損害賠償問題

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    2024.03.27

    フランチャイズ契約における違約金の妥当額

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

    フランチャイズ・システムの構築を進めている顧問先から、加盟店がフランチャイズ契約を中途解約した場合などに備え、違約金の定めを設ける予定であるが、法的に問題はないか、いくらくらいが妥当か相談を受けましたので、文献や裁判例をリサーチした結果を踏まえ、ご説明させていただきます。

     

    ■問題の所在


     

    本部(フランチャイザー)が加盟店(フランチャイジー)に対して、違約金を課すこと自体は、直ちに、独占禁止法上問題にはなりませんし、違法とも言えません。

    ただし、違約金が著しく高額で、これにより事実上、加盟店側からの中途解約が制限されるような場合には、優越的地位の濫用に該当し、独禁法上、問題となり、公序良俗に反し、無効となるおそれがあります。

     

    ■違約金規定を有効と判示した裁判例


     

    【東京地裁令和2年2月27日判決】

    歯のホワイトニング、口内のアロママッサージ等のデンタルエステサービスを提供するフランチャイズ・チェーンを運営している本部が、フランチャイズ契約を締結した歯科医師(加盟店)に対し、フランチャイジーによる中途解約を理由とする違約金を請求した事案

    当該フランチャイズ契約において、契約期間は店舗の開店から10年間とされ、解約日から起算して3箇月以上かつ6箇月未満前の文書による予告に基づく中途解約の場合には、固定ロイヤリティ(月額20万円)の2年分の約定解約金の支払が必要と定められていました。

    加盟店が、当該違約金規定は、公序良俗に違反し、無効であると主張したのに対し、

    判決は、
    ・加盟店は、独立した事業者として、自己の判断と責任においてフランチャイズシステムに加入し、本部との関係を継続しながら利潤を追求しようとするものであるところ、加盟店としても、加盟店の地位を取得することによって、自己の経済的利益を確保、増大させるとの利害得失を考慮して、解約金の定めに関する約定の存在も承知した上で、フランチャイズ契約を締結したと考えられること、
    ・違約金条項は、本部からフランチャイズ契約を中途解約する場合の解約金の金額も同額とされており、解約金の金額において、フランチャイザーとフランチャイジーとの間で条件の違いはないこと、
    ・フランチャイズの契約が終了したとされた日から本来の契約期間の満了まで4年程度残存していたこと、
    ・加盟店は、本部から受領した収支計算方法について説明した資料に依拠して、契約期間中、赤字であった旨主張するが、そもそも、契約書では、本部が加盟店の売上や利益を予測しないことが明記され、実際に、フランチャイズ契約の締結に当たって、本部は、加盟店に対して、売上予測等を示していない以上、本部の誤った情報提供により加盟店が損害を被ったとはいえないこと
    などといった事情に鑑みると、解約金が社会的に相当と認められる範囲を超えて著しく高額なものであるとか、一方的にフランチャイジーたる加盟店の利益を害するものとまでいうことはできず、
    違約金規定が公序良俗に反して無効であるということはできない旨判示しています。

     

    【東京地裁平成28年2月23日判決】

    宅配弁当事業のフランチャイズ契約を締結していたところ、加盟店が食材売掛金の未払を起こし、かつ、突然店舗経営を放棄したことを理由に本部が契約を解除した事案。

    フランチャイズ契約には、契約書所定の解除事由により、本部から、契約が解除されたときは、加盟店は損害賠償(残存期間についての逸失利益を含む)として、解除日直近の12ヶ月間(12ヶ月未満のときは経過月)の店舗経営の実績に基づく平均月間営業総売上(1ヶ月未満のときは本部の示す初年度の予想平均月間営業総売上)に基づき算出した本部ロイヤリティー相当額の48ヶ月分を本部に支払うものとする旨の違約金条項が定められていました。

    判決は、加盟店には契約上の解除事由が存在し、本部の解除請求は認められるとし、上記違約金条項に基づき、ロイヤリティーの平均額48ヶ月分の損害賠償請求を認めました。

     

    ■違約金規定を一部制限した裁判例


     

