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    2021.05.26

    【消費者契約法】製品性能の不実告知があったとして、売買契約の取消が認められた裁判例

    軽自動車

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    今回は、軽自動車の売買契約において、カタログの表示又は販売店の従業員の説明により重要事項である車両の燃費値について不実告知があったとして、消費者契約法4条1項による取消しが認められた裁判例(大阪地裁令和3年1月29日判決)を紹介させていただきます。

     

     

    ■事案の概要


     

     

    三菱自動車等が、軽自動車のカタログ等に、「国交省の定める測定方法等による燃費性能」よりも優れた燃費性能を表示させた上で、販売店らをして、原告らに対して軽自動車を販売させたとして、車両に係る各売買契約を消費者契約法4条1項1号(不実告知)に基づいて取り消したなどと主張した事案です。

     

     

    ■不実告知による取消の要件


     

     

    消費者契約法4条1項1号は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について、事実と異なることを告げたこと(不実告知)により、消費者が告知された内容を事実であると誤認し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたときは、これを取り消すことができると規定しています。

     

    その要件を整理すると、次の通りとなります。

     

    ①事業者と消費者との間の契約であること(消費者契約該当性)。
    ②事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不実告知をしたか(勧誘及び不実告知該当性)。
    ③告知された内容は、重要事項に当たるか(重要事項該当性)。
    ④消費者が告知された内容を真実であると誤認したか、不実告知と誤認、誤認と消費者契約の申込みの意思表示との各間に因果関係があるか(因果関係の有無)。

     

    ■ ①消費者契約


     

     

    消費者契約法2条1項の「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)をいい、個人事業者であっても、事業としてでもなく、事業のためではない目的のために契約の当事者となる場合には、「消費者」となり得ます。

     

    原告の一人であるJは個人事業主でしたが、主にその妻が日常の家事に使用するため、車両(サクラピンクメタリック色)を購入したことが認められ、自らの事業として又は自らの事業のために当該車両を購入したものとは認められないから、Jは、当該車両の売買契約において、「消費者」に該当するというべきであると判示されています。

     

    ■ ②勧誘及び不実告知


     

     

    消費者契約法4条1項1号の「勧誘」とは、事業者が消費者に対し、消費者契約の締結に際し、消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の消費者契約の締結に向けた働きかけを行うことをいい、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような媒体により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合もこれに含まれます。

     

    販売店らによるカタログの交付またはその従業員による説明は、同号の「勧誘」に当たるものと認められます。

     

    また、カタログ等の「燃料消費率(国土交通省審査値)」の表示は、国土交通省の定める測定方法による算出値であるということを意味するものであるところ、国土交通省の定める測定方法による算出値ではないのに同測定方法による算出値であるかのように表示し、かつ、実際の国土交通省の定める測定方法による算出値よりも優良な数値を表示した点において、事実と異なるものであり、カタログ等の表示並びにこれを前提とした販売店らの従業員による説明を確認又は理解した者は、表示された値が国土交通省の定める測定方法による算出値であり、かつ、実際の算出値よりも優良な数値であることについて、事実であるとの誤認を生じさせるものというべきであるから、不実告知に当たると認められます。

     

    ■  ③重要事項


     

     

    消費者契約法4条1項1号の「重要事項」とは、消費者契約に係る「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」(同条4項1号)等であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(同項柱書)をいいます。

     

    ここで「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とは、契約締結の時点における社会通念に照らし、その契約を締結しようとする一般的・平均的な消費者が契約を締結するか否かについて、その判断を左右すると客観的に認められるような契約についての基本的事項をいいます。

     

    そして、当該事案において、不実告知の対象事項は、車両の燃費値という「質」に関わるものであるところ、車両の燃費値は、軽自動車を購入しようとする消費者にとって、経済的な観点のみならず、環境問題への配慮がされた車両か否かという売買において購入の一つの重要な要素であり、事業者である三菱自動車おいても、目標燃費値を達成することが車両の売上げ増に直結するものであるとして、車両の開発が行われていたことが認められます。

     

    これらの事情からすると車両の燃費値は、車両の売買契約を締結しようとする一般的・平均的な消費者が車両の売買契約を締結するか否かの判断に通常影響を左右すると客観的に認められるような車両の売買契約についての基本的事項に当たるものといえ、「重要事項」に当たるものと認められています。

     

    ■ ④因果関係


     

     

    原告ら(一部を除く)は、販売店らから交付されたカタログ等又は被告販売店らの従業員の説明により、車両の燃費値が、国土交通省の定める測定方法による算出値であり、かつ、実際の算出値よりも優良な数値であることについて不実告知を受け、この内容を真実であると誤認したことが認められ、これによって車両の売買契約を締結したものと認められています。

     

     

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    2021.05.18

    【建築トラブル】施工業者が破産した場合、どうする?

