共有不動産について、このようなお悩みはありませんか?
- 共有不動産を分割したいが、分割方法をめぐって話がまとならない。
- どのような分割方法が適切か知りたい。
- 賃貸借契約をするには、共有者全員の同意が必要なのか?
- 共有不動産を一人で使用している共有者に対し、明け渡しや金銭請求をしたい。
共有不動産の管理・分割のポイント
Point1共有不動産の分割方法
現物分割
共有持分割合に応じて、対象不動産を物理的に分ける方法です。建物については通常現物分割は困難で、土地が対象になりますが、分筆しても有効利用できる程度の広さの土地であることが前提になりますし、どのような形状、広さで分筆するかについて、協議が必要になります。また、分筆をするには、土地家屋調査士による測量と地積測量図の作成が必要になります。
価格賠償(代償分割)
一部の共有者が不動産の全部を取得する代わりに、他の共有者に対し金銭(代償金)を払わせる分割方法です。誰が共有不動産を取得するか、代償金をいくらとするか、取得者が代償金を支払うだけの資力があるか、資金調達できるかが問題となります。
換価分割
共有不動産を第三者に売却し、売却代金を共有持分割合に応じて分ける方法です。不動産の保有にこだわらないのであれば、公平で簡明な方法といえます。ただし、判決による換価分割では競売を用いるため、売却代金が低くなるおそれがありますので、注意が必要です。また、訴訟や競売手続きでは時間を要しますので、共有者間の合意により任意売却ができるのであれば、その方がよいでしょう。
Point2分割方法の選択基準・訴訟の特色
全員の合意があれば、分割方法は自由
共有者間の話し合いにより、合意に至ればいかような分割方法もとることができ、分割方法に優劣はありません。しかし、共有者全員の同意が必要であり、一人でも同意しないときは、訴訟(調停という方法もありますが、賃料増減額請求とは異なり、調停前置主義は採られておらず、あまり多くは利用されていません)により解決を図ることになります。共有物分割訴訟は、固有必要的共同訴訟(民事訴訟法40条)であり、共有者全員が原告あるいは被告になる必要があります。共有者として当事者になる者は、共有持分権の登記を具備している者で、登記を具備していない譲受人は他の共有者に対抗することができません(最高裁昭和46年6月18日判決)。
訴訟における分割方法の優劣
一般的に、判決では、①価格賠償(代償分割)、②現物分割、③換価分割の順に選択されます。共有物分割訴訟は、形式的形成訴訟と呼ばれるもので、実体法上の権利・法律関係の変動を裁判所に求める(形成の訴え)、実体法上に要件の定めがない(非訟事件)という通常の訴訟とは異なる性質を有しています。裁判所は当事者の主張に拘束されず、当事者が主張していない分割方法を選択することもできます(もっとも、共有物分割訴訟を提起する者は、希望する分割方法を明示すべきです)。また、原告の主張・立証が不十分でも、請求が棄却されることはなく、何らかの分割方法を示す判決が下されます。
全面的価格賠償
当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(全面的価格賠償)による分割をすることが許されます(最高裁平成8年10月31日判決)。
現物分割できない場合
現物分割が不可能な場合や、現物分割すると著しく価値が減少する場合は、現物分割ではなく、換価分割をすることができます(民法258条)。土地上に建物があって現物分割できない場合、土地が極度に細分化する場合、分割後の土地が狭かったり、建築基準法の建築制限を受けて、価値が20~30%下落するような場合です。
Point3共有不動産の管理
共有不動産については、共有者全員の同意が必要か、共有持分価格の過半数による同意が必要か、共有者一人でできるかについては、行為の性質によって異なります。
変更・処分行為
以下のような行為には共有者全員の同意が必要です(民法第251条)。
・土地の造成
・建物の建築・建物の大規模修繕・建替え
・山林の樹木伐採
・売買契約・贈与契約の締結、解除、取消
・短期賃貸借契約の期間を超えたり、借地借家法の適用のある賃貸借契約の締結
・地上権や地役権など用益物権の設定
・抵当権など担保物権の設定
軽微変更
2023年(令和5年)4月1日から施行される改正民法により、共有物の変更のうち、その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができるようになります(民法251条1項、252条1項)。軽微変更の例としては、砂利道をアスファルト舗装することや、建物外壁・屋上防水等の大規模修繕工事があげられます。その他は、同様の文言を採用している区分所有法17条の解釈や裁判例を参考することになるでしょう。