    【東京地裁平成30年6月19日判決】

    エステ事業のフランチャイズ契約において、加盟店が、当該フランチャイズ契約に違反した場合は、本部に対し、違約金として500万円を支払う旨の違約金条項が定められていたところ、本部が、これはフランチャイズ契約に違反する行為ごとに違約金支払義務が発生する旨を定めたものであり、加盟店は、2回に渡り、競業避止義務違反行為をしたから、違約金として1000万円の支払義務を負うと主張したのに対し、

    判決は、次のとおり判示しています。
    ・違約金条項には、違反行為ごとに違約金支払義務が発生するとは明記されていないこと。
    ・フランチャイズ契約書は、その体裁から本部が条項の原案を作成したことが明らかであるところ、違約金の定めは、フランチャイジーである加盟店のみが負担することとされ、フランチャイザーである本部については同様の定めは規定されていないこと。
    ・以上の諸事情によれば、違約金条項を加盟店に不利益に緩やかに解釈することは相当ではなく、違反行為ごとに違約金支払義務が発生するとは明記されておらず、しかも、別に損害賠償請求の余地を残すものである以上、本件違約金条項に基づき、加盟店が違約金の支払義務を負うのは、その文言どおり500万円にとどまると解するのが相当である。

     

    【東京高裁平成8年3月28日判決】

    同判決は、コンビニエンスストアのフランチャイズ契約につき、違約金(損害賠償の予定額)を定めておくことには合理的な理由があることを認めつつ、

    違約金の約定を一律に適用すると、事案の具体的事情に照らし、その損害賠償の予定額が社会的に相当と認められる額を超えて著しく高額となって、損害賠償額の予定の趣旨を逸脱し、著しく不公正であるような場合には、社会的に相当と認められる額を超える部分は公序良俗に反するものとして無効というべきであるとし、

    違約金がロイヤリティの120ヶ月分(契約期間の10年分)と定めれれていることにつき、解除後の契約期間がどの程度残存しているか、本部側において契約期間の残存期間中、フランチャイザーとしての義務を履行し得る状況にあるかということにかかわりなく、常に全契約期間中のロイヤリティに相当する損害賠償を請求し得るということは社会的に相当とはいえないと判示しています。

    この事案の第一審判決(東京地裁平成6年1月12日判決)は、解除原因の内容及び態様、フランチャイザーの被った実損の額、その他の具体的事情に関係なく、違約金に関する約定を一律に適用することは著しく不公正であって、当該事案における適正な賠償予定額は、各店舗毎に30か月分のロイヤリティ相当額をもって相当とし、その余の部分は無効であると解するのが相当であると判示しましたが、控訴審もこれを維持しました。

     

    ■違約金規定を無効と判示した裁判例


     

    【東京高裁平成7年2月27日判決】

    クリーニング店のフランチャイズ契約において、解約に際し加盟店から本部側に500万円の解約一時金を支払わなければならないとの約定について、

    ・加盟店がグループ組織加盟に際し本部と契約した当時は、加盟店は自由になんらの負担なく契約関係を終了することができたこと、
    ・違約金条項を含む会員契約書の作成に当たり、本部から各条項についての説明がなかったこと、
    ・契約当時、加盟店はグループ組織の一員として営業すべく多額の投資を行ったばかりで、契約を拒むことは事実上困難であったこと、
    ・解約一時金の金額が下限のみ500万円と定められ、上限の定めがないこともあって、加盟店からの期間満了による契約関係の終了を著しく困難なものとし、会員契約の継続を相当程度強制する結果となること
    ・従前解約一時金は特段の事情がない限り免除されるのが例であったのに、本部に対しては会員契約上その他の業務に関係した非違とは直接関係のない理由で免除しないこととされたことが明らかであること
    から、加盟店に500万円の解約一時金の支払を強制することは、著しく正義に反し、公序良俗に違反し、無効である旨判示しています。

     

    ■まとめ


     

    以上の裁判例から、次のようなことが言えます。

    ・フランチャイズ契約が中途解約された場合、(平均ないし固定)ロイヤリティの2〜4年分の違約金の定めは有効と解される可能性が高い。

    ・他方、フランチャイズ契約の残期間がどのくらい残っているかに関係なく、ロイヤリティの120ヶ月(10年分)の違約金の定めは無効となる可能性が高い。

    ・解約一時金の下限額のみが定められ、上限の定めがない場合には、定めがあいまいで無効と解される可能性がある。

    ・違約金条項に明記されていなければ、違反行為が複数回あったとしても、違約金を複数回分請求できるわけではない。

    ・違約金の規定が、本部(フランチャイジー)及び加盟店(フランチャイザー)双方に公平・平等に適用される場合には、有効と解される要素となる。

     