    施工業者の破産

     

    虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

     

    最近も、アパートの階段崩落事故に関連して、施工業者が破産しましたが、施工業者(請負人)が破産して、建築工事がストップしてしまうことは度々起こることででして、私も相談を受けることがあります。

     

    思いがけず、このような事態に陥って、お困りの注文者の方もいらっしゃるのでしょうから、今回は、施工業者が破産した場合の対応方について、ご説明させていただきます。

     

     

    ■「住宅完成保証制度」加入の有無の確認


     

    「住宅完成保証制度」とは、施工業者が破産し工事を継続できなくなった場合に、住宅の完成に向けた工事費用や破産などにより戻ってこないお金(前払金等)の損失を保証したり、引き継ぎ業者をあっせんすることができる任意加入の保証制度です。

     

    破産した施工業者がこの保険に加入していた場合には、その保険金により救済を受けられる場合がありますので、まず、この点を確認してください。

     

    ただし、保証限度額が定められていたり、増嵩工事費用(未履行部分の工事を別の業者が代わりに施工した場合で、手戻り工事費や既施工部分の検査などを行う費用)の限度額が定められており、全額の保証を受けられるとは限りません。

     

    なお、「住宅完成保証制度」と「住宅瑕疵担保責任保険」とは、別のものですので、注意が必要です。

     

    後者の「住宅瑕疵担保責任保険」は、引き渡された新築住宅に特定の瑕疵があった場合に、補修等を行った施工業者や住宅販売業者に保険金が支払われる制度です。施工業者が破産した場合に、工事を続行するためにこの保険制度を利用することはできません。

     

    ■「住宅完成保証制度」に加入している場合の注意点


     

     

    一般的に、次のような事実が発生したときには、発注者は、保険会社に対し、遅滞なく、通知することが求められています。

     

    ・建築工事の全部または一部の施工の中止を知ったとき。

    ・施工業者が倒産等、建築工事が継続できなくなる事実が発生したことを知ったとき。

    ・施工業者につき、破産、民事再生、会社更生手続開始の申し立てがあったことを知ったとき。

    ・発注者が、建築工事請負契約を解除しようとするとき(書面での通知)。

     

    正当な理由なく、これら通知義務を履行しないと、保険会社による保証債務の履行を受けられなくなる場合がありますので、注意が必要です。

     

    また、施工業者が倒産等した場合、保険会社(の依頼を受けた鑑定人)が、当初締結した請負金額に係る見積単価に基づき、出来高の算定を行うことになります。

     

    ■その他、初動で行うべきこと


     

    (工事の進捗状況の撮影)
    後述の通り、破産管財人が請負契約を解除する場合には、工事の出来高の査定が必要不可欠になりますので、速やかに、工事現場で、工事の進捗状況を詳細に撮影し、証拠を保全すべきです。

     

    (出来高の査定)
    また、施工業者の従業員や、他の専門業者の協力を得て、出来高の査定を行ってください。

     

    なお、工事現場の占有は施工業者(破産後は、破産管財人)にあると考えられますので、工事現場に立ち入る場合には、破産管財人に立ち会ってもらうか、破産管財人の同意を得て行うべきです。

     

    (建築中の建物の保全)
    工事途中の建物を長期間放置しておくと、風雨によって建物が劣化してしまうような場合には、応急措置としてブルーシートをかけるなどの保全行為については、損害の拡大を防ぐために許されると考えられますが、念のため、破産管財人の了承を得て行ってください。

     

     

    ■破産管財人からの解除


     

    工事が未完の場合、基本的に、施工業者の破産管財人は、請負契約を解除するか、あるいは残りの工事を履行して、注文者に対し、残りの請負代金を請求するか、選ぶことができます(破産法53条1項)。ただし、その工事が破産をした施工業者にしか完成することができない工事の場合には、同条は適用されません(最高裁昭和62年11月26日判決) 。

     

    破産管財人としては、工事を継続する方が支払う経費よりも、入ってくる請負残代金の方が多く、破産財団の増殖が見込める場合は、工事の継続を選択し、工事の完成を目指すことになります。

     

    もっとも、一般的には、契約不適合や、事故発生時の労災補償の問題などから、工事継続は難しく、解除を選択することが多いと考えられます。

     

    他方、注文者は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に、請負契約を解除するか、それとも工事を遂行して請負代金を請求するのか確答するよう催告することができます。これは、どちらかを選ぶよう催告することであり、残工事を履行せよと催告したり、請負契約を解除せよと催告することではありません。

     

    破産管財人が、その期間内に確答しないときは、請負契約は解除したものとみなされます(同条2項)。

     

    ■請負契約が解除された場合の取扱


     

    (出来高が前払金よりも多い場合)