管理行為
以下のような行為には、共有持分価格の過半数を超える共有者の同意が必要となります(民法第252条本文)。
・共有不動産の使用方法の決定
・賃貸借契約の解除(最高裁昭和47年2月18日判決)
・使用貸借契約の解除・明渡(最高裁昭和42年8月25日判決)
・賃借権譲渡の承諾(東京地裁平成8年9月18日判決)
・賃料の増額・減額(東京地裁平成14年7月16日判決。ただし、大規模なビルのサブリース契約におけるマスターリース契約の賃料の変更を除く)
保存行為
以下のような行為は、共有者一人でできます(民法第252条但書)。
・修繕(大規模修繕を除く)
・無権利者に対する明渡請求・抹消登記請求
Point4共有持分権による妨害排除・原状回復請求
最高裁平成10年3月24日判決は、畑として使用していた共有土地について宅地造成工事を行い、非農地化させた場合において、次のように判示し、共有持分権に基づく妨害排除請求として、工事の禁止と原状回復を認めています。
「共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。」と判示しています。
その理由について、「共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法249条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法251条)からである。」と説明しています。
Q&A
Q
現物分割ができる場合、土地の面積を共有持分の割合に応じて分けるのでしょうか?
A
いいえ、そうではありません。土地の形状や、位置(特に接道関係)によって、土地の価値が変わりますので、土地の評価額に応じて分割するのが公平であり、原則として、持分の割合に応じ、実際の使用収益の状況や隣接地との関係を考慮し、位置的・地形的に各所有者にとって最も利用価値が高くなる方法によって分割されます。
現物分割をし、価値の過不足について賠償金(補償金)の支払いによって調整する方法(部分的価格賠償)がとられることもあります。
Q
共有する不動産が数カ所に分かれて存在する場合、これら不動産を一括して分割対象とすることはできますか?
A
できます。最高裁昭和62年4月22日判決は、数か所に分かれて存在する多数の共有不動産を現物分割する場合には、これらを一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの不動産を各共有者の単独所有とすることも許されるとしています。
Q
共有者の一人が合意なく共有不動産を単独で使用していますが、明け渡しを求めることはできますか?
A
共有者は、たとえ共有物の価格の過半数に満たない少数持分権者であったとしても、共有不動産全体を占有・使用する権原を有していますので(民法第249条)、他の共有者は、基本的に明け渡しを求めることはできません(最高裁昭和41年5月19日判決、最高裁平成12年4月7日判決)。この場合、他の共有者は、共有物の使用・収益について協議がまとまるか、共有物の分割がなされるまで、不当利得または不法行為に基づき、賃料相当額の金銭を請求できるにとどまります。
ただし、2023年(令和5年)4月1日から施工改正民法により、このように共有物を使用する共有者があるときも、その同意を得ることなく、共有持分の過半数の決定により、別の共有者に独占的に使用させることができるようになります(改正法252条1項後段)。もっとも、使用している共有者に配偶者居住権や使用借権が成立している場合には、それら権利が消滅していなければなりません。
これに対し、裁判例で、共有者の一人に共有不動産の占有が実力で強奪されたり、通路の通行を妨害されたり、共有土地上に無断で建物が建築されており、工事が未了のような場合には明渡や差止を認められています。例えば、仙台高裁平成4年1月27日判決は、共有建物を長年平穏に占有していた共有者を実力で排除して自らが単独占有するに至った共有者に対する明渡請求を認めています。
Q
共有者の一部が協議に応じませんが、他の共有者と協議することなく、直ちに共有物分割訴訟を提起することはできますか?
A
できます。共有物分割訴訟は、共有者間で分割協議が整わなかったことが訴訟提起の要件となっていますので(民法258条1項)、訴訟提起に先立って、共有者間で協議を行う必要がありますが、ご質問のようなケースでは、協議を経ずに訴訟提起することが認められています(最高裁昭和46年6月18日判決)。