    ■募集時の情報提供にも注意


     

    本部が、加盟店を募集するに当たり、フランチャイズ契約を中途解約する場合には実際には高額な違約金を本部に徴収されることについて十分な開示を行わないと、ぎまん的顧客誘引の顧客に誤認させること」(一般指定8項)に該当するおそれがありますので、注意が必要です。

     

    上記の「誤認させること」には、顧客にとってメリットと誤認される事項を積極的に情報提供する行為のみならず、顧客にとってデメリットとなる事項をあえて顧客に情報提供しないという不作為も含まれうるからです。

     

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    2024.03.13

    退職後の競業行為に関する損害賠償の可否

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

    顧問先等から、役員や従業員による退職後の競業行為や、従業員や顧客の引き抜き行為に関する相談を受けることが、そこそこあります。

    この点、退職後の競業行為等を禁止する合意書や誓約書、就業規則が存在する場合には、その内容や有効性を判断することになります。

    退職後の従業員に競業避止義務を負わせることは、その者の職業選択の自由を制約することになりますので、公序良俗に反し無効となる場合もありますが、今回はどのような場合に合意が有効で、どのような場合に無効になるかという問題には立ち入りません。

    今回は、このような退職後の競業避止義務等に関する合意がない場合において、判例や裁判例を概観し、どのような行為が違法とされ、損害賠償請求できるかについて説明させていただきます。

    退職

     

    ■不法行為等の成立を認めた裁判例


     

    【東京地裁昭和51年12月22日判決】

    会社の取締役らが在職中から新会社の設立を企図し、突然にしかもいつせいに退職して退職した会社と営業の一部競合する新会社を設立し、従来からの会社の得意先に対し、同社と同一もしくは類似した商品の販売を開始した事案について、次のように判断しています。

    被告らが原告会社と競合する被告会社を設立することは自由であると言っても、その設立については原告会社に必要以上の損害を与えないように、退職の時期を考えるとか、相当期間をおいてその旨を予告するとか、さらには被告会社で取扱う製品の選定やその販売先などにつき十分配慮するなどのことが当然に要請されるのであってて、いたずらに自らの利益のみを求めて他を顧みないという態度は許されない。しかるに前記認定事実からすれば、被告らは原告会社在職中から被告会社の設立を企図し、突然にしかも一斉に同社を退職して同社と営業の一部競合する被告会社を設立し、従来からの原告会社の得意先に対し、同社と同一若しくは類似した商品の販売を開始したというのであるから、同人らのかかる行為は先に述べたことからして著しく信義を欠くものと言わざるを得ず、もはや自由競争として許される範囲を逸脱した違法なものと言わざるを得ない。

     

    【東京地裁平成5年1月28日判決】(チェスコム秘書センター事件)

    原則的には、営業の自由の観点からしても労働(雇傭)契約終了後はこれらの義務を負担するものではないというべきではあるが、すくなくとも、労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して、使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されないものと解するのが相当であり、そのような働きかけをした場合には、労働契約上の債務不履行となるものとみるべきである。

     

    【横浜地裁平成20年3月27日判決】(ことぶき事件)

    美容室の総店長として勤務していた者が、退職時に無断で顧客カードを持ち出し、他店で勤務する際に利用していたという事案について、次のように判断しています。

    顧客カードの管理状況について見ると、リプル店において、顧客カードは、リプル店の顧客が自由にこれを見ることができるような状態に置かれてはいなかったものの、単に輸ゴムで束ねられ、カウンターの下の三段ボックスや顧客の荷物置場に保管されていたにすぎず、これに秘密とする旨の格別の表記等もされず、被告が顧客カードを持ち出した当時、これが施錠できる場所に保管されていたわけではなく、また、パソコンに入力されていた顧客情報についても、パスワードの設定がされておらず、従業員が自由に顧客情報にアクセスすることができる状態に置かれていたものと認められるのである。そうすると、顧客カードは、秘密に管理され、情報の漏洩防止のための客観的な管理下に置かれていたとは認め難いから、顧客カードにつき、上記の秘密管理性を認めることはできない。

