虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

不動産売買において、買主が売買契約締結後、購入意欲をなくしてしまったが、手付金の放棄や、違約金請求を免れるために、ローン特約を悪用し、意図的に融資を受けられないようにし、売買契約を無条件で解除しようとする場合があります(いわゆる、ローン壊し)。

 

このように、買主側に不誠実な対応がある場合には、ローン特約による解約が認められない場合があります。

ローン特約

 

■ローン特約とは


 

 

ローン特約とは、不動産売買契約において、買主が金融機関から融資を受けることができない場合に、無条件で売買契約を解除し、売主に支払った手付金の返還を求めることができる旨の特約をいいます。

 

マンションや住宅の買主は、金融機関から融資(住宅ローン)を受けて売買代金を支払うことが多いですが、買主に落ち度はないのに、審査が通らず、融資を受けることができなかった場合にまで、手付金を放棄したり、損害賠償を負わなければいけないのは、買主に酷であることから設けられている特約です(東京地裁平成16年8月12日判決等)。

 

■ローン特約による解約の効力が争われる場合


 

 

このように、融資を受けることができなかった場合、ローン特約に基づき、買主は、無条件で売買契約を解除できるのですが、次のような場合には、売主からローン特約による解約の効力を争われ、違約金を請求される場合があります。

 

① 買主が融資成立への努力義務を怠った場合
② 買主の責めに帰すべき事由によって融資が成立しなかった場合
③ ローン解約できる期限を過ぎた場合

 

■買主の努力義務


 

 

買主は売買契約締結後、融資成立に向けて誠実に努力すべき、信義則上の義務を負い、これを怠った場合には、ローン特約に基づく解除をすることができません。

 

買主の努力義務としては、次のようなことが挙げられます。

・速やかに所定の融資申込書及び必要書類を提出すること
・融資審査手続において、金融機関からの照会があれば、誠実に対応すること(適切に応答し、事実に反する説明をしない)
・金融機関から、合理的な増担保の要求があれば、これに応じること

 

■ローン特約による解約を認めなかった裁判例


 

 

(東京地裁平成10年5月28日判決)

同判決は、以下の事情により、ローンが実行されなかったことから、ローン解約を認めず、買主からの手付金返還請求を否定しました。

 

・共同買主XとA(妹)のうち、Aが共同買主という立場にあったにもかかわらず、連帯保証人になることを拒み、さらには共同買主となることまで難色を示したこと

・同時期に、Xが当初申告しないでいた高血圧症を自主的に申告したことによって、団体信用生命保険の審査が最終的に否決されていること

 

(東京地裁平成26年4月18日判決)

同判決は、一般にローン特約が売買契約に付される場合、売買契約の締結に先立ち買主側で金融機関に事前相談を行い、融資の見通しを示された上で売買契約を締結し、この見通しに沿って融資の申込み(本申込み)を行うことが予定されていることからすると、ローン特約が適用される融資の申込みとは、金融機関から示された見通しに沿った内容での申込みであるところ、買主らは、示された融資条件に沿った融資の申込みをしたということはできないとして、ローン特約に基づく解除を認めませんでした。