賃料増額・減額

賃料増額・請求について、こんなお悩みはありませんか?

賃料増額

賃料増額・減額請求のポイント

Point1賃料増減額請求の要件

賃料が諸事情の変化により客観的に不相当となったことです。「不相当となったとき」とは、前回一番最後に賃料を決定した時点(直近合意時点)以降に、従前賃料を当事者に強制するのことが、諸事情を考慮しても酷となるような場合です。賃料増減額請求は、事情変更の原則の一適用とみられています。

賃料が不相当になったか否かの判断要素

・土地または建物に対する租税その他の負担の増減

必要諸経費の増減のことを意味します。必要諸経費としては、土地・建物の固定資産税・都市計画税、建物の維持修繕費、減価償却費、損害保険料、管理に必要な費用などがあります。

・土地または建物の価格の上昇・低下その他の経済的事情の変動

家賃は、純賃料(土地及び建物価格に期待利回りを乗じたもの)に、必要諸経費を加えたものからなるため、土地または建物の価格の変動は、純賃料の算定に影響を及ぼします。次に、「その他の経済的事情」とは、具体的には、物価指数、国民所得、通貨供給量、賃金指数などが考えられます。

・近傍同種の建物の家賃(比隣賃料)水準との比較

もっとも、賃料は、契約が始まった時期、経過期間、不動産の位置、建物の状況、権利金の有無・金額、賃貸人と賃借人の関係、契約締結時ないし改定時の賃貸借の需給関係、賃貸借の動機など様々な要素が大きく影響し、これらを適正に補正することは困難で、比隣賃料は、その地域の賃料水準の参考程度にしかならないと考えられます。

・現行の賃料が定められてから相当期間が経過したこと

相当期間の経過は、賃料増減請求権発生の独立の要件ではなく、不相当性を判断する一要素に過ぎません。経済事情の激変などにより家賃が不相当になった場合には、前回の家賃改訂時よりそれほど期間が経過していなくても、賃料の増減が認められる場合があります。

・現行賃料額が定められた事情など当事者間の具体的な諸事情

Point2賃料増減額請求の行使方法

後述のとおり、賃料増減額請求の意思表示は、相手方に到達した時点で「将来に向かって」効果が生じます。そこで、相手方に賃料増減額請求の意思表示をしたことを客観的に証明するため、配達証明付きの内容証明郵便によって通知するのが一般的です。また、増減額後の賃料額や、その根拠を明示してすべきです。

Point3賃料増額・減額請求の効果

賃料増減額請求の効果は、その意思表示が相手方に到達した時点で、効果が生じ、これによって、賃料は増額(減額)されます(その法的性質は形成権と解されています)。このように説明すると、賃貸人あるいは賃借人の一方的な意思表示によって、一方的に賃料が増額(減額)されてしまうのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、そういうわけではありません。当事者間に争いがある場合、賃料増減額の当否・範囲は、裁判所の裁判によって定められることになります。増減額は、必ずしも当事者の意思表示の内容によって定められるわけではなく、経済的事情の変動等を考慮要素として客観的に定められるのです。

また、賃料増減額請求の効果は、意思表示をした時(正確には、意思表示が相手方に到達した時)から「将来に向かって」効果が生じます(借地借家法第32条1項)。したがって、意思表示時よりも過去に遡って、賃料を増額したり、減額したりすることはできません。

Point4賃料増額・減額請求を受けた場合の対応

賃料増額請求を受けた場合

賃借人が、賃貸人から賃料増額請求を受けた場合、当事者間に協議が整わない時は、賃借人は、相当額を定める裁判が確定するまでは、自らが相当と認める額(客観的に適正な額である必要はありません。基本的には、従前の賃料額と同額であり、それよりも定額ではいけません。)の賃料を支払えば足ります。

ただし、裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足額があるときは、賃借人は、賃貸人に対し、不足額に支払期限から年1割の利息をつけて支払わなければなりません(借地借家法第32条2項)。

調停が成立したときや、判決が確定した時に、不足分を清算して支払えば、賃貸借契約を解除されることはありません。もっとも、賃借人による支払額が、賃貸人が負担している対象不動産の公租公課の額をも下回り、そのことを賃借人が知っていた時は、債務の本旨に従った履行をしたとはいえず、解除されるおそれがあります(最高裁平成8年7月12日判決)。

また、賃貸人が、増額した額でなければ受け取らない場合や受け取らないことが明らかな場合は、賃借人は法務局に賃料の供託をすべきです。受け取らないからといって供託もせずに放置すると、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除されるおそれがあります。

賃料減額請求を受けた場合

他方、賃貸人が、賃借人から、賃料減額請求を受けた場合、当事者間に協議が整わない時は、賃貸人は、相当額を定める裁判が確定するまでは、自らが相当と認める額(特段の事情がない限り、従前の賃料額と同額)の賃料の支払を請求することができます。賃借人は、減額された額が妥当であると考えていても、金額が確定するまでの係争中、暫定的であっても、賃貸人からの請求額を支払わなければなりません。それを下回る賃料額の支払いを継続し、信頼関係の破壊に至った場合、賃貸借契約を解除されるおそれがあります。