    顧客カードは「営業秘密」に当たらないから、被告が顧客カードを持ち出した行為を不正競争防止法2条1項4号の「不正競争」と認めることはできないが、その有用性及び非公知性は肯認されるのであって、たとえ従業員であってもこれを原告の承諾なく持ち出して、リプル店の営業活動以外の目的で使用するのは、不法行為に当たるというべきである。

     

     

    ■不法行為等の成立を否定した裁判例


     

    【最高裁平成22年3月25日判決】

    工作機械部品等製造会社を競業避止義務特約の定めなく退職した従業員が、別会社を事業主体として同種の事業を営み、退職した会社の取引先から継続的に仕事を受注した行為につき、退職のあいさつの際などに取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの、取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、退職した会社の営業秘密に係る情報を用いたり、信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったものではなく、また、退職直後に会社の営業が弱体化した状況を利用したともいい難い等の諸事情を総合し、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものとはいえず、不法行為に当たらないとされた事例。

     

    【東京地裁平成20年11月7日判決】(スタートレーディング事件)

    従業員は退職後に使用者に対して競業避止義務を負うものではなく、自由競争を逸脱するような方法で使用者の顧客を奪取したような場合に例外的に不法行為が成立する余地があるにすぎない。

    被告Bは、原告の顧客に対し、退職の挨拶をする際に新たに会社を始めることを告げたところ、求められるままに価格表等を提示してこれによって取引が開始されたことが認められる。そうすると、被告Bは、原告における営業担当者であったことを活用して顧客を獲得したという面があることは否定できない。ただ、その際、原告よりも極端に取引条件を有利にしたとか、原告との取引を止めるよう執拗に勧めたとか、原告について何か虚偽の事実を告げたとか等の事情は認められない。また、これら顧客としても、長年取引のあった原告との取引を中止し、新たな業者と取引を開始することは相応の危険を伴うことであり、顧客が取引に応じたということは、顧客自身の選択でもある。そのように考えると、被告Bないし被告会社の行なった取引が自由競争を逸脱した取引であるとは認められない。

     

    【東京地裁平成20年7月24日判決】

    被告は、原告を退職後、新会社の設立準備中に、偶々、Gからプロジェクトのコンペに参加するよう打診を受け、被告が原告の従業員として稼働していた際に知り得た業務上又は技術上の秘密等を利用することなく、退職後に自ら行った現地調査や周辺環境の調査等を元に、それまで培った知識・経験等を生かして企画書を作成・提出し、顧客のコンペにおいて最も高い評価を得たがために、受注に至ったのであって、これを自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできない。

     

    【大阪地裁平成12年9月22日判決】

    すでに被告会社を退職していた被告石井が,被告会社と競合する新規事業を計画し,その遂行に必要な従業員を確保し契約園を募るなどした結果,被告会社の従業員の一部がこれに応じて被告会社を退職し,被告会社が受託していた幼稚園の一部が被告会社との契約を解消したとしても,そのような被告石井の競業行為やこれに呼応した従業員の行為が当然に被告会社に対する背任行為等として不法行為となるものではない。

     

     

    ■まとめ


     

    以上から、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で、元雇用者の顧客を奪取したとみられる場合には、元従業員の行為が違法と判断され、損害賠償を受ける可能性があります。

     

    それでは、具体的にどのような場合に、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱する」と評価されるおそれがあるかといいますと、次のような行為が挙げられます。

    ・退職した会社の営業秘密に係る情報を用いて営業活動を行う。

    ・退職した会社について虚偽の事実を告げたり、その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行う。

    ・退職直後に退職した会社の営業が弱体化した状況を利用して営業活動を行う。

    ・顧客に対し、退職した会社よりも極端に取引条件を有利にする。

    ・顧客に対し、退職した会社との取引を止めるよう執拗に勧める。

     

    他方、次のような行為については、自由競争の範囲内と解されます。

    ・退職のあいさつの際などに取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のこと

    ・取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用する程度

    ・退職後に、それまで培った知識・経験等を生かして企画書を作成・提出し、顧客のコンペにおいて評価を得て、受注に至った場合

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