    契約が解除されたとき、施工業者が既にした工事のうち可分な部分の給付によっても、注文者が利益を受けるときは、その部分は仕事の完成とみなされます。この場合、破産管財人は、注文者に対し、注文者が受ける利益の割合に応じて残代金を請求することができます(改正民法634条)。

     

    (前払金が出来高よりも多い場合)

    他方、出来高を査定した結果、注文者が施工業者に対し支払っていた前払金の方が、出来高よりも多い場合は、注文者は、破産財団に対し、その超過額について、施工業者に支払った代金が破産財団中に現存するときは、その返還を求めることができますし、現存しないときは、その価額について、財団債権として保護され(破産法54条2項)、破産債権よりも優先して弁済を受けることができます。

     

    ただし、財団債権として保護されるのは、あくまで出来高よりも多く支払った前払金の超過額のみです。

     

    破産管財人により、契約が解除された場合、例えば次のような、注文者が被った損害は、破産債権として権利行使することしかできません(同条1項)。

     

    ・建物や設備の劣化を防ぐため、注文者が支出した工事の保全費用
    ・他の施工業者に、残りの工事を引き継がせたことにより、総額の工事費用が増えた分
    ・工事が遅れたことによる損害

     

    破産債権の配当が受けられるかは、財団財産がどれだけ形成されるかによりますが、実際には、全く配当を受けられないか、配当を受けられても、破産管財人により認容された破産債権額の数パーセント程度のことがほとんどなので、あてにはせず、いくらかでも配当を受けられたら儲けもの程度に考えておいた方がよいでしょう。

     

     

    ■工事出来高の査定方法


     

     

    工事の出来高は、工事代金の内訳明細書や、工程表、その他関係資料等を参考に、工事費目ごとの進捗率に応じて算定します。

    破産管財人としては、破産会社の従業員などの協力を得て、工事の出来高の査定をしていくことになります。

     

    これに対し、注文者からは、引継業者が見積もった残工事費用を、当初の工事代金から控除して、既施工部分の現在価値を出来高とすべきとする主張をすることもありますが、このような主張は、本来、破産債権となるにすぎない増加工事費用を相殺的処理により優先弁済受けるのと同様の処理になりますので、破産管財人により認められないでしょう。

     

    ■違約金の請求・相殺の可否


     

    破産管財人により、破産法53条に基づき、請負契約が解除された場合、注文者は、破産管財人(破産財団)に対し、請負契約書の違約金条項に基づき、違約金を請求することができるでしょうか?

     

    裁判実務では、違約金請求ができないとする裁判例が多く存在します(東京地裁平成27年6月12日判決、札幌高裁平成25年8月22日判決等)。

    同条による解除権は、法によって破産管財人に与えられた特別の法定解除権であり、違約金条項の適用はないと考えられるからです。

     

    また、仮に、違約金が発生する場合でも、その違約金は、破産手続開始決定後に発生した破産債権ですので(54条1項)、注文者が、これと請負代金支払債務などと相殺主張することはできない(67条1項)と考えられます。

     

     

    ■下請業者や設備業者が所有権を主張する場合


     

    工材や設備を納品した下請業者や設備業者が、破産した施工業者から代金が支払われていないことから、これらの所有権を主張して張り紙をしたりする場合があります。

     

    この点、いったん納品した以上、これらの所有権や占有は、施工業者に移転しており、下請業者らが、同意なく引き揚げてくることは自力救済行為として許されません。

     

    もっとも、設備など動産の売主には、動産売買の先取特権が認められ(民法321条)、破産法上、別除権として保護され(破産法2条9号)、破産手続きによらずして、破産管財人の同意を得て、引き揚げることができますので(同法65条)、破産管財人と下請業者らとの話し合い次第となります。

     

    ただし、下請業者らは、既に木材等が建物として組み上げられた場合、施工業者の注文者に対する請負代金債権について、原則として、物上代位権を行使することはできません。

    例外的に、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、その部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができます(最高裁平成10年12月18日決定)。

     

    また、下請業者らと、注文者はとの間には、直接の契約関係がなく、下請業者らは、注文者に対し、直接、下請代金を請求することはできません。

     

    ■残りの工事の進め方


     

    破産管財人により請負契約が解除された場合、残りの工事を施工してもらえる業者を探し、改めて請負契約を締結することになります。

     

    この場合、それまで工事を進めていた下請業者などが信頼できるところであれば、そこと直接契約を締結したり、破産した施工業者の社員(現場監督)と直接、工事監督ないしコンサルティング契約を締結したり、足場などのリース業者と直接リース契約を締結したりして、いったん中断した工事を継続する方が、関係者が事情を知っていて、時間もコストも節約することができる場合があります。

     

    実際に、そのようにして、リカバリーされる方もいらっしゃいます。

     

まずは相談することが
解決への第一歩となります。

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