契約についての基本的事項に当たるものといえ、「重要事項」に当たるものと認められています。

     

    ■ ④因果関係


     

     

    原告ら(一部を除く)は、販売店らから交付されたカタログ等又は被告販売店らの従業員の説明により、車両の燃費値が、国土交通省の定める測定方法による算出値であり、かつ、実際の算出値よりも優良な数値であることについて不実告知を受け、この内容を真実であると誤認したことが認められ、これによって車両の売買契約を締結したものと認められています。

     

     

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