ただし、裁判が確定した場合において、既に支払いを受けた額が正当とされた額を超えるときは、その超過額に受領時から年1割の利息をつけて返還しなければなりません(同法第32条3項)。

Point5賃料増減額請求の法的手続き

調停前置主義

賃料増減額の意思表示をした後、当事者間の交渉がまとまらない場合、まず調停の申し立てをし、調停で解決をはかることになります(調停前置主義。民事調停法第24条の2)。調停は、原則として、裁判官である調停主任1名と不動産鑑定士や弁護士など専門的知識を有する民事調停委員2名以上で構成され、調停において当事者間で合意が成立し作成された調書は、確定判決と同一の効力を有します(同法第16条、民事訴訟法第267条)。

調停に代わる決定

当事者間で、合意が成立する見込みがない場合において、裁判所が相当と認める時は、民事調停委員の意見を聴いて、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情をみて、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件解決に必要な決定をすることができます(調停に代わる決定。民事調停法第17条)。当事者は、かかる決定の告知の日から2週間以内に異議申立てをすることができ、この異議申し立てにより決定は失効します。他方、同期間内に異議申立てがなかった場合、調停に代わる決定は、確定判決と同一の効力を有することになります(同法第18条)。

訴訟

調停がまとまらない場合には、改めて訴訟提起をし、訴訟により解決を図ることになります。なお、調停不成立の日から2週間以内に訴訟提起した時は、調停申立の時に、その訴えの提起があったものとみなされます(同法第19条)。

Point6継続賃料の鑑定手法

賃料額が不相当になったことについては、その立証のため、事前に、不動産鑑定士により鑑定を依頼すべきでしょう。賃料増減額請求の対象となるのは、継続賃料(賃貸借が継続している場合の支払賃料)ですが、その算定手法については、次のものがあります。これらの手法はそれぞれ合理性があり、どれが原則であるとはいえず、事案ごとに組み合わせて、総合判断されます。

利回り法

純賃料(建物と敷地価格に期待利回りを乗じて得られた額)に、必要経費(公租公課、維持修繕費、減価償却費、管理費等)を加算する手法

スライド法

従前の賃料を基準として、その後の経済変動の指数(物価指数、賃料の変動指数等)を乗じる手法

差額配分法

対象不動産の経済価値に即した適正な賃料と実際の支払賃料との差額について、契約内容や契約締結の経緯等を総合的に勘案し、賃貸人に帰属すると判断される額を、従前の支払賃料に加算して算出する手法

賃貸事例比較法

近隣の同種同等の賃貸事例の賃料相場と比較し、個別要因による補正をして算出する手法

Q&A

Q

賃料を減額しない旨の特約は有効ですか?

A

無効です。
一定期間増額しない旨の特約は有効ですが(借地借家法第11条1項、第32条1項但書)、減額しない旨の特約は無効です。同条項は強行法規であり、賃借人に不利な条件は無効だからです。但し、定期借家契約においては、特約で賃料減額請求についても排除することが可能です(第38条7項)。また、判例上、サブリース契約において、賃料の自動増額特約(例えば、3年ごとに5パーセントずつ賃料を増額する旨の特約)が定められている場合にも、賃料額が不相当になった場合には、賃借人は自動改定特約に拘束されず減額請求することができるとされています。

Q

将来の賃料は、当事者の協議して定めるという特約がある場合、協議をしないで、賃料増減額請求をすることはできますか?

A

このような特約は、できる限り訴訟によらずに当事者双方の意向を反映した結論に達することを目的としたものであり、当事者間に協議が成立しない限り賃料の増減を許さないとする趣旨のものではありません。必ず協議を経なければならないとまでいうことはではなく、協議が進まない場合においては、当事者が訴訟により解決を求めることを妨げるものではありませんので、協議を経ないでなされた増減請求の意思表示は無効になりません(最高裁昭和56年4月20日判決)。

Q

サブリースに関し、賃料減額請求の当否及び相当賃料を判断するために考慮される事情としては、どのようなものがありますか?

A

借地借家法第32条本文には、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価値の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定められていますので、基本的に、これら事情が考慮されます。もっとも、最高裁平成15年10月21日判決(判例時報1844号50頁)は、サブリース契約が、賃借人の転貸事業の一部を構成するものであり、サブリース契約における賃料額及び賃料自動増額等に係る約定は、賃貸人が賃借人のために多額の資本を投下する前提となったものであって、これらの事情は契約当事者が当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合に、重要な事情として十分に考慮されるべきである旨判示しています。詳しくは、こちらをご参照ください。

Q

賃料増額・減額請求の調停は、どこの裁判所に申し立てることができますか?

A

紛争の目的である宅地もしくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てるのが原則ですが、当事者間で合意すれば、その所在地を管轄する地方裁判所に申し立てることもできます(民事調停法24条)。このように、あくまで対象不動産の所在地の裁判所にしか管轄がなく、例えば、サブリース契約において、賃貸人(オーナー)の住所も、賃借人(サブリース業者)の所在地も東京であるにもかかわらず、対象不動産が地方という場合には、その対象不動産の所在地を管轄する裁判所に調停の申立をする必要がありますので、注意が必要です。

まずは相談することが
解決への第一歩となります。

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